タイムスリップ165 新しい地平2

26.04.30

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




内閣官房に行った翌日、佐川は直属上長である吉井部長に状況を報告する。


吉井 「聞いたぞ、お前、内閣官房に出向か?
お前の後釜を考えておかないといかんな」

佐川真一 「いえいえ、まだどうなるか分かりません。会社は私を向こうに押し付ける気でいますが、相手は考えてもいなかったでしょうし。
私の後任には、どこかの工場の環境課長を持ってくれば問題ないでしょう」

吉井 「山口はまだ若いしな・・・工場で行き場のない環境課長はたくさんいる。
工場から来て環境課長になったのはお前が第一号だ。その後任も工場の課長なら現場の士気は上がるだろう」

佐川真一 「とはいえ、環境部門そのものが長いことないでしょう」

吉井 「まだ環境部ができる前、お前が環境部門はテンポラリー(一時的なもの)だと言っていたな(第45話)。確かに今は公害防止の重要性を忘れた健忘症が多い。
今の社長はボケてないと思うが、(だい)()われば無用と思うだろう。環境部はあと何年続くか?」

佐川真一 「社内外とも環境不祥事は、現在、落ち着いています。しかし環境管理が重要でないと思われるようになれば、担当者の評価が落ち、士気が落ちて真面目に仕事をしなくなります。そうなると不祥事の元になるでしょう。

そういえば環境報告書ももう賞味期限切れのようで、どこもCSRレポートとかに改名しましたね。名が変わるだけならともかく、内容もきれいごとばかりです。

吉井部長はご存じですかね、環境報告書が始まった1994年頃は各種指標など会社が把握しておらず、内容は観念的で、自然を大切にしようなんてものでした。
1998年頃から使用水量、エネルギー、廃棄物量などが書かれるようになりました。でもまともになったのは産廃全てにマニフェストが義務化された1999年から、環境報告書の数字が信頼できるのは1998年からです」

吉井 「すると、たった4年前か!

佐川真一 「やっとまともになったと思えば、また夢物語への退化ですか。
もう環境の時代じゃないという風潮になると、環境部は解体されて、公害防止とか省エネは生産技術の一部門になると思います。そうなると環境管理の基本である昔からの公害対応とか廃棄物管理などで問題が起きそうです」

吉井 「環境不祥事か・・・大騒ぎしたのは何年前になる?」

佐川真一 「部長、たった2年前ですよ(第117話)。私も暇しているように見えるでしょうけど、毎月の工場からの報告とか、各種定期測定結果の写しを見てチェックしています。
ときどき測定漏れとか数字の間違いとかあります。それを問い合わせるだけで、気付け薬になります。これからは山口さんがしてくれると良いのですが」

吉井 「ISOはどうなんだ? お前は日本のISO認証を良くしたいと言っていたな」

佐川真一 「ちゃんと対応してますよ。問題があれば声を大にして大騒ぎにしています。ですから前世のように審査員に言われるままという状況は、社内の工場も関連会社も脱しました。とはいえ審査員のレベルは低いままですね。
それと認証制度に自浄作用もなく、おかしな考えの人が認証業界で大手を振っていることもありますね・・・」

吉井 「西東とかいう審査員と討論した話を聞いたぞ。けちょんけちょんにしたそうじゃないか」

佐川真一 「彼が有益な環境側面の権化です。討論でも間違いを認めてませんから、どうなりますか」

吉井 「いろいろ考えるとISO認証なんて何の意味もなく、御利益もなさそうだな。
お前と初めて会った7年くらい前に語っていたことだけど」

佐川真一 「結論を言えば、理想というか当たり前のレベルまで、持っていくことはできませんでした。
阻害要因としては審査員のレベルが低いのを改善できなかったこと、認証機関が認証ビジネスを長続きさせようという気がないこと、認証制度の監視や監督が不十分もあります。

というか、そもそも認証が社会に役立つと認められていないということですね。例えば審査で間違いがあっても、会社側は大騒ぎしないところが多い。要するに審査する方もされる方も社会も、誰も認証制度を重要視してないのです」

吉井 「じゃあ、お前の理想を形にできないまま幕を引くのか?」

佐川真一 「前世と同じくISO認証は社会で認知されていません。ですからどうでも良いのです。猫を追うより皿を引けです」

吉井 「ISO認証は猫か?ネコ

佐川真一 「猫以下でしょ、ネズミですか。打つ手がありません。本当は認証を止めるのが正しいのでしょうね。
審査で法規制などに重大な問題を起こせば認証制度の致命傷になります。

そうはならなくても認証が、付き合いとか出向者対策なら、会費とかみかじめ料と思うだけです。認証にかかる費用は従業員一人当たり年数万でしょう。税金と思えばたいしたことはない。
あと10年ではないかもしれませんが、世の中から見捨てられ消滅するでしょう」

吉井 「お前の手におえないならワシがかき回してみようか?」

佐川真一 「余計なことをすることもありません。頭と体力を使うだけ損です」

吉井 「そうだなあ~、ところでワシもこれからどうするか・・・」

佐川真一 「吉井部長は執行役員ですから、どこかの事業部へ異動ですか?」

吉井 「下山と同じ年なんだが、あいつは今年人事部長兼執行役になるそうだ」


注:執行役は会社法で定められた委員会設置会社の役員であり、執行役員は従業員である。
役員は会社と委任契約を結び、労基法は適用されない。
従業員は会社と雇用契約を結び、労基法や労働契約法の適用を受ける。


佐川真一 「へぇ、人事の頂点ですか。たいしたものですね」

吉井 「お前だって現場上がりで部長級になったなら兵隊元帥ってやつだ、不満は言えないぞ」

佐川真一 「いえいえ、不満などありません。ただ驚いただけですよ。
となると吉井部長もとなりますか?」

吉井 「それが行くところがないから困っている。
まあ急ぐ話でもない。そのうち行先を見つけるわ」




上と話をしたら、次は下との話だ。
現在、本社環境部の工場管理課には、佐川が課長、次席が山口、その下に公害防止担当の大谷、廃棄物担当の山本、省エネ担当の佐々木である。

若手3人も今は皆一人前になった。佐々木は異動してきた3年前は、ISO教に染まっていて話が通じず佐川も参ったが、今は現実を理解して仕事をしている。
工場にいたとき現実を知らず本社に来て現実を知るとは、おかしく感じるがそんなこともある。

佐川がいなくなってからどうするか、山口と話をする。


佐川真一 「この工場管理課の仕事は公害防止、省エネ、廃棄物管理が3本柱だ。環境監査は、監査部の下請けだから、技術的な整備とか教育はウチ担当だが、年度ごとの計画・実施・是正フォローは監査部任せだ。

それで3本柱をどういう体制で進めていくかだが、3人ともここに来て3年になる。まあ、そろそろ工場に戻して係長にするという流れだろう。とはいえ一度に3人抜けられては困るから、毎年一人ずつ引継ぎをして入れ替えていくという流れにした方が良い。

ただ環境部、特に工場管理課は2000年代つまり2010年までに消滅するかもしれない。だから無理して技術の伝承を図ることもないのかもしれない

山口 「流れは分かります。今現在は問題なくても、環境部廃止の先には工場での環境事故や違反の多発が見えますね」

佐川真一 「この会社は1993年頃に先代の環境部を廃止して失敗しているから、同じことを繰り返しそうな雰囲気だね。とはいえ廃止するなと主張しても通らないだろう。

公害防止から環境保護にトレンドが変わったのが1993年頃、20世紀末に環境違反と事故が頻出して対策をした。のど元過ぎてそれを忘れ、これからは温暖化防止一筋だろう。日本人だけでなく先進国は流行に流される。
監査部の環境監査でそうならないように監視してほしいところだ」

EUは中世だ

注:2002年には、フロン対策はほぼ完了してオゾン層復活が見えていた。そして環境保護ウイルスにやられた欧州は、次なる狙いを地球温暖化と有害化学物質の魔女狩りを始めた。
まったく欧州なんて先進国どころか中世から進歩していない。


山口 「監査部も20世紀末に、環境不祥事が続発したときは環境監査に身を入れましたが、このところ問題も起きず真剣にやっているのか心配です」

佐川真一 「まあ、何事も常に緊張しているわけにもいかない。しっかりする期間、力を抜く期間が繰り返して、少しづづ向上していくのかもしれないよ」

山口 「そんなあ~」




佐川真一 「ISO認証だけどさ、長期的、まあ10年後をめどに、認証はすべて返上しようと考えていた」

山口 「私もそう思っていました。費用対効果が全く望めません。今あるメリットは建設工事の経営事項審査での加点だけですか。最大で14点だそうです」

佐川真一 「正直言って我が社では無関係だな。グループ企業で、据え付け工事などをするところが該当か?」

山口 「ウチの関連会社で、数点の加点を気にするところがありますか?
とはいえ、本部長は日経の環境経営度調査を気にしています。ISO認証をしていないと、評価が下がるのではないですか」

佐川真一 「日経の環境経営度調査(注1)でも最近ISO認証を重視していないようだ。日経の調査は実を求めて常に見直しをしているからね」


注:現実の日系環境経営度調査でISO認証の有無を評価しなくなったのは、この物語より遅く2005年以降だと思う。


山口 「佐川さんはISO14001認証の重要性がどんどん下がるとお考えですが、単純に認証を返上することで良いのでしょうか?」

佐川真一 「日本では始めることより終えることの方が難しいよね。でも認証維持にかかる費用、その他審査におけるトラブルなどの費用を正確に算出すれば、認証を継続しようという人は少ないんじゃないかな」

山口 「おっしゃる通りですが、費用算出は難しいですね」

佐川真一 「乱暴なことを言うけれど、社内事業所と関連会社に対する監査部が環境監査を始めた4年前だ。それからの監査報告全部を引っ張りだして、報告書にある環境法違反、環境事故の状況をすべて洗い出してごらん。

ISO14001認証している所と認証していないところに分けて、ISO認証が防止に役立っているかどうか分析すれば良い。大学の先生なら細かいデータが得られないだろうけど、我々は詳細なデータが得られる。
きっと面白い結果が分かるんじゃないか?」

山口 「なるほど、そう考えると方法はあるものですね。
どんな結果になるか想像もつきませんが、案外ISO認証することによってパフォーマンスが向上しているかもしれませんよ」

佐川真一 「もちろんそうでなくちゃならないよ。だが何事も費用対効果だ。ISO認証に年間1,000万かけて500万の成果なら、認証返上するのは当然だろう」

山口 「メリットには会社のブランドイメージとか、日経環境経営度調査とかも盛り込むわけですね」

佐川真一 「ブランドイメージをどう評価するか、選択するときISO認証を考慮しますか? なんて正攻法の質問をしたら認証はまったく考慮外だろうな。環境経営度のランキングを購買性向に反映しているとは思えないな、要するにISO認証なんて歯牙にもかけないだろう。
総合的にどれくらいプラスになるかだ。まさか認証して環境管理がマイナスにはならんだろう」

山口 「それさえも現状では分かりませんね。ISOでは法を守れ、著しい環境側面を管理せよというのが柱です。それはISO認証しなくてもしなくちゃいけないことで、そういう見方をすればISO認証によって環境管理が良くなるという理屈はないですから」

佐川真一 「まあ、開けてびっくり玉手箱だ。
業界の研究会に協力を求めて論文にまとめたらいいね」


注:ISO14001認証していかほどの効果があったのか、費用対効果はどうかという研究を見たことがない。 ということはISO14001を認証すると会社が良くなるとか儲かると言った人は皆嘘つきだ。

叫び 同様に情報セキュリティも食品マネジメント、労働安全マネジメントその他についても、真に意味があるかどうか調査した結果を見たことがない。
効果がありますと言う人がいたら、ぜひ根拠を聞いてほしい。




未来プロジェクト室である。プロジェクトリーダーの伊達と石川が駄弁っていた。
ふたりと今後について話をする。


石川さやか 「佐川さんはとうとうお役人様になるの?」

伊達隼人 「佐川さんが出向すると聞きました。今後、佐川さんからの情報はどうなりますかね。
もう佐川さんから提供されないのか、不明点についての問い合わせなどどうなるのか?」

佐川真一 「中山取締役が、未来の情報の所有権・使用権は当社が保有し、政府に無償で提供するということで話をしている。特許なら通常実施権(注2)だね。
だから未来プロジェクトとの関係は従来通りで、更に内閣官房に情報提供するということです」

伊達隼人 「それを聞いて安心した。そうでないと当社としては大損害だ。
しかしリーマンショック、民衆党政権、東日本大震災とこれからの10年は大変だなあ~」

佐川真一 「そんなことはないよ。過去10年間思い返せばわかるでしょう。バブル時代の狂騒、バブル崩壊の混乱、阪神淡路大震災、オウム真理教、世紀末にはバブルの後始末的な銀行や証券会社の編成替えがあった。
1980年代を思い浮かべても、イラン革命、オイルショック、プラザ合意、ジャパンアズナンバーワン(注3)からの傲慢さ、いつの時代でも同じですよ」

話合い

伊達隼人 「歴史に詳しいというか記憶力がスゴイ佐川さんには勝てないなあ~
要するに人間の歴史は常に変動しているのね。フランシス・フクナガが『歴史の終わり(注4)』なんて本を書いたけど、歴史は終わらないか」

佐川真一 「ベルリンの壁が崩れたとき、歴史は終わったと思った人もいたんだよね。でもそんなことはありえなかった。
改革がなければ世の中、撹拌されなくて下は永遠に上になれない。だから嵐が来なければ、嵐を起こそうとする人もいるからね」

伊達隼人 「適度な変化は好ましいけど、急激なのはご遠慮したい」

佐川真一 「ということで、これからも頑張ってください。未来プロジェクトは維持費の10倍くらい利益を出さないとお取りつぶしで、伊達さんはリーダー解任だ」

石川さやか 「まさしくそうだわ。佐川さんが課長になって、ここに常駐しなくなってから低調よ。
伊達さん、しっかりしてください」

伊達隼人 「そう言われると辛いね。部長級の給料をもらっているから手放したくはない」

佐川真一 「とりあえずは、来年2003年に発生するイベントの対応策を考えることですね。そしたら2004年のイベントを考える、その積み重ねです」

伊達隼人 「終わりのないのがうれしいのか、うれしくないのか・・・」



うそ800 本日の謎

ISOMS規格でまったく独創的な仕組みとか要求事項などあったためしはない。
ウソだと思う人はいないよね。
ましてや今は共通テキストとか称して、すべてのMS規格はそれぞれ専門的な(とはいえ、大したことはない)ところ以外は皆同じ文言だ。

そして要求事項なるものは、まともな会社なら昔から対応していたものに過ぎない。
じゃあ、MS規格はマネジメントシステムをある特定の切り口(例えばQMSとかEMS)で切ったものに過ぎない。
となると規格要求を満たそうという発想する人は少ないだろう。今までのシステムで間に合っているかどうかの確認に過ぎない。

そういうMS規格の認証とはいったいどういう意味があるのだろうか?
まあ、人並みだよねということでしかない。
人並みなら余計な金を払って・・・余計なことをする必要があるのか?



次回、タイムスリップの更新は5/7(木)の予定です。
連休中は息抜きにそれ以外の文章を書いてあげる予定です。(予定は未定です)



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文末脚注
  1. 日経環境経営度調査とは1997年から始まり、2019年から日経SDGs経営調査と名目・内容とも革新した。時代と共に形より中身に変わっている。

  2. 特許の場合所有権と使用権は次のようになる。
    特許権:特許庁に登録した特許権者が持つ。独占排他権と処分権からなる。
    実施権:
    ・専用実施権(持つ人のみが使える特許権者も使えない)
    ・通常実施権(複数の人に与えることができる)

  3. ジャパンアズナンバーワンとは日本をほめたたえた本のタイトルである。
    「ジャパンアズナンバーワン」エズラ・ヴォーゲル、TBSブリタニカ、1980

  4. 「歴史の終わり(上・中・下)」フランシス・フクヤマ、三笠書房、1992






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