タイムスリップ166 新しい地平3

26.05.07

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




吉宗機械の中山取締役と佐川課長が来て数日が経った。ここは首相官邸である。
さほど大きくない会議室に数人が座っている。たいして大勢ではない。森官房長官、奥山総務相、安部(やすべ)自由党幹事長、山田危機管理監、その部下の伊藤の5名である。


本日の登場人物
大泉首相 奥山総務相 森官房長官 安部幹事長 山田危機管理監 伊藤事務官
大泉首相 奥山総務相 森官房長官 安部幹事長 山田危機管理監 伊藤事務官

大泉首相 「このメンバーは口が堅く、身体(おかね)がきれいだと信じている。
私はこれから10年かけて、大仕事を成し遂げたい。ここに集まってもらった皆さんには、それへの協力をお願いしたい」

奥山総務相 「10年とは長いですね。私がそれまで生きているかどうか」

大泉首相 「奥山先生、これは冗談ではないのです。そして10年と言うのは大げさではない。そのときは奥山大臣も私も、ひょっとすると森官房長官も引退しているかもしれない。

だから私の後に首相になるだろう安部(やすべ)先生に引き継いでほしい。安部先生の代でも完了しないかもしれない。そのときは安部先生の後継者に引き継いでほしい」

安部幹事長 「お話しが見えませんが」

大泉首相 「私は戦後レジュームと言われるものを打ち壊したい。私はこの国を、誇りを持てる国、見下されない国、希望のある国にしたい。もちろん(ほまれ)だけでなく、豊かで安全な国でなければならない。私はそれを実現しようと政治家になった。

しかし首相になっても(しがらみ)もあり抵抗勢力もあり、明治時代のように不平等条約もあるし、国連憲章は今も日本を敵国としている。制約が多すぎ前進できなかった。
そこに未来を知っているという男が現れた」

安部幹事長 「未来を知っている?」

大泉首相 「そうだ、ウソではない。ここにいる奥山先生、山田さん、伊藤君も知っている。
その男の知識を活用して、アメリカもロシアも中国も出し抜いて、日本の技術や資金を確固たるものにし産業や経済を伸ばす、それを実現したい」

奥山総務相 「おっしゃること分かりました。いくら未来の知識があっても一朝一夕では実現しませんからね。総理のおっしゃった10年の意味が分かりました」

山田危機管理監 「総理、おっしゃることは分かりますが、彼の持つ地震とか流行病の情報が、どのように戦後レジュームにつながるのでしょう?」

森官房長官 「そうですよ、北朝鮮の工作船を捕らえるくらいはできるかもしれませんが、戦後レジュームからの脱却なんて・・・」

大泉首相 「情報は使い方だ。戦争が始まれば止めることは難しい、しかし始まる前なら止めることができるかもしれない。地震を止めることはできないが、死者を減らすことはできるだろう」

安部幹事長 「目的は分かりましたし、秘密兵器も分かりました。
具体的なプランをお考えですか?」

大泉首相 「成すべき目標は明確だ。しかし具体的な計画はまだない。
それをこのメンバーで考えて政策に展開する。首相(わたし)はその旗振りしかできない」

安部幹事長 「未来の情報が、戦後レジューム脱却の手段になるというのがピンとこないのですが」

大泉首相 「そりゃ獲ってきた魚を食べるような直接的なことではない。
例えば・・・地震なら予め対応策を用意しておき地震が起きたなら速やか行動する、そういうことを積み重ねれば、我が党の信頼が高まり安定政権となり、思うように施策が取れるだろう。

どこかで紛争が起きそうなら国連で火消役を務めるとか、交渉に積極的に参加して戦争になるのを防ぐなどを積み重ねて、国際的な信頼を高め発言権を強める。
そしてゆくゆく国連憲章を書き直させるとか、あるいは国連から脱退して日米主導の新しい国際機関を作るとか」

安部幹事長 「夢が大きいですね」

大泉首相 「夢もない人間が政治家をできるか」

奥山総務相 「おっしゃることは私にとっても夢です。
具体的な行動計画はお持ちですか?」

大泉首相 「まずこれから10年後までの出来事について情報を共有したい。今後10年間の未来史を理解し、我が国はどうすべきかの目標共有、対策案の検討、それがスタートだな」

安部幹事長 「未来史ですか・・・響きが良いですね」

WTC同時多発テロ

大泉首相 「響きが良いかもしれないが、昨年の911は覚えているだろう。21世紀は悲劇で始まった。
実際、これからの20年間は、経済恐慌、大災害、パンデミック、世界中至る所での紛争、そういうことの連続だ。

そして先のことばかり考えてはいられない。今年起きること、来年起きること、それも合わせて考え、対応していかねばならないのだ」


注:同時多発テロの911は2001年だ。21世紀は2001年からだから「21世紀は悲劇で始まった」は間違いではない。
実を言って、私は21世紀の始まりは2000年と思っていた。


安部幹事長 「なるほど」

大泉首相 「10年先を考えねばならないが、同時に今年起きること、来年起きることを考えないとならない。
我々は3連戦に2回勝てばよいプロ野球じゃない。負けたら終わりの甲子園だ。

そのためにはまずは勉強会だな。みなさん、信頼できるブレインを一人か二人確保してほしい。朝鮮や中国のひも付きはダメ、お金に汚いのはダメ、口の堅い者であること、
これから定期的に会合を開く。必ずこのメンバーもしくはそのブレインが出席すること」

奥山総務相 「10年計画でしたら焦ることもないでしょう」

大泉首相 「10年計画とは10年後の意味ではない。今からの10年間だ。問題は日々発生するから、大きくならないうちに問題をつぶしていかなければならない。
今一番気にしている直近の問題は中越地震だ。2004年10月だ。これを死者ゼロにしたい」

安部幹事長 「総理、2年後に発生する地震をご存じなのですか?
あのドクター・マジックとかの予言ですか?」

大泉首相 「話せば長いことになる。とりあえず間違いなく地震が起きると思って下さい。
先日、佐川さんが置いて行った資料を配ってください。これをコピーするときは必要最低限で頼む。漏れると大問題だ」


伊藤がA4を数枚を綴じたものを各員に配る(注1)
皆はそれをパラパラ見てギョッとする。


安部幹事長 「2009年に民衆党へ政権交代ですか・・・その前に世界恐慌、2011年に東日本大震災が起きて・・・ええっ、原発で水素爆発だって。
日本は大丈夫なのですか?」

大泉首相 「だから、そうならないようにするんだ」

安部幹事長 「総理、これは冗談ではないですよね?」

奥山総務相 「私は事細かに知っているわけではないが、実際に起きると保証する。
なぜなら今まで起きると言われたことは、すべて起きているからね。アジア通貨危機、えひめ丸、芸予地震、北朝鮮工作船と」

安部幹事長っー!
私以外は顔色が変わってませんけど、皆さんはご存じだったのですか?」

森官房長官 「未来予知の全体像を聞かされたわけではないが、北朝鮮の工作船とえひめ丸の事件が起きるとは聞いていた」

安部幹事長 「そういったことに事前に手を打たれたわけですか?」

森官房長官 「えひめ丸には打つ手はなかった。
北朝鮮の工作船については事前準備をして待ち構えていた。それで遺漏なく・・・といきたかったが、あの国交相のアホが余計なことをして死者が出た(第159話)」

安部幹事長 「なるほど、それですぐに更迭したと・・・確かにあのような北朝鮮のスパイには知らせることはできませんね」

大泉首相 「国交相をスパイ呼ばわりか・・・実際にそうだから困るよね。
皆さんはそれぞれブレインを作って欲しいが、そこから漏れたら君たちの責任だからね」

森官房長官 「総理もご一緒のとき、吉宗機械の佐川課長を、こちらで引き取って欲しいという話がありました」

奥山総務相 「それは吉宗機械では佐川を要らないということかな?」

森官房長官 「そうではないと思います。彼は吉宗機械でも未来予知のキーマンです。だから出向させたいという意味は、彼らが政府に最大の協力をするという表明でしょうね。

その後、内閣官房のメンバーで話をしたのですが、内閣官房所属とすると公務員ですから国会議員からの質問に答えなければならない。となると秘密保持が困難になる」

山田危機管理監 「それを言うなら私も伊藤も同じですが」

森官房長官 「まあ、そうだが・・・、君たちと佐川氏では持っている情報量が違うよ。
それもあって政党職員もしくは国会議員の私設秘書にした方が、情報漏洩対策としてはベターではないかと考えます」

大泉首相 「仮に森先生の私設秘書なら内閣官房にいても良いわけではないだろう」

森官房長官 「毎日顔を出す程度なら問題ないのではないですかね。
そして幹事長も入る党内の会議なら、野党に議事録を見せる義務もないでしょう」

大泉首相 「賃金はどうなる?」

森官房長官 「民間からの出向者は業務内容に関わらず、ほとんど出向元が100%持ちです」

伊藤事務官 「官への出向ならそうですね。ですが民民間の出向は、用役負担で割合を決めます。変なことをすると利益供与(注2)になってしまいます。
官への出向の場合は、なぜか出向元の民が100%負担でも問題にならないようです。私の場合もそうですが(笑)」


注:伊藤事務官は証券会社から、内閣官房への出向者である(第159話)。


奥山総務相 「確かに党職員とか議員秘書なら、100%では利益供与になりそうだ。法律上だけでなく野党の吊し上げにあいそうだ」

大泉首相 「そこは弁護士にも確認して、問題ないようにしてくれよ。
言っておくが、今年中に党内の大掃除をする予定だ。脱税、贈収賄、政治資金規正法その他、脛に傷ある議員には一斉退場してもらうつもりだ」

奥山総務相 「総理、それは未来予知で問題になるわけですか?」

大泉首相 「そうなんだ。5年後くらいかな、細かいことが野党とかマスコミに叩かれて支持率がどんどん下がる。そして政権を渡して大地震が起きたという流れだね。
皆さんもお配りした未来史で大体はお判りでしょう」

森官房長官 「佐川氏については承知しました。
具体的な所属とか扱いについては、個別に調整いたします」

大泉首相 「彼がそばにいれば日常情報の問い合わせができる。
ドクター・マジックとか今村先生を経由するより、ダイレクトに情報を得た方が良いことは間違いない。
もちろんそのお二人には、今後とも広告塔をやってもらおう。情報の流れは今までの逆になるな」

山田危機管理監 「今まで断片的に未来の話を聞いていましたが、今、配られた資料では時系列もはっきりして、対策は長期にわたるものもあります。
対応を考えるにはこの一覧表だけでなく、更に詳細な説明を伺わないとなりませんね」

大泉首相 「それについてはこれから勉強会を設定して、メンバー各位とそのブレインも集めて説明してもらう」

森官房長官 「それと総理、この仕事は内閣官房の仕事かもしれませんが、危機管理監の仕事ではありませんね」

大泉首相 「確かに地震対策は危機管理監だろうが、リーマンショックも政権交代も危機管理監マターではないな。内閣官房の仕事でさえないかもしれん」


数舜、大泉首相は話を止めて天井を見上げる。


大泉首相 「とりあえずこのメンバーで進めよう。だんだんと具体化してくれば参画するメンバーを見直すとしよう。どちらにしても計画段階に入れば、ある程度、党内や閣内に情報公開して多くの部門と人を巻き込まないとならん。
今はその前段と考えれば良い」




会合から党本部に戻った安部(やすべ)幹事長は、部屋に誰もいないことを確認して『2000年代の大きな出来事』と書かれたA3サイズの紙を広げる。
今年は2002年、その紙には2002年の後半から2012年までの政変、災害、事故、事件などが項目ごとに時系列に書かれている。

ユーロのマーク
今年は何が起きるのかと見ると、EUの通貨がユーロになるとある。まあ、これは大問題ではない。もちろんEU諸国は重大な変化だろう。これからは国際競争力が弱くなろうと、一国の判断で為替レートを変えることはできない。
ユーロの為替レートは、EU加盟国の平均レートとなる。強い国は輸出で儲け、弱い国は苦しくなる。

はっきり言えばこれはドイツの策略だ。EUがユーロに統一されれば、ドイツは安く輸出して儲ける。半面、スペインなどは自国の購買力より強い通貨で輸出することになり、不利に働く。それはドイツがEU内の他国から掠め取ることではないか。

まあ、自分から罠に飛び込んだ人たちに同情することはない。いずれ・・・5年かもしれないし長くても10年だろうが、いずれギリシア、イタリア、スペインなどは赤字で苦しくなるだろう(注3)
最終的にはデフォルトするかユーロから脱出するか、EUから離脱するか・・・

安部幹事長
安部幹事長
次はアルゼンチンがデフォルトとある。以前から予想されていたことだ。ただ日本がデフォルトといえば天地がひっくり返る大騒ぎだろうが、アルゼンチンは10年に一度デフォルトしているから、「またか」でおしまいだろう。

ええと9月に大泉総理が北朝鮮訪問して拉致被害者を取り戻すと・・・これは聞いていなかった。どういう進展があったのだろうか? あるいは、これから北朝鮮との交渉で進展があるということか?
被害者のご家族も高齢化が進んでいるから、間に合ったと言ってよいだろうか?
これについてもまた野党が騒ぐのだろう、やな奴らだ。

田野中議員が秘書給与の問題で議員辞任か・・・
あのオヤジさんは、越後のブルドーザーと称された大物だったが、娘はそうではなかったと・・・

最後に安部幹事長は気が付く。佐川氏が、今日の参加者に何の負い目もない風で説明したということは、今日のメンバーは2012年まではつつがなく生きながらえるということだ。もしその前に亡くなる人に対して、あのように目を見て快活に話はできないだろう。




ここは危機管理監の部屋だ。山田危機管理監と伊藤が向かい合っている。


山田危機管理監 「いやはや、これから10年間に起きる問題はバラエティーに富んでいて途方に暮れるよ」

伊藤事務官 「まずは問題を切り分けて、危機管理監としての仕事を明確にして、それにどう対応すべきかを考えましょう」

山田危機管理監 「その通りだ。政変や外国の紛争など、対応なんて考えもつかないよ」

伊藤事務官 「まず災害はすべて我々に関わるでしょう。事件、事故については水平展開が必要とか大規模で警察とか厚労省だけでは手におえないような食の安全や防疫、大きな事故などが回って来るかと」

山田危機管理監 「総理からも長官からも言われていることだが、二年後に発生する中越地震において、事前対応を完璧にして絶対大問題にするなと言われている。
もちろん地震を止めることはできない。だから震災を受ける地域を確定し、避難場所、避難訓練、そういったことを完璧に事前準備して起きたい」

伊藤事務官 「東日本大震災のトライアルという意味も大きいのでしょうね」

山田危機管理監 「当然だろう。とはいえこれは新潟県の一部地域、あっちは東北から関東までのとんでもない広さだ。もう考えることも途方に暮れる」

伊藤事務官 「中越地震の死者68人、東日本大震災の死者2万人、300倍ですか」

山田危機管理監 「亡くなった方も大変だが、避難者の対応も大変だ。中越地震は10万人、東日本大震災の避難者47万人。
人数は5倍かもしれないが、47万人の住まいを手当てするなんて簡単じゃないぞ。中核市(注4)のレベルだ」

伊藤事務官 「仮設住宅にしても、建てる場所が確保できるかどうか・・・」

山田危機管理監 「危機管理監としては、やりがいがあると言わないとならんな」



うそ800 本日の疑問

日本の21世紀のGDPのグラフには、2008年のリーマンショックと2020年のコロナ流行の、ふたつの窪みができています。


日本のGDP推移

出典:総務省 国民経済計算(GDP統計)

当時日本がイニシャチィブを取って世界に働きかければその窪みをなくすことはできたのでしょうか?
あるいは日本だけでも国内向けに手を打てば、あれほどの低迷を防ぐことができたのでしょうか?
あればどんな方法か教えてください。



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文末脚注
  1. 参考資料:2000年代の大きな出来事(著者作成)
    中身は実際に発生したもの。物語に合わせて作るべきだろうが、そうするとお話になってしまうので・・・

  2. A社の社員を別会社B社に出向させたとき、その賃金をB社が払うのは当然である。もしA社が払ったら、A社がB社にお金を支援したことになる。それは利益供与とみなされてもおかしくない。
    それで出向者の賃金負担は、実際の仕事内容によって決める。子会社を立て直しするためなら出向元100%負担もあるし、子会社が営業マンとか技術者が欲しいといった場合は子会社100%負担もある。親会社が子会社に高齢者を引き取ってくれというときは、40:60~60:40くらいが普通だ。

  3. ギリシア危機と呼ばれる債務危機は2009年10月に発覚する。
    その後、スペインやイタリアなどの南欧諸国更にユーロ圏全体に広がり欧州債務危機と呼ばれた。
    EUを始めIMFなどの金融支援と債務過多の国々は公務員給与引き下げ、解雇などによって歳出を削減して改善を図った。回復には10年かかった。
    cf.「希臘から来たソフィア」三橋貴明、自由社、2013

  4. 中核市とは政令指定都市以下で人口20万以上の都市で、都道府県から事務権限を移管する制度。その人口は、最大は船橋市(65万人)、川口市(60万人)から最小の甲府市(18.5万) 、鳥取市(18万)まで62都市(2026.5/1時点)






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