タイムスリップ168 新しい地平5

26.05.14

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。




2002年6月某日 首相官邸である。
佐川の説明会(第167話)が解散した後、大泉は幹部だけを集める。



第一部の登場人物
大泉首相 奥山総務相 森官房長官 安部幹事長
大泉首相 奥山総務相 森官房長官 安部(やすべ)幹事長
一番偉い人 防災担当
大臣
総理大臣の
秘書役
次期総理
らしい

大泉首相 「当面のことを確認したい。
奥山先生、経団連が言い出した福島第一の防潮堤はフォローしてください」

奥山総務相 「承知しました。防潮堤の高さというか規模については悩みが多いです。
佐川の話では、防潮堤を設計したとき想定した津波高さが5.7mだったが、実際の津波は14~15mだったという。
また2008年に津波のシミュレーションをした人がいて、そのとき15.7mという試算があったそうです。
原発建設後のそういう研究も参照して決めましょう」


注:福島第一の防潮堤高さは地震時5.7mであった。
地震後に暫定的に作られた防潮堤は11m(2020年)であったが、その後の検討結果を反映して2024年に13.5~16m(場所により異なる)にされた。


大泉首相 「それと他のほとんどの原発で、非常用発電機が津波のために止まっている。設置場所を高くするとか、ケーブルの二重化とかも合わせて頼む。
東日本大震災対応として、今することはそんなものか」

奥山総務相 「急ぐと言ってもまだ9年ありますから」

安部幹事長 「東日本大震災の事前公報はどうでしょう?」

大泉首相 「まだ先が長い。公報についても是非と時期について要検討だな。
ええと、これからは今村博士とドクター・マジックを、我々が使えるわけだ。
バラエティー番組などで、彼らから少しずつ露出していった方が良いかもしれないな。もちろん実行する前に熟考せねばならん」

森官房長官 「首相、我々の役割を定めるべきでしょう。防災は奥山先生担当でよろしいと思いますが、今村博士などを広報の範疇とみれば私になります。
労働運動のスタートはオルグです。我々も今までにない仕事を始めるとなると、役割分担を定め指揮系統をはっきりすべきです」

大泉首相 「本来なら今日来た連中で気の利いたものに任せようと思っていたが・・・皆にブレインになる者を連れて来いと言ったつもりだが、あんな連中で大丈夫か、真面目に受けとっていないぞ。いくら一年生議員にしても・・・」

森官房長官 「大泉チルドレンですよ。あいつら代議士を学級委員長と勘違いしているのでは」

大泉首相 「森先生、厳しく教えてくださいよ。10年後には彼らが日本を背負うのですから」

奥山総務相 「彼らはそもそも今日の話を真面目に受け止めてないのでしょう。未来を知っていると言われても、にわかには信じられないでしょう。それは仕方がないかもしれません」

安部幹事長 「実務に入ったらしっかりさせます」

大泉首相 「頼むぞ・・・と言っても、安部君も幹事長で身動き取れないだろう。だれかこのプロジェクトのリーダーを設けないとならんな」

森官房長官 「内閣官房に研究会でも作って、その幹事に昨日のメンバーの誰かを充てましょう。次いで佐川をその議員の私設秘書にでもしましょうか」

大泉首相 「それで良いと思うけど、佐川さんは森先生か安部君の私設秘書にしよう。幹事は別の派閥で内部牽制とれるように、そして森先生の目が届くようにしよう」

安部幹事長 「それじゃ佐川さんは森先生、幹事は私の方で出しましょう。奥山先生の方も研究会に1名入れたらいかがですか」

大泉首相 「それと山田危機管理監もメンバーに入れよう。役割としては災害発生前と発生後の違いはあるが、情報共有しておいた方が良い。
じゃあ、今後の検討はそのメンバーで」




未来情報を防災に使う防災M研究会が作られた。Mは未来予知のMである。実際にはその日からM研究会と略され、5分も経たずにM研と呼ばれるようになった。
メンバーは若手議員3名と山田危機管理監、佐川である。


第二部の登場人物(M研メンバー)
佐藤議員 鳥海議員 遊佐議員 山田危機管理監 伊藤事務官 森山秘書 佐川
佐藤議員 鳥海議員 遊佐議員 山田危機管理監 伊藤事務官 森山秘書
M研ではない
佐川秘書
安部派
M研幹事
森派 奥山派 内閣官房 奥山代議士 森官房長官
国会議員 公務員 政治家秘書

なお佐川は森官房長官の身分は私設秘書となり、仕事はM研専任である。
経済、外交などの予知情報は書面で官房長官に出すだけとなった。その使い方は首相と官房長官にお任せである。
なお賃金は100%吉宗機械負担で、金額は出向前と変わらない。

昨日まで民間企業の課長、今日から政治家の私設秘書、どっちがエライ?
答、どっちも偉くない。



佐川の説明会から10日後、M研究会第一回会合である。6名が集まった。皆忙しい人たちで、時間は1時間きっちりと決められた。


佐藤議員 「私はM研の幹事を仰せつかったが、まだM研の仕事をよく理解していない。
これから起きる災害を予知することなの?」

佐川真一 「私たちの仕事は予知ではありません。M研にとって未来はアプリオリ(与えられたもの)です。
私たちの仕事は、災害が起きたら文字通り即応する体制を考えることです」

遊佐議員 「即応ってどれくらいのイメージですか? もちろん今よりも素早くでしょうけど」

山田危機管理監 「法律が関わるから、そう簡単ではない。まず動くのは市町村、次に県レベルと決まっている。
政府が動くのは、そこで手におえないと判断して国に要請があってからになる」

佐川真一 「森官房長官の文書では、『総務省、防衛省が情報収集をして政府レベルで災害対応をすべきと判断した場合、自治体の救助要請を受けることなく・・・』とあります。

山田危機管理監 「そうか、当面は超法規的で、ゆくゆくは法改正するのか・・・そのときは危機管理監の機能を強化するのかな」

佐川真一 「ですから表上は災害が発生して、警察や消防そして自衛隊の調査結果で、重大と判断されたら即出動というわけです。
しかし実際は、M研は災害発生も状況も知っていますので、発生したら即出動するということになるでしょう」

鳥海議員 「佐川さんの話を聞くとルーチンワークのように聞こえるけど、実際そう行くものかね」

佐川真一 「おっしゃる通り、そういう体制も組織も、まだなにもありません。
ですからM研のすることは、未来情報があれば、そういくかどうか、そうするためにはどんな準備が必要かを考えることなのです」

鳥海議員 「うーん、具体的にはどうすれば良いのかな?」

佐川真一 「それをM研が考えるわけです。我々は情報を持っています。その情報を活用してどうすれば良いかを考えるのです。我々は実地における試行が許されています」

遊佐議員 「佐川さん、もっと嚙み砕いて説明してほしいわ」

佐川真一 「じゃあ、平たく言いましょう。具体例で説明しましょう。
今年2002年7月11日未明・・・つまりあと半月後、千葉県館山市に台風6号(注1)が上陸し、鹿島灘から三陸沖に進み11日21時頃、北海道釧路市に再上陸します。

これにより岐阜県では500mm超、静岡で300mm超、関東地方でも400mmというところもあり、伊豆諸島でも強風で被害を出します。
これだけ情報があれば、どうしますか?」

鳥海議員 「当然、被害情報もあるわけだ。ならば被害が出ればすぐに必要な人員機器を送り込むことだな」

佐川真一 「おっしゃる通り。ですがさらに進めて被害が出る前に送り込んでも良いですよね。いや被害が出ないようにできたら、それがベストでしょう。

もちろん降水量を減らすとか、台風のコースを変えることはできません。

しかし崖崩れが起きる前に避難させるとか、崩落するのが分かっている道路を通行止めにすることはできます」

山田危機管理監 「できるならぜひやりたいね。死者が出るより出ない方が良い」

鳥海議員 「具体的にはどうしたら良いのか?」

佐川真一 「まずは私の歴史で起きた7月の台風の被害状況を良く調べる。次に現地に行ってみてどうすれば良いのか考える。
そしたら事前に行うこと、予め避難させるとか通行止めなどの手を打つ。
事前に手を打てないことがあれば救急体制をとる。そんなことでしょう」

遊佐議員 「佐川さんは未来を知っているというけど、細かいことまでは知らないというか、覚えていないでしょう?」

佐川真一 「おっしゃるように新聞やテレビを観た程度です。ですから崖のどこが崩れたとか堤防のどこが決壊したかは分かりません」

遊佐議員 「となると先ほど言った被害状況は未知だよね」

鳥海議員 「だが何もないよりは良い。
ところでその台風6号の被害は、ここにいる誰の選挙区なんだろう?」

佐川真一 「私の記憶ではとにかく全国的な豪雨なのですが、特に著しいのは(注2)
 ①岐阜県西部
 ②静岡県東部から山梨県西部
 ③群馬県北部から栃木県北部
 ④岩手県一関市
洪水は岐阜県揖斐川(いびがわ)の大垣市付近、岩手県北上川の花巻市付近、もっとあったと思いますが、忘れたというより元々把握していません」

鳥海議員 「いや、それだけあれば十分でしょう。なにしろ本来なら今時点では、日本上陸するかどうかさえ不明なのですから」

遊佐議員 「このメンバーに被災地選出はいないわね?」

佐藤議員 「私は宮城県〇区だから一関市の南隣ですよ。そして北上川の下流は選挙区の真ん中を南下しています。
佐川さん、宮城県内で洪水はどうだったのでしょうか?」

佐川真一 「申し訳ありません。記憶にありません」

山田危機管理監 「これは急を要するな・・・どうだろう、ドクター・マジックに一肌脱いでもらおう。
佐川さん、ワイドショーで語ってもらうよう話せませんか?」

佐川真一 「ドクター・マジックも今村先生も、直接私というか吉宗機械からお願いしていたわけではないのです。奥山先生経由です。
実際は奥山先生の秘書がつなぎをしていたと聞いてます」

山田危機管理監 「分かった、奥山先生には私から連絡を取って、秘書にここに来てもらおう。
佐藤先生、佐川さんが話したように、まずは選挙区に行って北上川の流域の市町村長にあって、警戒を促したらどうでしょう。 具体的にはこのメンバーの意見を参考にして・・・」 電話


それだけ話すと、山田危機管理監はすぐに受話器を取る。


遊佐議員 「佐藤さん、宮城県内だけに知らせるのは、道義的にどうなのかしら?」

鳥海議員 「我々のように役職に就いてない者の話が、聞いてもらえるかどうかということになる。
またM研はスタートしたところで秘密だ。あまり大っぴらにはできないよ」

佐藤議員 「私の立場でも防災に努めて欲しいということを伝えるだけか」

鳥海議員 「台風の季節が早まって、梅雨と合わさり大雨が降る恐れがある。大小の河川の洪水が予想される、監視を密にしてほしいというくらいじゃないか。
洪水がなければ避難は不要だ」

佐藤議員 「それだけで地元を巡回するのは問題ないだろうか?」


皆がワイワイ語っていると、ドアをノックする音がして伊藤事務官が明けると、30代の男性が入ってきた。


森山秘書 「奥山総務相の秘書をしております森山(第154話で登場)です。御用があると聞き参りました」

山田危機管理監 「おお、わざわざすみません。どうぞこちらに、早いですねえ~」

森山秘書 「事務所は山王溜池で道は首相官邸を外回りしないと来れませんが、それでも歩いて10数分です。
ドクター・マジックに頼みたいとのことでしたね」

山田危機管理監 「ドクター・マジックは森山さんから依頼を受けて、テレビで語っていると聞きました」

森山秘書 「経緯はその逆で、元々は向こうから売り込んできたのですよ。
奥山先生から、これからは危機管理監の方から情報を渡すと聞いています」

山田危機管理監 「そうなりました。ドクター・マジックに頼むには、森山さん経由の方が良いのだろうか?」

森山秘書 「情報を山田さんからマジックに流すなら私が介在しない方が早いし、ノイズが入ることもないと思います。
一度ドクター・マジックを呼んで、これからの手順を決めるのがよろしいですね」

山田危機管理監 「今日は無理かな?」

森山秘書 「ドクター・マジックは、けっこう売れっ子ですから。一週間以内には会う段取りを付けますよ。
話がつけば、それ以降はメールで十分です」

山田危機管理監 「頼む。実を言って、今日は・・・6月13日木曜日か・・・結構急いでいるのだ。
今年はどういうわけか台風発生が早い。もう4号まで生まれた。6号が生まれるのは6月29日再来週の土曜日、2週間後だ。

その台風が7月11日、日本に上陸し日本列島を北上し北海道に抜ける。
雨台風で愛知以北に大雨を降らせる。
それでドクター・マジックに警告を出してほしい」

森山秘書 「それは早い方が良いですね。山田さんとの引継ぎを次回にしませんか。
私から発言内容をメールで伝えれば、彼はワイドショーのディレクターに出演交渉となります。ドクター・マジックが出演を求めればテレビ局はOKすると思います」

山田危機管理監 「分かりました。それでお願いします」

森山秘書 「もう完全に予言を信じているのですね」

山田危機管理監 「そう理解してもらって間違いない。今村先生も森山さんが窓口なのですか?」

森山秘書 「今村先生? それは存じませんが」

山田危機管理監 「別ルートか、ええと伝えるのは要旨だけでよいのだね。台本のようなものはいらないのね?」

森山秘書 「ええ、要点のみ書いてもらえれば結構です。芸人ですから話すのは臨機応変です。
しかし、重要人物が集まって、ここで何をされているのですか?」

山田危機管理監 「申し訳ないがNDA契約した人でないと話せないんだ」


注:NDA (Non-Disclosure Agreement)で守秘契約のこと。
CA (Confidentiality Agreement)とか、SA (Secrecy Agreement)も似たようなもの。違いはあるけど省略


森山が去った後、佐藤が山田に話す。

佐藤議員 「明日、地元に帰って流域の4市町を歩いてきます。雨期で台風が来るから十分監視と避難体制を整えて欲しいと言ってきます」

山田危機管理監 「よろしく頼みます。防災服、持っていますか?」

佐藤議員 「防災服とはなんですか?」

山田危機管理監 「ご存じない? 2000年頃から災害が起きると首相とか国交相が着てテレビに登場するでしょう(注3)
伊藤君、一着持ってきてくれ、佐藤先生は170センチくらいかな、Mサイズで良いよ。ヘルメットも。ヘルメットは調整が聞くからサイズはない」

佐藤議員 「名入りですか?」

山田危機管理監 「これには名は入っていない。所属が内閣府と印刷されている。問題ないだろう」

佐藤議員 「ありがとうございます」

鳥海議員 「いずれ私も地元に帰ることもあるでしょう、そのときは私にもお願いします」

山田危機管理監 「もちろんだ。国会議員が災害地に行くときに、スーツじゃ様にならないからね。
佐藤先生、目の付け所はご存じでしょうけど、雨台風ということで、洪水とか山が水を含んで崩れたりが予想されます。
最近、造成された住宅地とか、川面から高くない建物とか道路など注意してください。排水路などに土砂が溜まっていれば浚渫(しゅんせつ)させるように、

洪水で浸水しなくても陸の孤島になるようなところですと、臨時のヘリポートが作れるか、ボートなどでアクセスできるか聞くとよろしいでしょう。
皆、しっかりやっていると思いますが、質問して回答が返ってくれば誉めてあげてください。下の者はやる気を出します」

佐藤議員 「ご指導ありがとうございます。ご一緒しませんか?」

山田危機管理監 「情報では被害がひどいのは宮城ではなく、岩手南部と大垣市のこと、そちらに行ってみたいと考えているのです。森長官との相談次第ですが」

伊藤事務官 「私が管理監の代理で佐藤議員のお供で行ってはまずいですか?」

山田危機管理監 「伊藤君は、私の不在時は代理としてここにいないとまずい」

鳥海議員 「佐川さんは、説明会では今年は災害が少ないと言ってましたが、目白押しですね」

佐川真一 「例年に比べれば少ないのですよ(注4)
7月初めの台風6・7号で死者6名、9月16日の鳥取県東部地震、9月末から10月初めにかけて台風21号が関東から北日本で暴風被害と死者4名を出し激甚災害指定となります(注5)
自然災害がこれくらいなら、平年以下なのはもちろん、驚くほど平穏ですよ」

山田危機管理監 「災害だらけが平常だから、私の仕事があるのだろう」



うそ800 最近の新聞


災害時の車中泊対応マニュアル、主要自治体6割超が未作成…熊本地震や能登地震では健康被害続出読売新聞2026.05.10


私の叔父は車中泊ではないが、高齢で病気持ちだったので、東日本大震災のとき避難所で亡くなった。
これからも行政に災害対応を頑張ってもらいたい。





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文末脚注
  1. 平成14年台風第6号
    ・災害をもたらした気象事例 台風第6号、梅雨前線

  2. ・自然災害科学 2002年7月9日~12日の台風7号による豪雨災害の特徴

  3. 防災服は2000年扇千景国交相が防災の日に着用したのが始まりと言われる。
    2011年の東日本大震災以降、着用する国会議員が増えた。
    2017年以降、防災服・ヘルメットを全議員に貸与した。

  4. 2002年の自然災害による死者は48名である。
    2010年から2020年の間の自然災害による死者は東日本大震災を除いても平均203名である。東日本大震災を入れれば2,200名となる。
    ・出典:平成30年版 防災白書|附属資料9 自然災害による死者・行方不明者数内訳

  5. 平成14年台風第21号






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