注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
佐藤議員、現地視察
佐藤議員はM研打合(第168話)の後、すぐ秘書に翌日14日の予定をキャンセルさせて、東北新幹線に乗る。夜9時少し前、栗原市のくりこま高原駅で降りる。
駅前には地元の私設秘書が迎えに来ている。


運転手より先に佐藤議員は挨拶して助手席に座る。運転している秘書はオヤジの代からで、佐藤は子どもの頃から知っている。だから後ろのシートに座るのは年上に対して失礼と思っている。まあ、車もカローラの7年ものだから、かっこつけるまでもない。
「選挙区の全部、1市7町を回るって本当ですか?
一応、佐藤先生が訪問すると各首長(知事や市町村長)には話は通していますが、正直言って一回りするだけで200キロもあります。時間的に大変ですよ。
何事かあるのですか?」
「ある情報筋からの情報だけど、来月早々に大きな台風が来て、ここらへんに大きな被害を出すという」
「信頼できる筋ですか?
それと自治体巡回がどうつながるのですか?」
「まずは豪雨の注意喚起、それと洪水の対応体制が大丈夫か、できれば北上川の河岸をながめるとかしたいな」
「今年は梅雨が明けるどころか梅雨入り前から台風発生ですもんね。地元で災害が心配という先生の思いは良く分かります。
幸いって言ってはなんですが、北上川の水害は岩手県に多く、宮城県ではめったにありません。一番危ないのは一関市あたりですからね。
お気持ちは分かりました。梅雨時に台風が来るから水害に注意するように、防災の激励に来たとしましょう」
「よろしく頼みます。市町村長の顔を見て台風に備えて欲しいとお願いするだけでも違うでしょう」
「そりゃ先生がわざわざ訪ねてお話しすれば効果ありますよ」
秘書の横顔は、あまり効果がないというようなふうであった。
6月14日(金) 佐藤は借り物の防災服を着て、早朝から市町村役場を回り、台風による被害防止に努めるようお願いする。佐藤の父親は既に引退しているが、長年、県会議員だった。佐藤はその秘書をしていたので、会う相手には顔見知りの人が多い。
彼らは佐藤が防災服を着てやってきて、今年はもう台風のシーズンだから洪水や崖崩れに注意してくれと言うのを、爺さんが孫を見るような目で見て、愛想よく対応してくれた。
なんとか選挙区を一巡してその夜、東京行の新幹線に乗る。佐藤は行った甲斐があったのかないのか分からなかった。今日声をかけても首長たちの行動に変わりはないだろうな、無駄なことだっかたなと思い、いささか気落ちした。
山田危機管理監 気象庁を呼ぶ
山田危機管理監は気象庁を所管している国交相に、気象庁の天気予報の人と話したいとお願いする。そして今、大気海洋部予報課の課長と連れの人が危機管理監の部屋で話をしている。
「今年は台風が早くから発生し梅雨と重なってしまうのではないかと懸念しています。台風も温暖化のせいか雨量、風力共に大きくなっていますね。
1日に雨量500mm降った場合の洪水発生のリスクを評価した地図のようなものはありますか?」
注:実は過去のデータを見ると、最近の台風が雨量、風速が増加傾向にあるわけではない。地球温暖化によって台風が狂暴化していると信じている人は多い。
「そのような都合の良い地図はありません
「台風が来て何ミリの雨が降れば、どこが浸水するとか知る方法はないのでしょうか?」
「部分的には過去の情報から推定できるでしょうけど、現在、そういう情報は整備されていません。
地形や川などから流域面積(集水域)は決まりますが、本流へ入るまでの時間も違いますし、森林か田んぼかなど土地利用によっても異なります」
「台風が上陸した場合、雨量を仮定すれば、洪水が発生する時間と場所は推定できないのでしょうか?」
「それは簡単ではありません。台風が来る前に雨が降っていれば地面は飽和していて雨水が浸透できないでしょうし、長期間降っていなければその逆です。
それと堤防の決壊の原因は降雨量ばかりではありません。
あのですね、山田危機管理監、質問を小出しにしないで全容を教えてください」
「ここだけの話にしてください。ドクター・マジックをご存じでしょうか?」
課長は連れの顔を見る。
「課長、テレビのワイドショーで芸予地震など、多数の災害を予言したマジシャンです」
「ああ、あの人ですか。それが?」
「彼の話では、来月早々に台風6号が上陸し大きな被害を出すそうです」
「彼はそういうことを、語りましたか? 私は彼の言動に気を付けてますが、聞いていませんね」
「テレビ出演は今週これかららしい。そこでそういう予言をすると聞いております。私も彼の言動を気にしていて、情報を得ています」
「彼が予言した地震も事故も嵐も、すべて的中だそうですね。
予知がひらめきなら仕方がないが、具体的な予知方法があるならぜひ教えて欲しい」
「それで台風6号の雨による被害地を確定したいということですか?」
「そうです。おっしゃるように今までの予言はすべて成就しています。
それで彼の予言を前提に、洪水になる恐れのある地域で対策を講じたいと思うのです。信じる信じないではなく、予言されていたのに手を打たなかったのかと言われると辛いです。
しかし彼は『台風6号が7月頭に上陸する、大雨が降る、被害が出る』としか語りません。
私はどこが洪水になるのかを知りたいのです」
「なるほど、それで今までいろいろ質問されたのですね。お考えは分かりました。
大雨を1日500mmと仮定したのは山田危機管理監ですか?」
「そうです。何十年に一度の雨というと、その程度でしょう」
「台風の降水量ランキングからいえば1日500mmは少なすぎます。いままでも800mmくらいは何度もありました
「まあ、どこかで線は引かなくちゃならんな。
ともかく山田危機管理監のお考えは分かりました。
そこでと、仮にドクター・マジックの予言が当たるとして山田危機管理監はどうしたいのですか?」
「台風6号の予想進路で洪水になりそうなところには、早めの避難指示と避難場所の手配、そして救助隊を配備しておきたい」
「ドクター・マジックは洪水の発生場所までは予言していないのでしょう?」
「あまり具体的な予言をすると、風説の流布罪にならないのですか?
当たっても当たらなくても罪になりそうですね」
「それを言っちゃ、我々も似たようなものだ
「課長、いずれにしても、まだ台風6号は発生していません。発生場所も進路も上陸地点も全くの未知です」
「お手上げですな」
「ドクター・マジックの予言が、もっと詳細ならうれしいです。というかご本人に聞けばよいのではないですか」
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気象庁の人たちが帰った後、山田危機管理監と伊藤が話をしている。
「佐川さんの予知というのはものすごい価値があるのですね。
しかし台風と被害を予言しても、場所や時刻など詳細が分からなければ対策はできません」
「残念ながら、彼も前世で見た新聞やテレビの記憶しかない。彼が新聞を見逃したり、テレビを観なかったならそれまでだ」
「個人の関心とか、たまたま知ったことだけですからねえ~。年鑑とか百科事典とは違います」
「そこがいまいちだな」
ワイドショー
6月19日お昼、番組はSARテレビ
新聞に大きな広告を出して、一紙3,000万として三紙で9,000万、元が取れるんだろうか?
もっとも三大紙の総発行部数は2,200万部
注:「伝達効率」は元々は機械工学で「入力されたエネルギーや動力が、どれだけのロスなく伝わるかを示す割合」で自動車ならエンジンの入力でタイヤに伝わる割合で、MTなら95~98%、トルコンオートマなら80~95%、CVTは75~85%、)だそうです。
おっとコミュニケーションにおける伝達効率は、発信した情報がどの程度、正確かつスピーディーに相手に伝わり、理解され行動するかの指標で、「質」×「量」×「伝達スピード」なのだそうだ。測定や評価はあいまいになりそうです。
ここは内閣官房の小会議室。大型テレビの前に、M研のメンバーと山田危機管理監と伊藤事務官がいる。
伊藤は山田危機管理監に話しかけた。
「政府はドクター・マジックに依頼料を払っているのでしょうけど、SARテレビには払っていないんでしょう。まして新聞の広告料は大金と思いますが、払っているのでしょうか?」
「知らないな、SARテレビが出していると思う。
それよりも森山氏に伝えたことは、過不足なく語ってくれたかどうか確認してくれよ」
「録画もしていますからご心配なく。
おっ、始まりましたよ」
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テレビ局スタジオ
「今日のゲストは、日本一のマジシャン、最近はマジシャンではなく予言者として確固たる地位を確立したミスター・マジックで~す。
ミスター・マジック、今日は大災害を予告するとおっしゃっていますが、大災害とはどのようなものですか?」
「ずばり、台風そして水害です。問題となる台風は今月末に誕生する台風6号です。7月11日千葉県館山に上陸します。しかしそれよりはるか前から日本列島に影響を与えます」
| マ ジ ッ ク | 峰 谷 | 気 楽 | 匠 | ||||||
「台風で大災害とは大げさじゃないですか。台風なら大騒ぎすることない気がしますが」
「被災地の方々にとっては、そうは言えません。
雨台風というのでしょうか、中部地方、岐阜県などに500ミリを超える雨を降らせます。豪雨による水害は岐阜県、岩手県、宮城県などで発生します。
山間部だけでなく、大都市圏にも降ります。静岡市も300ミリを超えます。
関東地方、東北地方の太平洋岸を進み北海道釧路市に再上陸しオホーツク海に抜けます」
「大きな被害が出るのですか?」
「まず心配されるのは洪水です。私も具体的被害は分かりませんが500mm降って洪水にならなかったことはないと思います。
ともかく被害が少ないとかいっても、被災者にとっては自分がすべてです。簡単には言えません」
「ミスター・マジックの予言が政府とか自治体の首長に伝われば良いのですが、気象庁はミスター・マジックの予言を活用しているのでしょうか?」
「私の予言は科学的裏付けがありません。ですからそれで動けとは言えません。
ただ先ほども上げた地域の自治体は、予言した日付の少し前から河川の監視、非常時の避難場所、方法の確認などをしてほしいと願います」
「ドクター・マジックの予言は100%当たるから、自治体も信じて対応をするでしょう」
「正直言って私は予言が外れたと言われる方がうれしいのです。
ただ今回も予言が実現する予感がします」
「では防災の専門家、〇〇さん、台風が来ると予想されたときはどのような準備、対応をしたら良いのかお話しください」
6月24日の首相官邸である。
首相を始め、内閣官房長官、総務相、防衛庁長官、などが集まっている。
「本日の議題は来月襲来する台風6号による災害を低減し、犠牲者を出さない被害額を少なくする作戦だ。
皆、来月早々に台風6号が日本に上陸するという、ミスター・マジックの予言を知っているな?」
「まさか首相、あの予言を信じているなんてことはないでしょうな」
「そうではない。実はあの予言は科学的な根拠を基に導き出されたものなのだ。
それをそのまま公報してはまずいだろうと、ミスター・マジックに非公式なスポークスマン役をしてもらっているのが真相だ」
「えっ、そうなんですか!」
「今からなら十分な準備をして台風に備えることができると考えている。
とはいえ、台風上陸前から避難させるわけにもいかない。
そこをなんとかして、被害を減らすのが本日の打ち合わせだ。
まず台風発生は6月29日、チューク諸島付近と言われる。
日本上陸が7月11日、日本滞在時間は45時間と想定されている。
この作戦は予め上陸から過ぎ去るまでコースを把握して、消防、警察、自衛隊、通信の各省庁が一体となって防災作戦を行う。
詳細は官房長官から説明する。
あと20日間だ。しっかり頼むぞ」
7月10日17時、内閣官房の小会議室である。
台風6号は6月29日にチューク諸島
役割分担としては佐川の予知を基に、台風の進路と到達時刻を推測し、洪水や崖崩れなどの発生状況を時間と場所を示す・・・そこまでがM研の仕事である。 M研が提案した計画通り臨時ヘリポートの設置、避難場所の用意、避難場所へのルートの安全確保など確認することは多岐にわたる。
現在は消防、警察、自衛隊の展開状況を把握して、予定通りかどうかのチェックをしている。もっともそれぞれ指揮系統があり、末端の実行部隊がM研の予定通りでないこともある。そこは、餅は餅屋なのか、M研の意図が理解されてないためか、経過を見るほかない。
山田危機管理監が部屋に入ってきた。
「山田さん、状況はどうですか?」
「皆、M研の計画に従って進めているが、予想外なことが多いよ。
予定通りなのは台風の進路くらいかな、アハハハ」
「予想外とおっしゃると、どんなことでしょう?」
「まだ房総半島まで来てないから、関東地方はまだ雨は大したことはない、風も10mにもなっていない。
だからか、関東の自治体は真剣でないのよ」
「山梨県では風は大したことないけど雨量がすごいそうですね」
「山梨では0時から17時までで300㎜降っている。洪水も起きている。場所によっては500mmは降っているだろう。予知された通りだ」
「人的な被害は」
「洪水が起きる前に避難はできた、というか計画通り避難させたわけだけど、それが難しかったらしい。洪水になってから救助された人も多い。
この辺は法律的に命令権の確立もあるが、住民の理解と協力が必要だな」
「予知が信用されてないのですね」
「住民にしてみれば大事になって欲しくない、言霊
「私が事前に回ってきたところでは避難指示に従って欲しいなあ~」
「佐藤先生の選挙区は宮城県の北部か・・・今日の夜、今から6時間は大雨ですね。
夜になってから救助要請が来ても、夜だし強風でヘリは飛べないでしょう」
本日の
思い出
私が千葉に住んで23年間になる。千葉で台風の思い出というと、2019年10月12日の台風19号で「令和元年東日本台風」という名の付いた台風である。千葉県の多数の送電線がやられて相当な範囲が長期間停電となった。
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私の家は停電にならなかったが、別の意味で記憶に残った。それは妹が亡くなったので、台風が千葉を通過した翌日に、葬儀、火葬をしたからだ。
亡くなったのが松戸市なので火葬も松戸斎場で行ったが、そんなわけで姉も娘も息子も、台風の影響で来ることができず、家内と私だけで執り行った。
武蔵野線が台風の影響で動かずタクシーで行った記憶がある。
我が家の外は嵐にならなかったが、心の中は嵐だった。
亡くなった妹は、台風の日だったと記憶に残って忘れられることはないだろう。
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