タイムスリップ170 新しい地平7

26.05.21

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。



2002年7月12日である。台風6号は11日夜半、北海道紋別市付近でオホーツク海に抜け12日未明温帯性低気圧になった。
台風の被害はどうかといえば、どうなのだろうか?

元の歴史では死傷者は死者6人、行方不明1人、負傷者39人であった。それに対して予め上陸の日時も場所も、豪雨も洪水も分かっていて対策した結果は、死者3人、負傷者20人と、少し減ったものの画期的に改善されたとは思えなかった。
作戦が悪かったのか、実践が悪かったのか、今回程度なら良い結果なのか?


台風一過から10日、関係部門が集まって反省会だ。
大臣が来ている省もあれば、実務の最高責任者のところもあり、いろいろだ。M研は全員が顔を出している。


奥山総務相 「皆、各部門とも頑張ってくれたが、思ったほど成果がなかったというのが私の感じだ。批判、非難はおいといて、反省とか原因について自由に発言してほしい」

男 「内閣官房から情報提供を受けたが、もう少し詳しい情報が欲しい。どこどこ地区で洪水が起きるというのでも、右岸なのか左岸なのか不明だった。また場所の特定もされていない。
現場で対応する身としてはもっと具体的に知りたい」

男 「洪水が起きると分かっていても、避難命令ができないのが困る。我々に言えるのは避難してくださいと・・・口調はともかくお願いするしかない。あげくに数時間後には助けてくれと電話が来た」

男 「それはあるね。自衛隊は出動したくてたまらないのだが、県知事から要請がなく地団駄踏んだところもある。
現場指揮官の判断で要請なくても出動できないものか?」

男 「クーデターだなんて言われますよ」

男 「確かにな、風雨の中で反論する人はいないだろうが、国会とか新聞で叩かれるだろう」

佐藤議員 「私は事前に地元の市町村を歩きましたが、どこでも注意喚起を本気で受けてくれません。私が浮いてしまいました。
基本的には政府が災害予報をしてほしいと思います」

男 「災害予報とは気象庁がするものだ」

佐藤議員 「それは分かりますが、高いレベルの注意という意味で、発令するレベルを上げる必要があるのではないかな」

男 「災害予報というのは命令じゃないのです。住民に法的な避難の強制力はなく、対応しなくても罰則もない。避難活動とか防災活動に参加する、努力義務があるだけです。 それよりも一段高い避難指示であっても強制力も罰則もない(注1)

奥山総務相 「避難場所は予め決めていて用意をしていたはずだが、避難者は移動とか問題なかったのか?」

男 「避難所の設定を洪水の恐れのない場所に限定していましたから、安全の問題はなかったですね。ただなかなか避難してくれないのが問題でした」

森官房長官 「小中学校の教育で災害時の避難を指導して徹底できないかな」

男 「細かく見るとペットの同行避難を求める人が多かったですね。少子化の影響かな?
農業関係だと乳牛がいるから避難できないという人もいた」

男 「現状の避難場所では、そこまで面倒見られないというのも実態だ。
人の命も盤石でないときにペットと言われても・・・」

鳥海議員 「まあ、時代ですから、これからはペットの対応も重要でしょう」

男 「ペットと言っても、犬猫ばかりでなくウサギから熱帯魚からいろいろですよ」

鳥海議員 「うーん」


議論のはては

  1. 内閣で災害の予報を出すべき
  2. 被害の発生予報をもっときめ細かく
  3. 避難指示・避難命令といったものを法で正式に定める
  4. 避難しない人の扱いを法で定める
    例えば自主的に避難しないと決めた人は、その後要救助を求められても救出しない
  5. 自衛隊の災害派遣の決定を柔軟にすべき
などの意見が出たのであった。




その後のM研である。台風一過後では初めてだ。
先だっての会議では、M研はもっときめ細かい具体的な情報を発信すべき、という宿題があった。
要するに今回、M研が提供したの情報では足りないということだ。


鳥海議員 「佐川さんにとっては、30年も前のことですから、うろ覚えでしょうね」


注:佐川は2023年から1993年に戻り、今は2002年である。だからすべてタイムスリップする以前の記憶は30年前のことになってしまう。

タイムスリップ

佐川真一 「確かに・・・、正直言ってお役御免を頂きたい」

遊佐議員 「佐川さんから内閣官房に、出向を売り込んできたって言うじゃないですか、今更逃げられませんよ」

佐川真一 「そりゃ人聞きが悪い。売り込んだのは吉宗機械ですよ。私の情報を絞り取ったから、もういらないとこちらに押し付けたんでしょう、アハハハ。

しかしながら給与は今も吉宗機械が払っていますし、勤務評定も吉宗機械です。政府としては損はしていません。
山田危機管理監より、吉宗の人事に尻尾を振る方が評価が上がるのですよ」

伊藤事務官 「それは私も一緒ですよ」

山田危機管理監 「おいおい、私は毎期、伊藤君も佐川さんも最高の評価を付けて出向元に出しているよ」

佐川真一 「冗談抜きに、記憶を取り戻すためにも皆さんからいろいろ質問してくださいよ。
例えば2002年に何があったと私が言ったなら、それの前後に何が起きたのか、他の出来事との関連とか当時の流行とか問われると、思い出すかもしれません」

伊藤事務官 「確かCCRって方法がありましたね(注2)思い出せ、思い出せと言っても思い出せないから、ここはどうだった、あれはどうだったと具体的に質問し問い詰めるでしたっけ?」

佐川真一 「問い詰めるというと犯罪者みたいじゃないか、思い出させると言って欲しい」

佐藤議員 「本題に戻りますが、やはり予知と言うからには5W1Hが必要ですね」

伊藤事務官 「しかし台風が来るというとき、堤防が決壊するのが右岸か左岸が分からないと、対策できないということではないだろう。少ない情報をいかに活用するかという技術というか方法も考える必要がある」

佐藤議員 「そうそう、私は北上川が決壊すると聞いて、岩手県とばかり思っていた。自分の選挙区では被害は出ないと思い込んでいた。だけど宮城県側でも小規模ながら洪水が起きている。

佐川さんも報道とかを見聞きしているのだろうけど、被害が小さいところは報道さえされないというフィルターがかかっていると自覚しないとならない」

遊佐議員 「佐藤さんのところの被害はどうだったの?」

佐藤議員 「数十戸の集落が床下浸水した」

遊佐議員 「それじゃ報道しないわね」

佐藤議員 「まあ、今回は選挙区を歩いて、今年はもう台風シーズンになったから注意しろと歩いたことは、地元では噂になったそうです」

鳥海議員 「それは良かったじゃないか。仮に行かなかったなら・・・待てよ、台風が過ぎてから地元に行ったのかい?」

佐藤議員 「いや、行っていない。行かないと不味いよね。
ちょっと待て、秘書に直近でいつ行けるかと、向こうへの連絡を取ってもらうわ」

電話する

佐藤はその場で携帯電話を取り出してかける。


山田危機管理監 「伊藤君、少しの情報から、より多くの情報を拾うという手法があるのかい?」

伊藤事務官 「先ほどCCRということを言いましたが、そういう考え方もありますね」

山田危機管理監 「CCRってどんなものですか?」

伊藤事務官 「心理学や記憶取り戻すのに使われる手法です。京都旅行に行った人に『京都はどうだった?』と聞くと、『良かった』とか『お寺ばかりだった』とかでおしまいです。

でも京都のお寺はどうだった、何が良かったのか悪かったのかと、セグメントを区切って聞けば、相手の答えは豊富になる」

山田危機管理監 「それは警察の事情聴取のテクニックだね。風貌はどうだった? と聞いても曖昧模糊だ。
髪の毛の色は、長さは、くせ毛かストレートかパーマか、と聞くと相手の記憶を呼び起こせる」

佐藤議員 「それは記憶を思い出させるには有効かもしれませんが、元々書いてないことは分かりませんよ」

山田危機管理監 「二つの観点がある。
ひとつは佐川さんが『何月何日地震が起きる』と書いても、実はもっと深層には記憶が隠れているだろう。そういうものをすくいだせるはずだ。
これはまさにCCRそのものだ。

もうひとつはひとつの文章を我々が突っついて、他の出来事と日時が近いなら関連とかその間の社会の風潮とかを得られるかもしれない。そこから一読しただけではつかめない情報が得られることもあるだろう」

佐川真一 「なるほど、今までは私が何か言うと、そこからスタートしましたが、その記述を検証というか吟味するというステップがあるべきですね。
それによって私の勘違い、記憶違いも見つかるかもしれない」

遊佐議員 「なるほど、これが三人寄れば文殊の知恵という奴ね」

鳥海議員 「ちょっと思いついたんだけど、今回は佐藤さんも総務省主催の動きも自分が考えて動いたわけだ。
そうではなくて、当事者に考えさせるという方法もあるよね」

伊藤事務官 「当事者に考えさせるとは・・・・・・今回だって消防庁とか防衛庁も呼んで検討を進めていますが?」

鳥海議員 「例えば佐藤さんが地元に行って、市町村長に会ったとき、今年は台風が早くからくるから注意しろというのではなく、過去に大雨が降って洪水が起きたことがあるか、それはどこか、今は大丈夫か、決壊したらどうなるか、避難が必要な集落はどこか、避難ルートは、避難場所の布団や食料はどうなのか、そういうことを聞けば、相手に考えさせることができるんじゃないかな」

遊佐議員 「さすが鳥海さんね、素晴らしいアイデアだわ。
そういう問いなら、決壊するのが右岸ならどうか、左岸ならどうかを当事者が考えるでしょう」

伊藤事務官 「その場合は市町村長に予知されている情報を知らせないとダメなんじゃないか?」

鳥海議員 「仮定の話でも良いでしょう。例え話でも、受け止め方が真剣になりますよ」

山田危機管理監 「ところで、今、問題になったのは、行政が避難を命令できないことだ。被害が生じるところに住んでいる人たちに避難してくださいとしか言えない」

鳥海議員 「自衛隊も被害を見ていて助けたいのに、出動するとクーデターとみなされるからできないという」

遊佐議員 「バカみたい」

鳥海議員 「それが法律なのですよ」

佐川真一 「それは法改正をしてもらうしかありません」

鳥海議員 「そういうとリベラル(サヨク)の議員はクーデターが起きると言い出します」

遊佐議員 「ピースボートがソマリア沖で海賊に襲われないように海上自衛隊に護衛してもらったという話があったわね(注3)
好き勝手なことを言うなら、自衛隊に頼らないで話し合いで解決すればいいのに」

佐藤議員 「災害の場合は強制的に人を動かす権限が欲しいよね。佐川さんが言うように法改正が正攻法だね」

山田危機管理監 「日本は人柱が立たないと改善が進まないからね」

佐藤議員 「愚痴のこぼしあいになってしまったけど、まとめるとどうなるんだろう?」

遊佐議員 「まず佐川さんの予知を皆で熟慮すれば、もっと情報が読み取れるのではないかということ、
災害予定地での行政の首長への話の持って生き方を考えること
法改正の要点をまとめること」



うそ800 本日の嘆き


怪獣

映画ではゴジラが出てくるとすぐに自衛隊が出動する。
ちょっと待ってほしい。現在の法律ではまず不可能だ。
「ゲート(注4)など読むと、いかにその法律を守って<あるべき行動>をするのが大変だということが分かります。

モンスターが登場しても、自衛隊の武器が使えない。
そこで麻生太郎(注5)さんをモデルにした政治家が、自分の趣味の猟銃を持ってきて主人公の自衛官に「これを使え」という場面など、アホかと思いますが、まあ、法律を守ろうとするとそうなのでしょう。



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文末脚注
  1. ・政府広報 5段階の「警戒レベル」


  2. CCR(カテゴリークラスターレコード)
    忘れかけたことを思い出させる方法


  3. ソマリアでピースボートが海上自衛隊に護衛してもらったのは2009年で、この物語のときはまだ自衛艦による護衛は発生していない。

    2009/05/14ソマリア沖


  4. ・正式タイトル「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」柳内たくみ、アルファポリス、2006~2009
    クレー射撃

  5. 麻生太郎氏は1976年モントリオール五輪にクレー射撃で出場した五輪選手である。順位は41位だった。

    ちなみに日本人がオリンピックのクレー射撃では、1992年のバルセロナ五輪の渡辺和三の銀が唯一のメダルである。





参考文献
  1. 「中越大震災」、長岡市災害対策本部編、ぎょうせい、2005.7.15
  2. 「国会議員村長」、長島忠美、石川拓治、小学館、2007.1.19
  3. 「巨大災害に立ち向かうニッポン」、矢作征三、パピルスあい、2015.09.30
  4. 「首長たちの戦いに学ぶ災害緊急対応100日の知恵」森民夫編、ぎょうせい、2025.04.20
  5. 「東京防災」東京都(著)、東京都総務局総合防災部防災管理課、2023.11.01





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