注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
2004年4月末、ここは新潟県Y村の村役場である。
長田村長は自席で、頭を抱えている。
考えなければならないことがたくさんあるのに、頭の中がグルグル回っているようで、何も考えることができない。
一体、俺はどうしたら良いのだ?
東京に行ったときいろいろ言われた。そして先週ヘリコプターに乗せられて村を空から眺めたが、与えられた宿題には途方に暮れる。
ああ~、困ったぞ。
役場職員の”ゆいちゃん”が前を通り過ぎた。
「村長、財布を落としたような顔してどしたの? それとも暖かくなってきて眠いの?」
「考えなくちゃならないことがたくさんあるんだが、難しくてどうしたら良いか分からないんだ」
「簡単じゃないですか、相談するのよ」
「ゆいちゃんにか?」
「村長が分からないこと、私に分かるわけないでしょ。
問題を出した人に相談するの」
「問題を出した人・・・最初に俺に電話してきたのは伊藤って人だったな。彼とは名刺交換している。彼より偉い人の名刺はもらっていない。官姓名
そうか、まずは伊藤さんに相談すればよいのか?
よし、」
長田村長はすぐに受話器を取って電話する。
「内閣官房ですか? 危機管理監のところの伊藤さんをお願いしたいのですが・・・
あっ、私ですか、失礼いたしました。新潟県Y村の村長をしております長田と申します」
「えっ、内閣官房って? 官房長官のところ? 村長が? まさか違うよね、アハハ」
伊藤に電話がつながると、長田はいろいろ問題が多くて今後のスケジュールや個々の対策を考えなければならないが、頭がパンクしてしまう。誰か指導というか相談に乗ってくれる人を紹介してくれないか、できればこちらに来てしばらく支援してくれないかと頼む。
三日後、Y村役場に内閣官房からお手紙が届いた。
2003年のこの時代、行政からの通知や行政間の通信は、ほぼ100%紙であり郵便だった。官公庁はセキュリティ、決裁、記録、確実さなどの理由で電子メールや電子決済が普及しなかった。
電子化が進んだのは、河野太郎がデジタル大臣になった2022年以降だ。驚くことにフロッピーディスク(FD)を廃止したのはこのときだ。
ちなみにFDの生産・販売終了は、その10年も前の2011年であった。(現在でも海外の在庫品などが流通している)
手紙を読むと、行政機関には適切な人がいないので、内閣官房長官の個人秘書をしている企業で実務経験のある適任者を支援に出すとある。詳細は当人と話してほしいとのこと。
氏名は佐川真一、所属と連絡先が書いてある。
佐川という人とは名刺交換していない。
すぐに電話をすると、相手が出て翌々日に来て、数日滞在するという約束を取り付けた。宿は・・・民宿か役場の誰かの家に泊まってもらうしかない。ま、それは来てからだ。
長田は少し気が楽になって、どんな問題があるのか、いや何が分からないかをリストしようと考える。
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当日、長田は”ゆいちゃん”にN市駅まで役場の軽で迎えに行ってもらう。
都会から来るというから垢抜けしたイケメンが来るのかと期待していた。
一方の佐川は、吉宗機械の社内監査で旅がらすをしていたときと同じく、ソフトアタッシュをリュックのように背負った、ボサボサ髪である。
ゆいちゃんは佐川を見て正直がっかりした。
まあ、出迎えもレクサスでもなくクラウンでもなく、軽だからお似合いよねと自分で納得する。
駅からY村までの道のりで20キロ、結構な上り下りがあり、運転が免許取って数か月というゆいちゃんの運転はスリリングだ。役場に着いたときは正直ホッとした。
役場に入り、早速、村長と話をする。
「東京の総務省でもいろいろお話を承りました。また先日はヘリコプターからこの村を空から見て、避難などを議論しました。
ともかくペンディング事項が多々ありまして、山田危機管理監からは避難を地震前・地震後どちらにするのか、被災者住宅は事前か事後か、復興はどうすると、宿題をたくさん頂いております。
それに対して村としての方向を示さないと国としては対応できないとお叱り、いやフォローされておりまして・・・」
以下延々と愚痴が零れる。
「ご心配、ご心労よく分かります。まずは村としてどうしたいのかを、はっきりさせないと県も国も動けません。そこはご理解されてますよね。
そこをはっきりさせましょう」
「はっきりさせると言いましても、村人の意見もまだ把握しておりませんので・・・」
「それじゃ早速意見を聞きましょう。まず各集落を巡って話をして意見を聞きますか?」
「村民に地震が起きるって言うのですか?」
「そんな話をしたら皆が驚いて収拾つきませんよ」
「実際にそうなったのですか?」
「いえ、まだ何も・・・そうなると思います」
「うーん、集落ごとに進めると時間差ができて余計、疑心暗鬼になるかもしれませんね。できるなら全村民を集めて話しをしたいところです。
でも筋としては最初は村会議員に説明することでしょう」
「あなた、話を聞いているの?」
「聞いてますよ。皆の意見を聞かなくちゃならない、まだ聞いてないというなら、まずは聞かなくちゃなりません。
まずはどんな方法で聞くかですね」
「皆が驚いて収拾つかないといったでしょう」
「そうなるかどうか、確認してないんでしょう。
次回議会は・・・いや、明日にでも臨時村議会を開きましょう。招集をかけてください」
「分かりました。問題が起きたら佐川さんの責任ですよ。
段取りはしますけど、すべて佐川さんが仕切ってくださいよ」
「誰かがしなくちゃならないのですから私がしましょう」
長田村長は部屋を出ていく。佐川もその後を追う。
「ゆいちゃん、明日の夜、緊急臨時村議会を開催したい。大至急招集をかけてほしい」
「全員出席は無理でも仕方ない。通知だけは漏れなくしてください。
佐川さん、これでよろしいか?」
「それじゃ、絶対に出席という連絡にします」
「ゆいちゃん、議事録など必要なメンバーに残業を伝えておいて」
「りょうか~い」
翌日、17時、臨時村議会である。
村会議員12名全員が出席している。全員出席は年に何度もないというから、ゆいちゃんの努力の賜だろう。
「こちらの方は内閣官房から来られた佐川さんだ。この村に重大なことが起きるという説明に来られた。
では佐川さん、よろしく」
「まず私は内閣官房所属ではありません。内閣官房長官の私設秘書です。
内閣官房から長田村長へ指示事項があったのですが、込み入ったことで説明が難しいので、私が代わってお話をいたします」
「内閣官房・・・そういう国の機関からこられたとは、どういうことですか?
超重要とか国家的な問題ということかな?」
「話をすればご理解いただけます。まず10分ほどお話をさせてください。
最近はわが国でも地震予知が進歩してきました。ここ数年で数回地震が起きる日時を当てるまでになりました。そして今年になって来年起きる大きな地震が予知されました。
それは来年、10月23日に隣のK町を震央とする地震が起きます。
よく震源という言葉を使いますが、震源とは正しくは地震の起きた地中の場所を言います。その真上の地上の地点を震央と言います。
現在、予知されているのは地震の起きる日時と揺れの大きさだけです。震央であるK町が一番揺れが大きい。しかしこのY村は山地にあるために、地滑りとか道路や橋の損壊が多々発生するだろうと予測されています。
この村と外を結ぶ道路は、揺れの大きさからほとんど崩れて通行できなくなると思われます。もちろん地震のとき車が走行していれば、土砂崩れに巻き込まれたり橋が壊れたりして事故にあうでしょう」
「おいおい、ほんとうかよ。政府が知っているなら当然ニュースになるだろう」
「ニュースになる前に、現地の皆さんに意見を聞きたいと、地震の被害を受けると予想される、県知事、市町村長を集めて総務大臣から説明がありましたのが今年の2月です。
しかしながらY村での進展がないために、今月自衛隊のヘリコプターで現地視察を行いました」
「ああ、先日飛んでたヘリコプターはそれだったのか」
「飛んだだけでねえべ、元の小学校の校庭に着陸したの見たぞ」
「え~、本題に戻します。
地震が起きるのは夕刻、一番揺れの大きいK町で震度7、Y村は震度6強です。大きな揺れで地滑りなどが起き、村内の建物や住宅はほとんどが損壊します。近隣の避難所に行こうとしても先ほど申しましたように不通です。
道路ダメ、村内で寒い夜を越すような安全な建物はない、となるとヘリコプターで安全な避難所まで運ぶしかありません。
先日、ヘリコプターが飛んだのは、この村でヘリが降りられるところがどこかを確認したのです。Y村には集落が10いくつあるそうですが、
ヘリが降りられる場所は4つの集落だけだそうです。
怪我人だけではなく全村民ですから3000人、ヘリを自衛隊、警察、消防からかき集めて運ぶことになります。
まず皆さんに確認したいのですが、そういう方法が良いのか、地震発生日時が予測されているなら、数日前に自分の車で指定された避難所に移動する方が良いのではないかという提案です」
「それだけ聞けば事前に避難しているのが良いように聞こえるが、実際には牛を飼っているし、農作業もしなくちゃならないし・・・」
「俺もそうだなあ~」
「予め覚悟してほしいのですが、来年、農産物は9月までと割り切ってください。山が崩れるような地震です。10月下旬以降は畑も田圃も崩れると覚悟してください」
「信じられないが・・・そうなら諦めるしかないな」
「牛はどうする。角突
「錦鯉もいる」
「大変厳しいことを言わせてもらいますが、今までの暮らしは激変すると認識してほしい。もちろん全部失うとか捨てろというわけではありません。
牛なら、あまり地震の被害が起きない近くの町の農家に委託するとか、何軒かまとめて遊休農地を数年間借りて飼育するとか、考えないとならないでしょう。
錦鯉なら全部でなく、大事なものだけほかの土地で養殖するとか考えられませんか」
「1年後くらいには元に戻れるのか?」
「それは分かりません。大地震が起きるのは間違いありません。しかし被害がどうかは、起きてみないと分かりません。
いずれにしても激甚災害ですから、国家予算を組んで復興計画は作られるでしょう。復興と言ってもどこまでできるのか、何年でできるのか、そういったことは現実の被害状況によってですね・・・
神ならぬ人の身ですから、崩れてしまった山を元に戻すとか、流れが変わった川筋を戻すことはできないでしょう」
しばし沈黙・・・・・・
「若い者は村から出ていくかもしれんな」
「最初に後でと申したことですが、私はこれからどんなことが起きるかをお話しするだけです。
皆さんが、それを聞いて泣くだけでおしまいか、復興するぞと考えるか、それは皆さん次第です。
地震まで、まだ1年以上あります。対策を考えて実行する時間はあります。
いずれにしてもこの予知されたことを前提にどうするかを考えて欲しい、というのが総務大臣から出された宿題です。
政府としてはY村が宿題を出してくれないので困っているのです」
「なこと言われても知らなかったわ。村長、なぜ黙ってた?」
「それを皆に知らせたら、自棄になってしまうかと思っていたんだ」
「な、バカな」
「知らないでいて地震になって、命からがらヘリコプターで運ばれてもしょうがないわ。
そういう情報は一刻も早く皆に知らせて、先のことを考えないとな、そうだろう」
「じゃあ、予め避難所に入って地震を待つ方が良いのか?」
「地震が起きるまで知らずにここにいて、ヘリコプターで避難する方が良いとは思えんな」
翌日、村役場で長田村長と佐川が話している。
「村長、話してみれば、揉めるなんてことはなかったでしょう。
各集落で、村会議員が説明するという展開にすれば、大騒ぎにならずに皆さんじっくりと考えてくれるでしょう」
「各集落で村会議員に説明してもらえば良いのか?」
「村長が出なければいかんでしょう。もちろん私もお供します。
でも事態の説明、どういう選択肢があるかの説明、民の意見の収集、それは村長のお仕事です。
ふだんは昼行燈でも良いですが、一旦事が起きた場合、リーダーシップをとって仕切るのは村長、あなたですよ」
「そうなんだ。恨まれる、憎まれる、それが村長の仕事と前任者から言われたな。
よし、がんばります」
「頼みますよ。村長のお仕事は説明するだけでなく、皆さんの意見をまとめて結論を出すことです。
しかし村長は1人ぼっちではない、村会議員という仲間がいるでしょう」
「佐川さんが来てから、からまった問題がほぐされてきたようだ。
頑張ります」
本日の想像
昔、50年ほど前、中国で地磁気を測って地震を予測して、大勢の人を屋外に避難させて大災害を回避したということがあった
真に地震を予知して予め避難をさせるには避難場所や暖房などの対策をしていないと避難者が自由意思でバラバラになる恐れが大だ。
311のとき、私が以前働いていた工場では雪がちらつき寒かったけど、揺れるたびにコンクリートの工場が崩壊する音がして、建物の中に戻ろうとする人はいなかったという。
凍えるような寒さでは避難を徹底させることは難しい。
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翌年1976年の唐山地震では予知がされず、24万人が死亡した。2004年のスマトラ沖地震の死者は22万と言われるから、それ以上だ。![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |