注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:タイムスリップISOとは
注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。
2004年5月となった。M研の関わるトラブルは浜ノ真砂ほどではないが、途切れることはない。
とはいえ、メンバーは会社員の経験や、若くても議員をしていれば、日々、異常事態の発生も慣れたものだ。
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そして今日も出勤時間より30分前に座っている。
オフィスワークなんてどこでも同じだ。朝、始業前に、紙の郵便物、通知、回覧、その他の資料を片付け、パソコンのメールボックスに溜まっているメールや通知などを片付け、始業のベルが鳴るときには、その日に予定していた仕事をスタートできるようにしている。
もっとも、それは常に希望であって、現実はいつも突発的な出来事があるものだ。いつも突発的とはどういう意味だろう?
メールボックスを開けると100通ほどのメールが溜まっていた。数はいつものことだし、自分だって相手が明日の朝 読むだろうと、終業時に数十件のメールを出しているから驚くことはない。
とはいえ今朝は同一内容のメールが複数来ているのに驚いた。
それはISO認証誌がBCMの討論会をするということ、そしてそれに出て欲しいというお誘いのメールだった。
オイオイ、出席するにしても、自分はどの立場で出るのだろう? 企業のISO担当者なのか、内閣官房の非公式プロジェクトのメンバーとしてなのか、押田編集長のお招きでなのか?
まあ、出席依頼の優先からすれば、主催者である編集長の招待でというのが筋だろう。
佐川は押田編集長に招待ありがたく出席すると返事をし、その他には、それぞれ事情を書いてお礼を出す。
数日後、山田危機管理監が佐川の小部屋に入ってきて、相談があるという。
「この招待状は、BCMの認証がどのような効用があるか問題があるかという討論のようだ。それでさ、今年初め、経産省の西田さんからBCMの話(第178話)を聞いたが、どうも納得いかないのだ。
佐川君よ、BCMの基本のおさらいと議論になりそうなことを教えて欲しい」
「基本から話させてもらいますと、BCMとは大規模な災害などが起きたとき、業務や事業が滞ったり、もし頓挫しても速やかに復久できるように、予めそういうリスクを洗い出しておき、問題が起きないよう対策したり、発生した場合に対処する計画を立てておくことです。
非常事態に備えることは以前から、それこそ江戸時代の商店だってしていたでしょう。
盗難に備えるとか、火事に備えて別宅に帳簿の写を置くとか・・・。
ただ対応策も店毎に考えたはずで、店により違いがあり一般的なものではなかったでしょう。
イギリスは管理を標準化、つまり基本になる方法を決めて、企業はそれに合わせれば上手くいくと考えているようです。
ISO9001をご存じかもしれませんが、品質活動として何をすべきかを、ISO規格にして大成功しました」
注:佐川の話は素人に説明しようとしたもので、ISO9000sの本当の目的とは違う。
ISO9000sの目的は、1980年代、当時B2Bでは品質保証を要求するのが増えており、その品質保証要求事項が会社によってバラバラであるのを統一しようとしたのである。
ISO9001:1987の対訳本である「品質保証の国際規格」のP.209からの「品質保証規格9000シリーズについて」で経緯が詳しく書かれている。
「ISO9000sと第二弾のISO14001の認証が増えてビジネスとして大成功を収めました。その成功体験が忘れられないようです。
それに味をしめていろいろな管理項目ごとに、システム(仕組み)が具備すべき要件を定めたISO規格を作るようになりました。
そしてそれに適合しているかを点検し認証するというビジネスが流行りまして、手当たり次第に標準を作ってその審査登録・・・認証と称していますが、そのビジネスが興隆しました。要するに金儲けですね、認証ビジネスとも呼ばれています」
「マネジメントの規格を作って、それに適合しているか審査して、お金をもらうビジネスが成り立つのか?」
「その通りです」
「うーん、ちょっと想像がつかないな。いや、そのビジネスの枠組みは理解したよ。
でもさ、お宅の会社はBCM規格に適合していますと言われたとしよう。
でも実際に災害が起きたとき、認証した会社と・してない会社と比較して、認証していれば被害が少なく、復旧が早いとは限らないじゃないか。
ビジネスというからには、その認証にお金を取るのだろう。その会社が規格適合と言われてその効果がなかったら、どうするんだ?
民亊訴訟とかになるのかな?」
「そうお考えになるとは、さすがですね。
しかし、そういうことはありません。認証ビジネスは認証の効果を保証しません」
「保証しない・・・というと認証の効果とは何かね?
そうであれば認証しようとする会社はないだろう?」
「認証の効果ですか・・・それは謎ですね。でも似たような制度は多々あるのです。思い浮かんだのは検定ですね。
検定っていろいろありますよね。
珠算、漢字、簿記、英語、MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)、エコ検定、ピアノ検定、スマホデビュー検定、家事検定、もうなんでもありです。
注;検定を英和辞典で引くと「certification」であり、英英辞典で引くと、「the official act of approving a person, organization, or product and saying that they reach particular standards of ability, quality etc」、訳すと「個人、組織、または製品を公式に承認し、それらが特定の能力、品質などの基準を満たしていると宣言する行為」とある。
ISO認証を思い浮かべるとそのようだなと思うが、検定もよく考えるとそう思える。「認める」だけで保証もしないしプライズでもない。
「ところで検定は資格ではありません。資格というものは、それがなければ、資格者を名乗ってはいけない、してはいけないとか、業として行ってはいけないとか、しばりがあります
しかし検定は資格と違い、国の検定でも民間でも、仕事するうえで必須なものはありません。技能検定などは腕が良いことを認めるもので、検定合格でないと仕事をしてはいけないわけではありません。
検定とは何かの作業を行う能力が一定レベルであると認めるわけです。
しかしながら検定合格は、実際の力量を保証しません。英検1級と言っても、英語が話せるか話せないかはその人次第です」
「何も保証しないのは変だとは思うが、考えてみると柔道でも剣道でも同じか。
若いとき四段を取れば、年寄りになっても四段を名乗っている。高齢の四段が機動隊の若い二段より強いとは思えない。
それどころか、政治家や著名人には名誉段位を出しているし・・・彼らは『名誉』を付けずに自称してるし」
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検定はそれに比べてランクがあっても3段階くらいで、比較するには使えないでしょう」
「なるほど、段位は名誉でもあるし肩書にもなるが、1級技能士が必ずしも2級技能士より腕が良いわけではないと・・・」
「認証はかっこよく見えるかもしれないが、会社の業務に役立つかは分かりませんし、ビジネスとは無縁で、意味があるか分からない。そんな感じです。
そしてですね、昨今はISO認証企業の事故や企業犯罪が多いと言われ、認証の価値というか意義は揺らいでいます。新聞報道などご覧になられているでしょう」
注:ISO認証企業の不祥事が問題になったのは、2000年頃からだ。その辺の経緯は第117話から120話(1998~1999年)で書いた。
このお話は今2004年で、ISO認証の信頼性が揺らいだ真っ盛りの時期である。
「そういや環境事故や不祥事があると、『ISO認証しているにも関わらず』と枕詞が付いていたな。不祥事を起こしても、認証してないほうが当たりが良さそうだ。
ISO認証を検定と考えれば、『認証しているにも関わらず』という言い方がお門違いになるね」
「それから忘れてはならないことがあります。
すべての分野において固有技術と管理技術というものに分けられます。
製造しているならその製品対応の設計技術や製造技術、扱っているのがサービスならサービス対応の技術があります。そういうのを固有技術と言います。
それとは別に仕事をミスなく効果的にする管理技術と呼ぶものがあります。会社の仕組みを定めたものは管理技術です。
ISO規格で会社の仕組みを定めているので、マネジメントシステム規格、略してMS規格と呼ばれています。システムですから固有技術は含みません。
山田管理監は警察畑ですから、警察なら、逮捕術、射撃、業務に関する法律知識などは固有技術で、人員の配置とか運用などは管理技術になります」
「なるほど、そしてISO規格が扱うのは管理技術だけということか」
「固有技術は同じ製品であっても独自性があり一般化できません」
「警察業務なんて、どこも同じだよ。地域、刑事、生活安全、交通、警備、公安、少年、交通、」
「日本国内ならそうかもしれません。でも日本とアメリカでは犯罪の割合も法律も違います。

日本では犯罪の70%は窃盗で
凶悪犯罪は日本では1%、それに対してアメリカでは16%です。ピストルを撃つ機会も大きく違うでしょう」
「オイオイ、映画の見過ぎだよ。アメリカだって一生に一度も人に向けて撃たない警官がほとんどだよ。
とはいえ毎年100人から130人が殉職している。日本では警官25万で殉職者10名程度、アメリカの警官66万で115人とすると、3.5倍だ。内6割が業務執行中に銃で撃たれたもの、4割りが交通事故だ
まあ、向うは歩くとか交番勤務というのはなく、勤務中は常に車に乗っているから事件でない事故も多い。
なるほど、いずれにしてもところ変われば状況は大きく違うなあ~」
「BCMの対象となるリスクも国によって違います。日本なら地震、風水害、情報漏洩あたりが上位に来るでしょう。
しかし国によっては、感染症(パンデミック)、テロ、暴動、労働問題などが上位になるかもしれません」
「今までの話をまとめると、国により事業により、取扱うリスクは様々ということだね?」
「そうです。そしてそれ以前の話ですが、先日の西田さんの話にあったように、まだBCMの規格というのは出来上がっていません。
イギリスが試案を作って公開したのが、昨年2003年です。
ですからISO認証誌が関心のある人を集めて討論させようというのは、認証業界にとっては話題作りになるし、雑誌社にしてみれば特集号は売れるだろうという期待があるでしょう。
しかしそれを認証 させられる する企業から見れば、海のものとも山のものとも不確実なものを真面目に議論しても意味がなさそうです」
「そうだったね、ということは集まっても成果の出るような結論は期待できない・・・いや、ISOは各国から委員が集まって討議してドラフトを作るのだろう。結論をその委員会にインプットできないのか?」
「そういうのはしっかりと筋道が決まっています。先日来られた経産省の西田さんが検討を進めていると言ってましたでしょう。
ドラフトの各段階では、公式にパブリックコメントを行い意見募集します。各方面からの意見は取りまとめてISOに持っていくでしょう。それは国の仕組みですから。
しかし雑誌社が開催するような懇談会は、直接的には反映されません」
「なるほど。じゃあ意味のない集まりということか」
「厳しく言えばそうです。ただこれに参加したり討議の内容を見てパブコメに応募する方はいるでしょう」
注:私は現役時代、ISO規格でも環境法令でも制定時、改定時にパブコメがあると必ず意見を出していた。
もちろん「採用します」なんて返信が来たことはなく、「あなたの意見は十分反映されていると考えます」とか「〇〇に矛盾します」なんてことばかりだった。
山田危機管理監は頭の後ろで腕を組み考える。20世紀ならタバコを吸うところだが、森官房長官が吸わないので、自然と内閣官房では室内禁煙になっている。
しばし沈黙後、山田危機管理監がぽつりと言った。
「調達先を複数にするとか、工場が損壊したときは別の工場で生産するとか事例があったが、いずれも大会社とか事業所が複数ある場合だよな。
BCMは工場一つとか小規模の場合は効果がないんじゃないか?」
「確かにあの事例は一拠点とか小規模企業ではできないというか非該当ですね。
とはいえ工場がひとつでも製造ラインが喪失したときどうするか、部品が入らないときどうするかということは、平常時でも対応策を考えておかねばならないでしょう。
そういう心構え、いや危機の際の代用方法を考慮しておくことは重要ですね。
とはいえ、規模が小さいところは、対応できることに限りはあります」
「警察も同じだな。交通事故が同時に複数発生したらというのは考えていても、交番が同時に複数襲撃されたらというのは普通考えない」
「感染症が流行して警官が多数病欠したらとか想定しているのですか?」
「程度問題だね。7割も病欠になったら機動隊を回しても足りないよ。
BCMだって同じだろう。設備や人員が損害を受けたとき、復旧を急がねばならないのは会社も警察も同じだ。
でも企業なら製品出荷までひと月待ってくださいと言えるだろう。でも警察は事件が起きれば、ひと月待ってくれと言えない」
「現実問題として、BCMの発想は完璧にできなくても、考慮すべしということですかね?」
「家族経営とか一人親方は対応できそうないな。
そもそも自転車操業の会社では、事業継続で考えることの第一は資金繰りだろう。
理想を語るだけで実効性はどうなのか?
つまるところ、できることは従来の非常時対応と同じとなる。斬新さはない」
「BCMは言ってみれば汎用の一般解です。使うには自分の会社に合わせた修正が必要です。
そして我々がM研でしていることは、与えられた条件での最適解を求めることです。
囲碁では着眼大局着手小局と言います。しかし大局を考えるのが上位とか、
抽象より具体的はレベルが低いということはありません。大局が見えても戦いにおいては力技が使えなければ意味がないのです。
狭い局面であっても全力で戦い成果を出すことは誇るべきです。
自分の担当が戦略ではなく、戦闘であることを卑下することはありません。戦略が優れていても、戦闘で負ければ戦争は負けです」
「よく分かった。
さて、ISO認証誌の会議では、どういう方向で意見を持っていけばよいのかな?」
「山田管理監、そんなこと気にすることはありません。単なる座談会ですよ。申しましたでしょう、意見をまとめてISOに持っていくようなことはないって、
私は民間人ですから自由に発言します。管理監は政府高官ですから、語る言葉が重い意味を持ちます。
ですから極端に走らず、担当者を励まし、期待しているニュアンスを醸し出せば良いと思います。
いずれにしても座談会ですよ、委員会のように真剣に討議して結論を出す会議ではありません。」
本日の印象
物語が政治に飛んでおかしくなったと思われた方、しっかりと最後はISOに戻りますからご安心ください。
大好きな山本譲二には、みちのく一人旅という歌もありました。
| <<前の話 | 次の話>> | 目次 |
| 順位 | 犯罪の分類 | 割合 |
| 1 | 窃盗 | 60% |
| 2 | 車上荒らし | 12% |
| 3 | 住居侵入強盗 | 12% |
| 4 | 加重暴行 | 12% |
| 5 | 屋外の強盗 | 3% |
| 6 | 強姦 | 2% |
| 7 | 殺人 | 0.3% |
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