注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:ISO昔話とは
高原さん ![]() |
吉永さん |
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山田さん |
「今日は品質マニュアルの話をします。そして今日の目的として、品質マニュアルがどのようなものか理解してもらい、どのように作るかを決めたいと思います」
「そう言われても全く分かりません」
「それは分かっています。とりあえず品質マニュアルをどんな形で作るかを、今日決めたいということだけ頭に入れておいてください。
さて前にも説明しましたが、品質マニュアルとはISO規格要求にはありません。審査がしやすいように認証機関が審査契約時に作成と提出を要求しています。
マニュアルに書く内容は、認証機関によって若干違いはありますが、まあ、ほとんど同じです。
大体どこも品質マニュアルに要求することは次のようなことです。次のことを盛り込めばよろしい」
そう言って高原さんはホワイトボードに要点を書きだす。
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「まあ難しいものではありません。世間では品質マニュアルを非常に重要な文書だなんていう噂もありますが、重要なものではありません。
むしろ品質マニュアルの裏付けとなる会社の規定類が揃っていることと、その中身が重要です」
「うーん、その会社の規定ですが、何もないのが玉にキズでして・・・」
「規定とは単なる呼び方であって、どのような形でも名称でも良いのです。規格要求に対応することを決めている社内の文書があればよい。
マニュアルでは、ひとつひとつの要求事項が、それぞれどの文書で詳細を決めてあるか分かるように、名前または番号を記載してあれば良い。それだけのことです」
「私の知り合いが勤めている会社でもISO認証活動中です。そこでも会社の規定がなくて規定を作るのが大変だと、要求事項に対応することを全部、マニュアルに盛り込んでしまうと聞きました。
そういう方法もあるのでしょうか?」
「そんな方法もあるの! その方が簡単そうだな」
「そういう方法を推奨するコンサルもいます。また最近ISO関係の雑誌で、そういう方法を推奨する記事がありました。
たぶん、そこではそういった記事を読んだのでしょう」
注:1995年頃だろうか、そういう方法を取るべきだと騙るISOコンサルが多々いた。彼らは会社で文書管理などしたことがなかったのか、頭の中で考えただけだったのだろう。
もっと時代が下ってISO14001のときだが、どこかのNPOが紙一枚のマニュアルを作ったと雑誌に取り上げられた。大勢が素晴らしいと持ち上げていた。私には少しもスバラシイと思えない。
ISO認証するならどんな方法でも良い。だけどISO認証制度がなくなろうと、投じた労苦とお金を無駄にせず、会社に貢献する方法を考えるべきだ。
持続可能な組織はやはり文書化されたシステムが必要だ。名人一代で滅びるなら良いが、長持ちするのは石に刻んだ文字が最強だ
もちろん、どのように文書化するかは、ISO規格にあるように、「組織の目的、製品又はサービスおよびその組織固有の慣習によって影響を受ける(ISO9000:1987序文)」のだ。だから品質システムも文書もユニークなものになる。
「それで良いならその方法を取りたいですね。規定なし、マニュアルのみで済むなら最高です」
「それは簡単に聞こえますが、規格要求や認証機関の要求を満たす労力は同じですよ」
「知り合いの話では非常に簡単だと聞きました」
「その会社はISO認証したのですか?」
「いえ、来年度審査を受ける予定です」
「そうですか・・・無事OKになれば良いですが」
「その方法は問題があるのですか?」
「問題と思うかどうかはその会社次第でしょう。
例えば品質方針の規定を作るとしましょうか?」
「品質方針の規定って何ですか?」
「仕事はすべて規定で定めなければなりません。おっと、間違えました。会社のすべての仕事はルールにしなければなりません」
「規定と、会社のルールとは、何が違うのですか?」
「会社の仕事はすべてルールで決めなければなりません。そしてルールは文書にしなければなりません。
ISO規格がそう決めているからです。
ですが会社のルールの呼び方は、規則でも規定でも手順でも別の名前でも良いです。ISO規格のprocedureを、日本語に翻訳したとき手順という言葉を当てたのです。
手順とは、手続とか順序という意味です。しかし日本の法律では手順という言葉を、会社のルールという意味で使います。ですからISO規格をJIS規格に訳すとき手順を当てたのでしょう。
実際には社内のルールは『規定』あるいは『規程』という名称が多いです」
「高原さんの言いたいことは、規定でなくて別の呼び方でもよいということね?」
「その通りです。いずれにしても文書にしたルールでなければなりません」
「ともかくたくさんの規定を作る代わりに、マニュアルに規定の内容を盛り込んでしまえば規定はいらないことになりますね」
「それは良い方法だと思うわ。ダメな理由があるんですか?」
「その方法がダメとは言いません。皆さんの会社ですから、皆さんが良いと思う方法で進めればよろしいです。しかしメリットばかりでなく当然デメリットもあるのです。
品質方針について考えただけでも、ルールを決めなければならないことはたくさんあります。
方針に盛り込む事柄、作成方法、決裁ルート、決定者、見直しや改定のときの手順、制定あるいは改定された方針を従業員に知らせる方法などですね。
それから方針制定の伺い書も必要でしょうから用紙様式を決めると、それもルールに盛り込まないとなりません。
決裁したサイン入りの原本の保管方法もあるでしょう。
それぞれ1行で済むとは思えません。想像ですが品質方針についてのルールは、文字数にして2,000字、A4サイズで最低3ページになるでしょう。用紙様式もあれば、それも1ページになるでしょう」
注:「用紙様式」とは報告や申請などの書類の様式を定めたものの呼び名
市役所や総務などに行くと様々な申請用紙が並んでいる、そのようなものをいう。
「品質マニュアルに全部書き込んでしまうと、それが要らなくなるのね?」
「それはいいなあ~」
「確かに規定を作ることはなくなりますが、その代わり規定と同じ文章をマニュアルに盛り込まなければならなくなります」
「ええと・・・マニュアルの品質方針の取り扱いを規定にしない代わりに、マニュアルの方針の項目に規定と同じ文章を入れるということですか?」
注:たびたび「規定」という言葉が出て来るが、ここでは会社のルールを定めた文書の意味だ。
「品質方針取扱規定」なら、品質方針の作成・決裁・周知などを決めたものと理解してほしい。
「そうです。用紙様式まで入れると、マニュアルの厚さは、規定をすべてをとじた規定集のファイルと同じ厚さになりますね、アハハハ」
「規定集の厚さってどれくらいになりますか?」
「会社によって違います。ISOのためであれば、福利厚生や経理の仕事のルールは作らないでしょう。それでも規定の数は20以上になるでしょうね。
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帳票類、いわゆる伝票ですね、そういうものもあるでしょう。
それだけでなく、不良品に付けている記入項目が印刷された荷札がありましたね。あれだって規定で様式を決め、ルートを決め、保管とか廃棄する手順を決めないとならないですよ」
「あれは現場の人たちのアイデアで作ったものです。上から言われたものではありません」
「そういう曖昧な存在は許されないのです。それがISOの厳しさです。
現実に使っているならルールで定める。ルールに決めてないなら使わない。
もしみなさんが改善をして現場用図と違う仕事をしていれば、ISO審査ではすべて不適合、すなわちNGになります。
これは改善をしてはダメということではありません。改善したらすぐに規定や現場用図を改定しないとダメということです」
「現実には改善や材料が変更になったものなど、現場用図と実態が違うものはたくさんありますね。
荷札も受入検査用と工程内不良品、最終検査と皆、様式というか印刷している内容が違うのです。元々は一種類だったのが、分類しやすいようにと、いつの間にか変わっていました。現場の人たちが良かれと思ってドンドン変えてしまうのです」
「えー、帳票か荷札の数だけ手順書を作るの? それは大変じゃない」
「帳票類規定と現品票規定を作って、それぞれが伝票類と荷札類を全部、定めたら良いんじゃない」
「それもそうね、う~ん、でも考えると例えば部品や材料の払い出しと払出伝票は密接よね、
だったら材料管理規定を作って、その中で払出伝票と現品を示す荷札の取り扱いを決めるべきじゃないかしら」
「伝票はそれぞれを使うことを決めた規定に、盛り込んだ方が良いということか?」
「そういうことは、これから使う人や工場長や社長の意見を聞いて、決めていくことになるでしょう。今から細かいことまで一つ一つ決めていたら進みません。
今日決めることは、品質マニュアルをどういう形にするかということです」
「ハイ、分かりました」
「今までのお話をまとめると、マニュアルにすべてを盛り込まず、仕事毎に規定を作り、マニュアルはそれらを引用するのが良いということですね」
「私はそう考えます。
規定を作らず、すべてを品質マニュアルで決めていたらどうなるか、ちょっと考えてみましょう。
例えば何か一つの仕事の手順を変えるとか、伝票の記載項目を変えたとしましょう。そういうことが発生するたびに品質マニュアルは改定になります。
品質マニュアルの差し替えはページ数も多く大変ですよ」
「規定を20個作るとして、ひとつが10ページでも200ページか。
規定を作らないのだから現場にも配布しなければならないし、認証機関にも提出しなければならないと・・・
コピーするのも大変ですし、お金もかかりますね」
「品質マニュアルを規定で支えているなら、マニュアルに書き換えが起きるのは、そう多くはないでしょう。伝票の内容を変えたとか、計測器の校正間隔変更とか、決裁者の変更などはマニュアルには無縁です。
そして規定ならせいぜい10ページ、たいていは数ページですから、差し替えも手間暇かかりません。
これからISO認証に向かって規定を作り、それを運用して不具合あれば改定が相次ぎます。
なるべくお金も手間もかからないようにすべきです」
21世紀の企業では、社内文書はイントラネットにアップして、紙のファイルを配布するのを止めた。
そうなると会社のマネジメントは、大きな一つの文書の章別にしたのと変わらない。
ただマニュアルと規定の絶対的な違いは、外部に出せるかコンフィデンシャルかの違いである。
おっと、高原氏は規定類が会社の秘密であり財産であることを説明するのを忘れている。実は私が書くのを忘れていて後で気づいた。
それ故、詳細手順まで盛り込んだマニュアルは、コピー禁止とか譲渡不可の契約を結ばずに他人(認証機関を含む)に渡してはいけないものなのだ。
その点、規定を引用する形式のマニュアルなら、情報漏洩の危険は少ない。
「なるほどなあ~。
それじゃ山田さん、品質マニュアルには概要のみ記載し、詳細は個々の手順書で定めることで良いですか?」
「それしかないわね。規定を作らないと聞いたときは、素敵って思えたんだけど」
「それでは細かいことは後にしても、今日は規定をいくつ作るかを検討しましょう」
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その後、3人はマニュアルで必要とする・・・それは規格要求を満たすためと同義だ・・・規定の数を数え上げた。要求事項対応で規定を作るのではなく、組織の常識というか運用上で妥当な分割をすると、24本の規定があれば十分だろうという結論になった。
なお、このとき認証予定はISO9001ではなくISO9002である。佐藤マシニング(有)には、製品設計がないから、その分、規定も少なく手間も省けた。少しだけど。
注:この時代は品質保証規格としてISO9001、ISO9002、ISO9003とあり、それらを合せてISO9000s
なおISO9002認証組織は多数存在したし私も関わったが、ISO9003認証企業を見たことはない。
通常ISO9000と称するときはISO9000sを意味することが多い。
注意すべきは「ISO9000 品質管理及び品質保証の規格-選択及び仕様の指針」という規格も存在した。ISO9000はその後廃止され、現在は再び「品質マネジメントシステムー基本及び用語」としてよみがえっている。
山田が、高原と吉永が語ることをホワイトボードに書いていく。
書けることは、まだタイトルと項目だけだが、イメージはだんだん具体的になっていく。それを見て吉永と山田は、少し前進していると感じてうれしくなる。
「作るべき規定のタイトルと内容はだいたい決まりましたね。
こう見てみると、どれも必要性があるように思える。そして必要性が分かるということは内容も見当がついたということだ」
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「規定と言っても普通の文章だ。そこで決めることを普通の文章で書いてくれればよい。SVOCと言うべきか5W1Hと言うべきか、漏れなく書くのを忘れないこと。
最初は調子が出ないだろうけど、三つも書けば要領が分かります。
すべてを完璧に埋めようとすると完成しません。ですからこういうことを書かないとならないと思ったら、項目だけ挙げて内容は書かなくても良いです」
「品質マニュアルも規定も書かないとならないわけでしょう。規定とマニュアルを書く順序はどうなりますか?」
「お宅の場合、規定が全然ないという状況です。ですから一方を完璧にして、それからもう一方を仕上げるというのもなかなか難しい。
それで両方、骨組みだけでも作って、左右を少しずつ埋めていき、徐々に両方を仕上げていくのが良いと思います」
「山田さん、まだどうなるか分からない。それでとりあえず高原さんの言われるとおりに進めましょう。
規定が10個くらい形になれば他の規定もどんどん書けるようになるだろうし、マニュアルと規定の齟齬とか過不足などが分かるんじゃないかな」
注:法律や規定は正しくは「本」と数える。「今国会で70本の法律が制定された」という言い方をする。
ちなみに毎年の通常国会(会期は150日)の間に、60~80本の法律が審議され、60~75本が改正法を含めて成立している。
「そうですね。まずはやってみてください。
次は10日後にお邪魔します。そのときまでに規定を10個くらい書いてみてください」
「規定10個は書けますかね?」
「書くべき項目を最初に間を開けて項目だけ書きます。そして各項目のわかる範囲で書いてみてください。
項目は例えば、目的、定義、適用範囲、実施事項、運用、記録、用紙様式、そんなことです。定めることによって内容が違います。格式高く書くことはありません。
規定を紙に手で書くと修正とか再利用が難しい。それでパソコンで入力すると便利です。
パソコンはありますか?」
「DOSVのパソコンが1台あり、WORDが入っています。手で書くよりきれいですし、使い回しや修正が楽です。
最初に規定の様式を作りましょう。タイトル、本文、ヘッダー、フッター、それに条項の取り方、行間などを決めておいて標準書式としておきます。
規定を作るには、その空欄に必要事項を打ち込めば、頭を使うことありません」
「それは良いアイデアですね。山田さんはパソコンを使えるのですか?」
「はい、吉永さんも使えますよ」
「パソコンは一台ですか? 入力作業がたけなわになると、パソコン一台では足りないかもしれませんね」
「私は和文ワープロを持っています。和文ワープロで作った文書を3.5インチフロッピにセーブすると、パソコンでテキストデータだけ読むことができます。
それを規定の雛形に張り付けて行けば、1台で何とかなるでしょう」
この時代、パソコンは高くプリンタも高かったから、個人では和文ワープロを持つ人が多かった。
和文ワープロが衰退したのはwindows95が登場してからで、最後の新製品が発表されたのが2000年、製造終了したのは2003年であった。
「なるほど、じゃあそういうことで進めてください」
本日の気付き・・・いや気づいてほしいこと
品質マニュアルといっても、企業の大小、企業の文化、文書化の有無、作業の複雑さによって全く違う。
この昔話でも、アルファ工場では、従来からある規定の中から拾い上げれば、マニュアルは出来上がると考えている。
ベータ製作所では規定はあるものの、規定がすべてを網羅していないし、規定のメンテナンスも実施してない。このままでは使い物にならない感じです。
この佐藤マシニングでは規定がないという事態です。さてどうなるでしょう?
私は自分が中心になって認証したことも、よそ様の会社の認証を手伝ったことも、指導だけしたことも経験は腐るほどあります。
どんな状態でも手間を小さくしたいこと、ISO認証を止めたとしても作った文書なり記録なりは無駄にならないようにと工夫したつもりです。
普通のコンサルは認証さえ越えれば、後は野となれ山となれでしょうけど。
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