ISO昔話13 品質マニュアル4

26.10.12

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:ISO昔話とは



1992年11月末
アルファ工場である。オリバー、品証課長、品管課長、営業課長、設計課長が集まっている。


オリバー・テーラー 「お邪魔してから丁度ひと月経ちました。当初の目標である認証制度や規格の説明と品質マニュアルができたので国に帰ります。長らくお世話になりました。

品質マニュアルは規格適合です。ということは運用がマニュアル通りなら、間違いなく適合で認証が得られます。それは皆さんのお仕事です」

品管課長 「マニュアル通り運用し続けるのが難しいなあ~」

品証課長 「オイオイ、それを言ったらおしまいだ」


営業課長 品証課長 オリバー・テーラー 川田設計課長 品質管理課長
営業課長 品質保証課長 オリバー 川田設計課長 品質管理課長

オリバー・テーラー 「まあまあ、皆さんなら大丈夫ですよ。ULだって取っているし、今までも二者間の品質保証の経験はあったのですから」

品証課長 「二者間の要求よりISOの要求はあいまいなので、審査で規格解釈の議論になりませんか?」

オリバー・テーラー 「そこはみなさんの説得力ですよ。品質保証はQuality assuranceの翻訳、アシュランスには『裏付け』、『確実』という意味だけでなく『唯我独尊』、『傲慢』とか『言いくるめる』という意味もあります。
品証課長に必要な力量は説得力です。あなたは口先八丁だから大丈夫ですよ」

品証課長 「と言われると不適合が出されたら、私の説得力がないということか」

オリバー・テーラー 「真面目な話、そういう解釈もできます。
とはいえ強引に押し切らることもありません。現状が十分規格を満たしているということを、理屈と現実を根拠に説得するのです。これ大事です」

品証課長 「ということは審査員以上に規格を理解している必要があるね」

オリバー・テーラー 「その通り。規格といってもISO9000sだけではありません。現在有効なのはISO10011(注1)かな、そういった規格も十分読み込んでおくことです」

品管課長 「それは対訳本の末尾に収録されている規格だね?」

オリバー・テーラー 「そうそう、今回の認証機関にはイギリスの認証機関と契約しているので、向うから審査員が来ることになっています。
審査員がイギリス人でも日本人でも、イギリスでの審査経験があればおかしな解釈はしないでしょう。だから変な不適合は出さないと思います。

ただ日本語を話さない審査員の場合、規格と規定の関係、特に定めていることが規格を満たしているか質問するでしょう。通訳にも気が利いた人を当てることが大事です」

営業課長 「また松井さん松井に来てもらおうか」

川田設計課長 「これからの課題は、マニュアル通りにすること・・・ということは、そこで引用している規定を守っているかどうかの点検が必要になる。
品証課長、どのように進めるの?」

品証課長 「うーん、まずは各部門で自主点検してもらおうと考えているのだが、自主点検で不具合を見つけられるかが不安だ」

オリバー・テーラー 「何を考えているのですか、それこそ内部監査の出番でしょう」

品管課長 「内部監査? 内部監査ってなんだっけ?」

品証課長 「ええと、規格では・・・あっ、これこれ、
『供給者は、品質活動が計画された取り決めに従っているかどうかを検証するため、及び品質システムの有効性を判定するために、計画し、実行し、文書化した内部品質監査の包括的なシステムを運用する(ISO9001:1987 4.17)』」

川田設計課長 「なんだかよく分からん」

オリバー・テーラー 「文字通りで、迷うところはありませんよ。供給者とは認証を受けたい組織のことです。品質活動の計画とは何でしょう?」

川田設計課長 「うーん、品質改善計画とかかな?」

オリバー・テーラー 「しっかりしてください。品質マニュアルで引用している規定全体です。この定められた品質の製品を作る仕組みが品質システムであり、それはマニュアルで引用している規定の集合そのものです」

川田設計課長 「おお、そういう意味だったのですか!」

営業課長 「だとすると『品質活動が計画された取り決めに従っているかどうか』というのは、『規定を守っているか』と理解して良いのだな?」

オリバー・テーラー 「その通りです。さっき私が言いました。
つまり『取り決めに従っているかどうか』は、規定を守っているかを点検すれば分かります。

それは規定通りの仕事をしているか、作成すべき記録を作っているか、品質に問題がないか、問題があれば適切に対応しているかということになる。
次の『品質システムの有効性を判定する』とはどういうことでしょう?」

営業課長 「『有効性』の原文は何という言葉ですか?」

オリバー・テーラー 「文章は『Determine the effectiveness of the quality system』で、『有効性』の原語は『effectiveness』でこれは『望ましい結果や意図した成果を生み出すことができること』です。
『Determine』を『判定』と訳していますが、権限ある人が決定することではありません。本来の意味は『調べて判定する』とか『疑問を解決する』と理解してください」


注:大きな疑問がある。determineをJIS訳では多くの場合「決定する」と訳しているが、これは誤訳ではなかろうか。本来の意味は「意志による決定ではなく」、「調査した結果判明した」という意味だと思う。


品管課長 「つまりシステム・・・日本語なら制度とか体制で良いのかな、それが意図している働きをしているか・否かを調べて判断するで良いですか?」


注:systemの語源はギリシア語のsystēmaで「組み合わさったもの」「まとめて置かれたものの全体」の意味だった。
それがラテン語systemaになり「制度」、「支配体制」とか「仕組み」の意味になり、英語に入り「特定の目的のために全体として連携して機能する関連要素のグループ」の意味になった。
機械に限らず、生物の器官、組織、鉄道網などでいろいろな意味で用いられる。


オリバー・テーラー 「その通り。
規定に決めた通りしていても、品質向上していないとか、定められている手順が手間暇かかるとか、そういうことを見つけて改善しなさいということです。
いや、そうするために品質監査をしろと決めているのです」

営業課長 「いやあ~、立派なことが決めてあるのだなあ~、
いえ、皮肉じゃありません。本音です」

川田設計課長 「そう聞くと、規定とのコンペアなら新入社員でもできるだろうが、有効性の判定となるとベテランでないと務まらないね」

品管課長 「いやベテランは過去の経緯とか 柵 (しがらみ)に染まっているから、かえって不向きかもしれないよ」

オリバー・テーラー 「ストップ、ストップ、話を戻しましょう。
先ほど皆さんは規定通りしているかを、どのように点検したら良いかと悩んでおられた。
で私が申しましたのは内部監査をしなさいということです。

それはISO規格の要求事項のひとつですしね。わざわざ別のことをしようと考えることもないのです。
それに内部監査をすれば、規格要求の一つを済ませたことになりますよ」

品管課長 話合い 「しかしなあ、自主点検をして現状のまずいところを洗い出し、それを修正してからでないと内部監査にならないだろう。
あまりにも問題が多いと外聞悪くて、内部監査をしても記録にもならないよ」

川田設計課長 「確かになあ~、悪いところがゴロゴロだろう」

オリバー・テーラー 「ちょっと待ってください。内々で点検、是正するとか、そういう方法を取らない方が良いです。
内部監査は一回すれば終わりじゃない。最低三度はしなくちゃならない」

品証課長 「3回もするの、全部門を?」

オリバー・テーラー 「全部門と言ってもISO認証に関わる部門だけです。営業、購買、品管、品証、設計、倉庫、せいぜい7か8部門でしょう。
そして何度もすることには、いろいろ理由があります。
ルールを守っていなかったことを隠すことはありません。そんなのどこの会社でもあることです。だから罪を問うなんてことじゃなく、単に悪いことを見つけて直すことに専念しましょう。

内部監査を三度と言いましたが、回を重ねるごとに内容が良くなっていくのは良いことです。予め露払いをして最初の内部監査で問題ゼロでは、いかにも台本通りという感じがするでしょう。
内部監査を何度もしたことは、審査でプラスポイントになります。

それから悪いところがあっても、規定集を全部調べるのは大変で、更に見つかった不具合すべてがISOに関わるかどうか分かりません。
無駄な労力を使うのではなく、マニュアルを基に内部監査をして、ISO審査対象だけ是正した方が荷が軽いです。
ましてや余計なことを是正するのに時間をかけて、必要なところが漏れては最悪です。

そんなわけで内部監査はすぐにもしたい。対象はマニュアルで引用している規定のみ、更に言えばマニュアルで『する』と記述していることだけで良いのです」

営業課長 「なるほど、オリバーが語ることはよく分かる」

川田設計課長 「でも、事前点検をしないではボロボロでしょう」

オリバー・テーラー 「各部門が自主的に事前点検するのは勝手ですよ。皆さんが考えることじゃないと言っているのです」

品証課長 「内部監査をするにも、従来の客先対応と同じ方法で良いのかな?
どうでしょう、オリバーの出張を延長してもらえないだろうか?」

オリバー・テーラー 「オイオイ、何をおっしゃる!」

品管課長 「オリバーがいれば通訳もできるから安心だ」

品証課長 「オリバーの上司は誰なんだ?
安藤マネジャーに頼めばよいのかい?」


それを聞いて、オリバーは硬直してしまった。

*
*
*
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1992年11月末
こちらはベータ製作所である。
今日はISO事務局の内藤と竹藤、そしてコンサルの小林審査員で会議である。
竹藤はA4のPPC10枚ほど綴じたドラフトを皆に配る。



小林審査員


小林審査員
内藤さん



内藤さん

竹藤さん


竹藤さん

マニュアルのドラフトも既にバージョンCまで進んだ。10日前のバージョンAは、引用規定がほとんど埋まっていない物だった(第11話)。
その後、現在の規定集を隅から隅まで読んで要求事項を満たしているものがないかと探した。可能な限り従来からしていたことを活用し、新規に追加することをミニマムにする。
そして今、バージョンCまで進んだマニュアルの検討会である。


小林審査員 「マニュアルを見る限り問題はないですね。次の課題は引用している規定と記録が本当に対応しているか、そして間違いなく運用されているかです」

内藤さん 「規定を確認した結果、改定が必要というものはほぼ全数になりました」

小林審査員 「ほぼ全数ですか。具体的には何件中何件くらいになりますか?」

竹藤さん 「制定されている規定は380件ありますが、その中でマニュアルで引用している規定は32件、その内、改定が必要なのは28件です」

小林審査員 「まあ、それなら大したことはないですね。普通ですよ」

竹藤さん 「普通なんですか・・・他社ではどれくらいの規定を引用しているのですか? そして不具合ある規定はどれくらいあるのでしょう?」

小林審査員 「まだISO認証が始まったばかりだからサンプルが少ないけど、50から70件くらいの規定を引用しているのが多いね。

もっとも規定と言っても会社や部署によって、規定で定めることが小分けされていて数ページのところもあり、1つの部門の業務全体をひとつの規定で決めていればは数十ページもあるものもあり、一概には言えません。

どこでもこまめに規定の改定はしないようで、伝票の様式が変わたとか、職制変更があっても、見直していない会社が多いね。
いずれにしてもそれくらいなら仕事量が多いとは言えないです」

竹藤さん 「そうなのですか。少し安心しました。
今、規定改定の対応を各規定の担当部門と話し合いをしています。これだけはちゃんと直してと言っても、どこの職場も忙しいと言って対応が遅いのです」


注:規定改定は誰がするのか?
日本の法律も担当する各省庁が決まっている(注2)。
普通の会社では規定ごとの維持・改廃の担当部門を決めている。その部門が責任をもってその規定をお守りするのが当然だ。間違ってもISO関係者がするのではない。

よくISO事務局が規定の改定をするなんて騙っているのを聞くが、そんな会社は間違っている。
「システムとは組織・機能・手順」というが、その会社のシステムはISO以前に間違いというかレベルが低いのだ。


小林審査員 「規定に見直し期限はないのですか?」

竹藤さん 「ありますよ。すべての規定は5年ごとに見直すと決まっています。どの部署もしてませんけど」

小林審査員 「それだけでISO審査では不適合になりますね」


注:日本の法律には見直し期限はないが、最近の法律は制定時に見直し条項が付くものもある(注3)。


小林審査員 「規定改定は一度では終わらない。マニュアルと同じく数回改定するようになる」

竹藤さん 「そんな……今回規定改定を頼んでも、多くの部門は大仕事だと言って、なかなか理解してくれないの。
それを最初の問題を修正して改定して、また不具合があったら改定なんて聞いてもらえない感じ」

小林審査員 「ISO認証するとなると、そういう行ったり来たりの仕事が、発生するのはやむを得ないのです。自業自得だからしょうがありません。
言い換えると、普段から現実と規定が一致していれば、何事かあったとき改定することもないのです」

竹藤さん 「それについては課長から、各部門に対応を要請する宛発(あてはつ)を書いてもらいますが、やってくれるかどうか…」


注:宛発(あてはつ)とは多くの企業で使われている用語で、社内の部門間の公文(正式通知)である。
宛名「〇〇宛」と発信者「〇〇発」を書くところから宛発と呼ばれる。
電子メールやワークフローが主流となった今は、それを宛発と呼ぶ会社もある。


小林審査員 「ともかく速やかな規定の見直しを進めるようにしてください。
先ほどおっしゃった28件の変更をすれば、規定に定めていることと実際の運用の齟齬はなくなるのですね?」

内藤さん 「各部門の点検報告ではそういう回答です」

小林審査員 「私の経験では最初良く調べてなくて、運用結果が規定の定めとずれて問題になり、二度目、三度目の規定改定が発生するパターンが多いのです。
改定に取り掛かる前に、十分、現状の規定が、現実とあっているかいないかの点検をしてほしいのだが」

内藤さん 「そうすれば二度目・三度目の改定は発生しませんよね。
まあ、どこでも忙しいからよくよく精査しないのですよ。現状でOKというのも見もしないでの回答かもしれません」

小林審査員 「まあ、そのために内部監査をするのです」

竹藤さん 「内部監査って、システムが完成してからするのでしょう?」

小林審査員 「最終的に問題ないというレベルでの監査報告も欲しいけど、問題があって指摘を出して、それを是正してもらうというレベルのものを繰り返すのは必要なステップです。
内部監査をシステムを仕上げるためのチェックと考えてください」

竹藤さん 「今、11月末、来年のいつISO審査を受けるのか未定ですが、これから規定の改定をして3月かかりますね。それから運用ですか」

小林審査員 「内藤さん、認証機関の交渉は始めたの?」

内藤さん 「いずれにしても予算がつくのは1993年度です。来年になったら認証機関を訪ねてみます。
審査は来年の夏以降、秋くらいなら丁度かなと思います」

小林審査員 「それなら余裕だと思うね。少し長すぎるかもしれない。審査前に準備が終わって運用がだらけるのも問題だ。
でも認証機関は仕事が満杯だから、契約は早めに手を打っておくほうが良い」

竹藤さん 「面倒なことせずに、小林さんのところに依頼すれば、何とか調整してくれるのでしょう」

小林審査員 「その気なら今年中に正式に話を持ってきてほしい。ウチも仕事は満杯だ。
今年末までに契約すれば、夏頃の審査は都合を付けられると思う」

この時代は認証したいという会社が目白押しで、依頼しても1年後なんてことは普通に言われた。
実際には売り手(認証機関)が強気に出ただけで、1年待ったという会社はなかったと思う。

内藤さん 「小林さんを窓口にするのと、私どもが御社を訪問して話をするのと、どちらが良いですか?」

小林審査員 「どちらでも良いけど、どちらにしても一度、ウチを訪ねてきた方が良いと思う。

営業が審査の手続とかスケジュールとか取り決めるからね。お宅だって見積もりを取らないと、社内で話できないでしょう」

内藤さん 「それじゃ今年中なるべく早く訪問しましょう。日程は別途交渉します」

小林審査員 「了解、私からも営業に話をしておくよ」



うそ800 本日の気持ち

品質マニュアルなんて全然難しくない。私の同業者(企業でISO認証を指導した人)は皆そう言う。
要求事項があれば、それに応えるのがマニュアルである。ISO認証など始まる前から、品質保証体制を説明する資料は存在した。品質保証要求事項は顧客企業によっていろいろあり、その標準化を図ったのがISO9001である。

だから従来からしていたことと同様に、客先に合わせる代わりISO9001の要求事項に合わせて作るだけのこと。何も難しいことではない。
「弊社ではこの要求事項に対応してこのように対応しています。その詳細は社内文書〇〇〇〇で定めています」それだけのことだ。
それを知らない人が、マニュアルはすごいものだとお門違いの文章を書いて、それが主流になった。品質保証に関わったことのない審査員もいてそれに輪をかけた。

ISO14001が登場して、その流れはもうどうしようもなくなった。
なにしろ公害防止なんて見たこともなく、マネジメントシステムなんて聞いたこともない人たちが大勢審査員になり、ISO認証ビジネスに入ってきたのだ。
お手上げ 認証機関の研修で教えられたことしか知らない。だから不思議な不適合が乱発された。笑い話である。

規格の用語が使われていないとか、規格では是正処置と予防処置の項番が別だから、ひとつの規定で両方を定めているのは不適合なんて言われると、笑い話からホラーになった。ホラであることは間違いない。
ましてやマニュアルを社内教育用に使え、従業員に読ませろと言われてはお手上げだ。



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文末脚注
  1. 1992年当時はISO10011-1とISO10011-2だけだと思う。その後、guide62が登場して必要十分になった。
    ↩

  2. 日本の法律も担当する各省庁が決まっているといいつつ、簡単な探し方を提示しようとしたが、普遍的な手順はないようだ。

    実用的な方法のひとつは、法律でなくその子供・孫の施行令か省令を検索すると表示される所管省庁を見る方法、もう一つは所管省庁の見当を付けて、その省庁のウェブサイトで所管法令一覧と検索すると逆引きできる。
    ↩

  3. 見直し条項が法律の付則として付けられるようになったのは20世紀末からだ。それ以前の法律はそのような条項はない。
    生活に密接な法律や技術や社会の変化が速いものに関する法律は数年に一度改正がある。廃棄物処理法、道交法などがそれに当たる。
    他方、俗に六法と呼ばれる憲法、刑法、民法、商法などはこまめな改正をせず、数十年に一度大きな改正がある。憲法は改正されたことはないけど
    ↩






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