注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:ISO昔話とは
1992年12月中旬
ここは佐藤マシニング(有)の社長宅。社長宅と言っても、住宅地にあるのではなく工場に隣接している。
夫婦だけの二人暮らしだ。一姫二太郎のふたりの子供は既に大学生で、東京の大学だ。通学圏ではあるが朝が忙しいと、通学に便利な都内にアパートを借りて姉弟で暮らしている。何かあればすぐ会える距離で、寂しいこともない。
現在の懸案は事業継続にISO9000sの認証しなければならないことだ。この事業を子供に継がせる気はない。しかしあと10年で見切りをつけるにしても、認証しないと来年一杯で輸出関係の仕事ができなくなるようだ。今すぐ事業ができなくなっては困る。
夫婦は夜7時のニュースを見ながら夕食である。
二人で夕飯を食べながら話をする。二人とも、いつも工場か自宅にいるわけだが、夫は客先周りとか工場の監督で忙しいし、妻も経理担当、そして家事で忙しい。
二人が顔を合わせて話をするなど、朝食と夕食時しかない。
ニュースが終わるとビール飲みながら話をする。
「ISO認証の準備はどんな塩梅だ?」
「認証してほしいという話があったのが9月、高原さんが指導に来てくれたのが10月末からなので、動き出して2か月半になる。
指導に来てくれている高原さんは、ISOについて詳しいと思います。
吉永さんは彼の話を聞いても、規格の意図をよく理解していないようですね。山田さんは元OLだったこともあるのでしょうか、会社の仕組みを知っていて、ISO規格の要求がそこでどういう意味なのかを理解しているようです」
「ウチでは二人とも最高の人材だよ。それで来年中にISO認証は大丈夫か?」
「今週、高原さんがお見えになったとき、私も参加してお話を聞きました(第14話)。規格の細かいことは知りませんが、認証までの流れは大体理解しました。
認証期限はEU統合までという話でしたね。EU統合は1993年11月でまだ1年あります。しかしまだ認証の期限ははっきりしていないそうです。
高原さんの話を聞くと、認証活動に半年はかかるようです。そして会社の仕組みができてから半年程度の運用がないと審査をしてくれないそうです」
「すると1年かかるというわけか。ウチでは取り掛かってから既に2カ月半経過しているから、来年の秋には審査を受けられるのか?」
「はっきり言って無理です。まず2カ月半過ぎましたが、時間は過ぎても今まで見るべき進捗がありません。
それと認証機関とまだ審査契約を結んでいません。もちろん契約前には、いろいろ調べないとなりません」
「審査契約か・・・まだ1年もあるなら焦ることもないだろう」
「欧州に輸出している企業が皆、一刻も早く認証しようとしてます。また日本の認証機関が立ち上がっていないこともあり、どの認証機関も多忙を極めているそうです」
「認証機関なんていくつもあるだろう?」
「日本でも認証機関を作る動きは多々ありますが、まだ仕事を始めたところはないようです。
それでヨーロッパの認証機関がいくつも、日本に進出しているそうです。
今、審査できるのは、ロイドなどイギリスの認証機関だそうです。イギリスではBS5750
「審査費用は認証機関によって違うの?」
「審査費用は審査日数かける審査単価で、審査単価は審査員一人一日何万という計算だそうです。
審査工数は工場の規模や事業内容によってきまるので、認証機関の違いはないそう。
審査単価は認証機関によって違い、安い方で1日12万から高い方では16万くらい
「・・・ウチはいくらくらいになりそうなの?」
「規模からして1日2人くらい。安い方なら2かける12、高い方なら2かける16で、24万から32万くらい。
それに旅費、運賃がプラスされますが・・・東京から日帰り範囲なので、その辺どうなるのかは審査の見積もりを取らないと分かりません」
「それが毎年か、安くはないな」
「初回審査がその値段で、二度目以降、審査工数が半分くらいに減るそうよ」
「それなら年間10数万か、どの会社も同じくかかるなら仕方ないか。
で、心配事は間に合うかどうかだ」
「先日話を聞いたところでは、吉永、山田の二人ではちょっと力不足ね。ISOというより、会社の仕組みを知らないので、どうしたら良いか分からないというところかな。
それでも山田さんは全体像を理解しているようです」
「そうなのか・・・でどうするの?」
「私が入って、することを具体的に指示するしかないと思う。吉永さんは、全体像は理解しなくてもいいから、現場の対策と運用をメインにしてもらおうと思います。
山田さんは会社の仕組みを理解しているから、規定の作成とそれを現場に教えることをメインにしてもらおうと思っています」
「30人しかいない会社で、仕組み作りに3人が半年もかかっては笑い話だ」
「ISOの要求とは暗黙知を形式知にすること。要するに人が変わっても仕事が止まらないようにということだそうです。
だから今まで口頭でしていたことを、文書化することが必要なの」
「こんな小さな会社なら、文書化なんて不要だろう」
「でもね、二人と話をしてみればここで働くようになったとき、仕事を誰に聞いたら良いのか分からないと言ってました。
伝票ひとつとっても、誰がどこに記載するのか、何枚つづりの何枚目はどこに行くかなど、近くにいた人に聞いたけど、自信をもって教えてられる人がいないって。
それに指揮系統が不明確ですって。仕事の方法とか決定権とか、工場長に聞いても、分からないという対応だったとか」
「工場長か・・・以前話をしたとき、退職した吉田さんが退職したとき離職票を渡さなかったという問題が発覚したよね(第5話)。それで俺はハローワークに相談に行ってきたよ。
ISO認証を機に工場長を変えようと思っている。退職者の手続さえできないようではまずい」
「確かに工場長も抜けたところがありますが、そもそも会社の手順というかルールが決まっていないことが問題です」
「ルール、ルールというけど、具体的にはどういうこと?」
「私たちが以前勤めていた商社では、仕事の仕方が会社規則に決まっていたでしょう」
「仕事の進め方って? どうやって注文を取るかなんて、手順なんて決まってなかったよ。
そんなのがあれば楽だったが」
「確かに情報はどこから集めて、伝手を探して訪ねていけなんては規則になかったわ。でも課長決裁は50万までとか部長決裁は1,000万までとかあったはず。
稟議の方法も、ビジネスによって範囲が決まっていたし、伺いの用紙様式、添付資料なども規則に決まっていたわ。10年前の記憶だけど」
「ああ、規定とはそういうものか。でもウチでは稟議もないし決裁することもない」
「商社とは違いますけど、伝票はあるし不良品に付けるラベルもあるし、そういうものの使い方・ルート・検認者などを決める必要はあるでしょ」
「そういうものが必要なのか? 繫文縟礼の極みだな」
「ISO9000が良いか悪いかはともかく、そういうことを文書で決めるのが要求ね」
「その規定を作るとなると、紙の量にしてどれくらいで、時間はどれくらいかかるのか?」
「高原さんと山田さんの話では紙の量にして100ページ、作成時間は600時間くらいかな」
「それじゃ、パートの賃金でも100万行くじゃないか。無駄もいいとこだ」
「現実には手順を決めていないことによるミスの発生・・・手順を決めてないならミスとは言えないわね。人を使う方の責任よ。
ともあれ、ISO認証を受けるレベルなら、そういうことはなくなるでしょう。
具体的には出荷検査の手順とか不良のラベルの使い方とかがはっきりしていれば、どうするのかと悩むこともなくなるし、先輩や上司に何をするのか聞いて回ることもなくなると思う。
山田さんも言ってたけど、帳票の扱いとか事務処理などはここにきて私から教えられたことがすべてで、紙に書かれたルールがないから問題だと言ってました。
彼女も一流企業でOLをしていたから、この会社の弱点を見ていますよ」
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吉永と山田に、週に2日はISO関係の仕事をして良いと言ったが進捗が見えない。それで真紀子に監視を頼んだのに、効率的に進める様子も見えない。
彼らの能力がないのか、極めて困難な仕事なのか?
明日は自分も状況を見てみよう。
佐藤マシニング(有)にISOのための部屋があるわけがない。いつもの会議室兼食堂兼休憩所でISO3人組がはなしをしてがいた。
通りかかってそれを見た社長は、話を聞こうと妻の脇に座る。
真紀子が二人の報告を聞いている。
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吉永さん |
![]() | 山田さん |
「現場で使っている伝票は12種類ありました。それらの名称と流れを調査して書いたものがこちらです」
「12種類というと、多いのかしら少ないのかしら?」
「私が入社した7年前は3種類くらいでした。材料払出伝票、部品出来高票、出荷伝票、いやその他に検査もあったな、5・6種類はありましたね。
私が入ってから、検査も工程内検査、受入検査が増えて、消耗品の払出要求票というのも作ったのを覚えています」
「どういう経緯で増えてきたの?」
「現場で必要だと言い出す人がいると、みんなで本当に必要か、ないと不味いのか議論しまして、作るかどうかを決めました」
「社長や工場長は入っていないの?」
「工場長はいました。社長はその場にはいませんが、OKか否かは社長が判断しました。
後は複写にするとか何枚つづりにするかなどを決めて、印刷屋を呼んで製作を頼んで終わりです。
なくなれば前のものを持っていって、同じとか少し変えるとか頼みました」
「なるほど、それで今ある12種類は必要なの?」
「なくてもできるんじゃないか?」
「使い続けていることが必要な証拠でしょう。
ウェスとかオイル類などの消耗品は、発注依頼伝票がなくても良いんじゃないかという話はあります。使う人が山田さん一人ですから。
しかし発注する時期を知るにはあったほうが良いと山田さんは言ってます」
「本当に役に立っているのか?」
「消耗品も刃物類も発注するのは私ですが、伝票があれば、いちいち現場を見ずとも定点発注ができます」
注:「定点発注」とは、在庫が発注点を下回ったときに常に一定量を発注する在庫管理方法。
「刃物」とはバイト、フライス、ドリルなどの切削工具を呼ぶ言葉
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| 旋盤のバイト | ドリル | ||||
| ちなみに、バイトとはオランダ語でbeitel(削)のこと。英語のbite(噛みつく)ではない。 英語ではTurning toolだそうです。最近はチップはスローアウェイなのでホルダーとインサートとに分かれます。 | |||||
| ドリルは英語だが、正しくはツイストドリルという。しかし現場ではドリルビットまたはビットと呼ぶそうな。 | |||||
| フライスとは円盤や円筒の外周に多数の刃が付いている切削工具のことでドイツ語である。フライスを使う工作機械をフライス盤という。間違えないように。メタルソーはフライスの1種である。 | |||||
「消耗品なら現場を見た方が早いだろう。遠いわけじゃない」
「ウエスとかでしたら保管庫を見れば良いですが、バイトのチップとかドリルですと、使用場所がたくさんあって数えるのが難しいです」
「それで使った数を申告してもらうのか?」
「使った数というか廃棄した数ですね」
「山田さんが調べたところでは、使われていない伝票はなかったの?」
「ありませんでした。ただ出荷伝票は3枚つづりなのですが、以前担当していた方が退職されたとかで、今は2枚しか使っていません」
「ああ、3年前、井上さんが辞めて、彼がしていた仕事そのものをなくしたんだ」
「それじゃ、今後は2枚つづりにした方が良いわね」
「そのほうが良いですね。安くなりますよ」
「今まで余分な1枚をなくそうとしなかったの?」
「私がここに来た2年前、それに気が付いて社長に申し上げたのですが、現状で良いということでした」
「あなた、そういうのはすぐに採用しましょう」
「ああ、そうだな」
社長は都合が悪くなったようで、立ち上がって行ってしまう。
「それじゃ、山田さん、この表を持って伝票の流れ通りか確認して頂戴。そして何枚つづりになっているものが実際に使われているのか、保管とか廃棄されているのか調べてください。
保管していないなら、複写を止めてルートを変えるだけで済むならその方が良いわ」
「そうですね。無駄ですもん」
「吉永さん、現場用図の手書き追加はどんな塩梅でした? あとバージョン管理もあったわね」
「いやあ~、報告するのが怖いですよ。キャプソン社では50枚中8枚、シスター社は34枚中3枚、ヒュー・パック社は部品の種類が13枚中1枚ありました」
「まあ、それじゃ正しい寸法通り作っていないということ?」
「正直に言うとそうです。ただデタラメをしているのではなく、客先から電話などで寸法とか公差を変えたいと言ってきたのを、図面が変更される前に対応しているようなのです。
そして先方も組立が順調になると、図面変更をするのを忘れてしまうようで・・・」
「客先とやり取りしているのは吉永さんでしょう」
「いえ、私じゃありません。社長です」
「それだけ図面に朱記訂正があっても不良にならないの?」
「変更箇所を見ると、こちらが儲かることと関係ありません。社長が向こうの要求を反映しているのでしょうね」
「仮によ、客先が図面と違うと言ってきたらどうするの?」
「どうするかは分かりませんが、どうなるかは分かります。たぶん、全数不良になって大問題ですね。決して客先は自分の責任を認めないでしょう」
「呆れた。ISO以前の問題よね」
真紀子から解放された二人は、工場に向かって歩いている。
「奥さんはしっかりしているね」
「社長は大雑把でいい加減なところがあるから、ISOには向かないよ」
「これからだんだん具体的な作業になるわけだけど、夫婦喧嘩とかにならないと良いけど。
とばっちりはごめんよ」
本日の報告
正直言いまして、今回は掲載分の倍書いて、半分削りました。
削ったところは社長夫妻の家庭のこととか工場の人間関係などでしたが、そんなこと本筋に関係ないですね。
それに私に人間模様が書けるはずがありませんし、
要は規定を作るとはどんなことか、何が必要条件か、あるべき姿とか、そんなことが言いたいわけですから。
次回は問題が起きそうです。
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1995年頃には一日当たり何万、何人で何日と明細が出てきたが、1994年頃までは合計いくらという感じで詳細は分からなかった。当時は値引き以前に、詳細を出してくださいなどと言える雰囲気ではなかった。![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |