注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。
注2:ISO昔話とは
EUが新しい規制をいろいろ作るのは毎度のことである。とりとめがないというか、脈絡がないと言うか、日本ばかりでなくEU内の企業も振り回されたものだ。
日本の企業、特に下請けなどは、情報にアクセスできず大変苦労した。
ISO認証についてはどうだったのか?
1992年7月
ここは某日本メーカーの、フランクフルトにある欧州拠点事務所である。
私、安藤は欧州の法規制の情報収集が仕事だ。欧州には俗にいう意識高い系
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| 安藤 |
だから日本では考えられないような、急進的な法規制がドンドン作られている。緑の党なんてのは、そんな急進的な人の意思を具現化しようとする団体だ。ないがしろにすると後が怖い。
そういった人たちが、もう10年近く前から鉛半田を止めろと発言していて、これはまもなくEUの規制として実現する
その後には鉛以外への規制拡大が続々と続く見通しだ
今は規制内容がどうなるのか情報収集にあたっているところだ。
そんなときイギリス ロンドンの駐在員から、「今後欧州に輸出する物品にはISO9001という規格の認証が必要になるという情報がある。その内容を調べて欲しい」という報告が入った。
それはイギリスのBS5750のことじゃないかと確認のメールを送ると、すぐに返事が来た。
内容は、従来からのイギリスの制度のことではなく、EC全域でISO9001認証が要求がされるような話だという。本当なら早めに手を打つ必要がある。
なにせ欧州のEC委員会は、良いアイデアとなると、詳細を決めずに指令だ規則だと猪突猛進する。
注:EUでは各国に適用する法規制を作ります。
EU規則(regulation)とは発効すると、即全加盟国に適用される(各国は有無を言わさず守らないとならない)。
EU指令(directive)とは、達成すべき目標や期限が示されるが、具体的な適用方法は各国で決めて良い(国内法を作る)
日本の同業各社はビジネスではチャンチャンバラバラしても、欧州の規制などについては情報共有とか共闘する間柄だ。情報あるか数社に尋ねてみよう。
1992年8月上旬
数社あたったところ、どこもその規制については噂以上のことは把握していないようだ。とはいえ域内の流通規制は、前から言われていたところだ。品質保証の世界標準なんて言っても、誰も使わなかったISO9001を引っ張り出すのかもしれない。
いや、その可能性は大だな。
これは当社で欧州に輸出している工場に早急にISO認証するように通知せねばならないぞ。
とはいうものの、日本国内でISO認証なんてしたところはないはずだ。だが、イギリスのBS5750は政府機関調達品には義務のはず。それならイギリスの子会社には、それに対応したところがあるはずだ。
イギリス駐在員にその状況を調べさせ、イギリスの工場で認証を指導した者を日本に派遣して教育をさせよう。
1992年8月末
認証の要求は大体わかった。認証は物品だけだ。役務には要求されない。
認証の期限は、1993年末とも1994年とも言われる。しかし現実はEU域内の企業が93年までに認証できないというのが現実らしい。
それから講師として、イギリスでノートパソコンの組立工場でBS5750を認証したときの責任者だった、品質保証のエンジニアが適任とされた。彼の日本語はカタコトだが、通訳を脇に置いて英語で話してもらった方が受講者はありがたがって真面目に聞くだろう。
日本での実施詳細や日程は向こうに頼むとして、こちらは講義の内容を詰めておけばよいだろう。
皆が認証のノウハウを身につけてくれるかどうかが問題だが、まあ、それは向こうの問題だ。
私の仕事は、これにて一件落着だ。
1992年9月
東北〇〇県の従業員300名の電子機器組み立て会社である。
電子機器といってもテレビゲーム機とか家庭用電子楽器などの下請け生産をしているだけだ。
ISOといえばもう20年位前かな、まだ私が若かった1960年代末、ねじを世界標準に合わせるということになり、イソネジ、イソネジと大騒ぎになった。
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トヨタと日産のネジは、昔、同じ太さでもピッチが違って互換性がなかった。あのイソ騒ぎのときISOの規格に合わせることになったが、ホイールなどは今でも違うのがあるそうだ。
今回のISOはそれとは違って、物の規格ではなく会社の仕組みの規格だといったな、
ところで品質保証とはなんだ?
品質を保証するなら以前からしている。販売後1年間は原因次第だが無償修理、ほとんどは製品交換だ。それ以降は有償の修理になり、生産終了から6年まではサービス部品を保管することになっている
新たに品質保証するとは、何を言ってるのかワカラン
その数日後
客先からISO9000を認証しろという話が来て数日が過ぎた。
技術部長と製造部長を集めてどうすればよいのかと話し合ったが、我々の頭では何のアイデアも出ない。
まずは客先を訪ねてISO9000と何か教えてもらうことにする。技術部と品管の若い者二人を出張させた。
とりあえず彼らがどんな情報を持って帰るか、それを待つしかない。
とはいえ、会社の一大事だ。私も何もしないわけにはいかない。なにしろトリガは客先からの要求だ。当然のこととして顧客要求の対応は営業部のお仕事だ。
その内容が判明したら、営業部から担当する技術とか製造にお願いすることになる。
品質保証の認証というのは何だろうと思い、同じ町の同業者に聞くと、相手も良く知らないようだがULのようなものだという。
アメリカで商売するにはUL認定が必須だ。それを考えると欧州がアメリカの真似をしたということか?
いずれにしてもその認証というのを得ないと欧州で売れないなら、客からの仕事が来なくなる。なんとしても認証ゲットしないと・・・
聞いた相手に欧州のISO認証規制を知っているかと聞くと、驚いたようで、そこの客先に問い合わせるという。その結果が分かればこちらにも教えるという。少し安心した。
おっと、情報源がひとつでは不安だ。商工会議所にも問い合わせてみよう。
注:商工会議所は社交の場ではない。法改正とか経済動向などの情報の提供などをする。
行ってみると分かるが、行政が作成した法改正のパンフレットなどが山積みにしてある。働いてた時は、時々行って法律の解説パンフをもらってきたものだ。
1992年9月
埼玉県の小さな機械加工の会社である。
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| 佐藤社長 |
その結果、成果物をプリントアウトする需要が高まったのだ。家庭用プリンター市場が急速に拡大している。
日本製プリンターは輸出も多く、欧州もお得意様だ。
ウチに仕事を出しているキャプソン社の購買担当者がやって来た。昨日、訪問するという電話があったのだ。
「やあ、久しぶりだね。便りがないのは良い便りというから、お宅が直々に来るというのは何か悪いことがあったのかな?」
「社長、悪いことではないと思うのですが、面倒なことが起きました」
「面倒とは、値下げ要請とか?」
「そうじゃないですが、欧州のECがいよいよ統合してEUになるそうです」
「新聞にあったな。まだ2年くらい先じゃなかったか?」
「1年です。それはともかく、欧州統合となると加盟した国の間は国境がなくなるわけです。いや国境はありますよ、ただEU加盟国の人や物は、そこを自由に通れるようになるのです」
「関税もなし、パスポートも不要か、ドイツやフランスならそれもありかもしれないが、東アジアでそれをしたら、北朝鮮からスパイが自由に入り込んで、誘拐でも殺人でもやりたい放題、悲劇だな」
「そう思うのは日本人だけじゃないですよ。欧州の人も同じことを思ったのです。自由に出入りされちゃ困るって」
「なんだか矛盾してないか? 自由な移動と貿易ができるのが望みなのだろう」
「ヨーロッパといっても国ごとに事情が違います。スペインなんて観光がGDPの7割以上を占める特異な国です。
フランスは食料自給率が100%を超えです、つまり農業国です。バンバン食料を持ち込まれたらドイツの農業は壊滅ですよ。とにかく他国の繁栄は自国の衰退って感じですからね」
「そういう事情があるなら統合なんてしなければ良いじゃないか」
「まあいろいろあるのでしょう。というわけでものが自由に動けないようにするわけですよ。自由に動けるには一定品質の物に限るというわけです」
「一定品質とは何だろう?」
「話が本題になってきましたよ。品質保証の国際規格のISO9000を認証している工場で作ったものでないと域内を自由に移動できない。
そしてそれは欧州連合の中の国々だけでなく、欧州連合に輸出する国々の製造者もISO9000の認証を受けないとダメなのです」
「ほう、話の流れは分かった。お宅の主力製品をヨーロッパで売るためには、お宅がISOを認証しないとダメだということだ。
だがウチは部品を作っている下請けだ。まさか下請けまで、そのISOを認証してないとまずいのか?」
「そのようです。まだ私は規格を見てないのですが、製品を輸出する会社だけでなく、そこが買う部品メーカーや下請けもISO認証することってあるらしいです
「まさか、それじゃねずみ講
でもさ、鉄鋼とかプラスチック部品でそれが要求できるか? ましては専門メーカーが作る標準品を買うときに、そんな要求はできないよ。
例えばプラスチック製品なら、ペレットを作る会社、プラスチックを作る会社、更には石油を採掘するところまで遡るのは不可能だろう」
注:ペレットの語義は小さな球状のものをいうが、プラスチック工業では成形機で使用しやすいように、プラスチックを数ミリサイズの粒状にしたものをいう。
成型メーカーはこれを購入して成型機で熱して可塑化して、圧力を加えて金型に流しこみ冷却固化して製品にする。
「そこはどうなんでしょうねえ~
ともかく私としては、お宅からの調達ができなくなると困ります。というわけでISO認証をしてほしい。少なくても今から調査だけでも進めてください」
「とはいえ、ウチはこんな小企業だよ。情報を得る手がない。認証するにはどうすればよいのか、それと指導をしてくれるんだろう?」
「それは難しいのですよ。ISO認証すればウチばかりでなく、他社の注文にも使えるわけで・・・御社が生き残るために必要と考えてもらわないと」
「オイオイ、助けてくれよ」
本日の恨み
1993年にISO9002とISO9001を認証し、1993年からはあちこちで認証に関わってきた。いつも感じたのは審査員のバラツキだった。
最初の審査はイギリスの認証機関で審査員はイギリス人だった。ハッキリ言って細かいことはどうでも良いような感じで、いくつか不適合が出されたが、それは誰が見てもはっきりとダメなもので、もっともだと受け止めた。
次に別の事業で審査を受けたときは、イギリス系の認証機関で審査員は老練な日本人だった。細かいことも見つけて直しなさいと言ったが、記録には何も残さなかった。
不適合は全体をサマリーして提示された。具体的に言えば、文書や記録の矛盾や不足などをまとめて、不適合は文書管理の規則と運用が問題とまとめた。我々はその審査に感動した。
そこらの審査員研修機関で教えないようなことを教えられた。
その次にまた別の事業で審査に来た審査員は、元プラントの検査をしていた人で、実際に問題になったことから原因を辿りそれに行った是正が真に是正になっていたかを見る方法で、現場・現実から要求事項に遡るまさにプロセスアプローチをしていた。
素晴らしい審査員だと思ったが、宴席が用意されてなくて怒り狂った。
まあ、ISO認証を受ける当初にそういうベテランと相まみえて、とても勉強になったのは事実だ。
それと、とても不思議に思ったことがある。
それはシステムがシステム(文書と運用)が極めてレベルが高いと思われるところでは、大きな問題がないから、細かい不具合を指摘した。ところが同一審査員がレベルの低い会社に行くと、多く不適合を見逃して、どうしてもだめだろういうものだけを不適合にした。
それは結果として審査したところすべてを認証しようと考えているように思えた。反面、いかに良くできた会社でも指摘は出すようにみえた。
ところが1995年頃からは、企業で品菅課長をしていた人が、ISO認証制度ができたので退職して審査員になりましたというような人が増え、項番順審査が増えた。
規格の文章通りになっているか・否かで是非を決めるだけ。高いレベルの判断はなく、また現場・現実から切り込んでこないんだよね。つまらないし、会社にも役に立たないと思った。
そういう人たちも宴席だけは一人前に要求した。
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そういう使い方は後世まで続き、ベートーヴェンも甘いワインが好きで、含まれている鉛を摂取したとか言われている。![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |