ISO第3世代 165.ポストISO3

24.05.23

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。


ISO 3Gとは

*****

時は2023年夏である。
社会人大学院生の清野から、スラッシュ電機のISO認証返上についてヒアリングさせてほしいという依頼があり、約束の時間に清野は現れた。
こちらは窓口の広瀬課長と田村さんと磯原である。3人は多すぎと思うが、広報の広瀬課長は逃がさないし、田村さんは一人では心細いと磯原の同伴を求めた。
ロビー階にある小さな会議室で名刺交換と挨拶を終える。

清野 「早速ですが、お聞きしたいことはまとめてありますので、始めてよろしいでしょうか?」

田村さん 「どうぞどうぞ、もちろん私どもが分からないこともあるでしょうし、事情により回答できないこともあることはご了承願います」

清野 「もちろんです。それでは……
まず御社の本社と支社は、ISO14001を認証してから10数年経っていたわけですが、なぜ2019年になって突然認証を返上したのでしょうか?」

田村さん 「ここで話し合ったことは、あなたが勤務先でお話することもあるでしょうし、論文でも具体名を出さないにしても実例として挙げることを前提にしてお話します。ですからここで具体的に言わない部分は、人に言えないこととお考え下さい。
会議机 おっとコンフィデンシャル、つまり企業秘密ということではありません。誰かにとって恥になるだろうということです。

ご質問に戻ります。まず2019年に突然返上を考えたわけではなく、それ以前からISO審査が弊社の業務に支障をきたしておりました。支障と言いましても、その内容は多様です。
質問を返すようですが、清野さんのお勤め先でも、規格解釈で審査員と議論になったり、つまらない是正を求められたりしたことがあるでしょう?」

清野 「ISO審査によって業務に支障をきたすですか……私どもではISO審査は我々の改善の機会と考えておりまして、多少の不具合があっても、最大限尊重し受け入れてきました」

田村さん 「さようですか……。
まずISO審査では認証機関から審査においては、その部門の最高責任者、製造部なら製造部長、総務部なら総務部長の臨席を要求されていました。
本社の場合は審査を受ける部署を所管している執行役までも出てほしいと要請されております。弊社は委員会設置会社ですから、執行役は社長に次ぐ職位です。清野さんのお勤め先も委員会設置会社ですから、執行役の仕事をご存じでしょう。

またオープニングとクロージングミーティングでは、審査対象の部署の課長以上の出席を求められておりました。まさにセレモニーとか儀式ですよ。私どもはそういう人を集めてするようなものではないと考えています」


審査員 審査員
人人人
人人人
人人人
人人人

ISO14001の審査が始まった1997年のこと、オープニングミーティングで開口一番 審査員が語ったのは「出席者が少ない。もっと人を集めなさい」だった。
唖然としましたよ。
人が少ないとオープニングミーティングを始めないというのです。私は工場中を歩いて、人をかき集めました。


田村さん 「大勢を集めて意味のないお話を伺うとは、事業上とんでもない損失です。ハッキリ言って止めてほしい。
露骨なことを言えば社内で働く人は役員からパート派遣社員まで、皆時間当たり職階相当の仕事をしてほしい。審査対象部門の課長以上となれば20名や30名になるでしょう。それぞれ1時間で10万くらいの付加価値を求められています。
執行役ならその時間で、国家プロジェクトとか数億以上の取引を取ってきてほしい。
認証機関に支払う審査費用が300万としても、こちらとしては審査に対応するだけで1回の審査で一千万できかない費用がかかります。とてもじゃないですが、やっていられませんね」

清野 「審査を受けるのにそんなに費用がかかるとは知りませんでした。御社では審査より定常業務が重要ということですか? しかし審査で得るもので回収できないのでしょうか?
私どもでは審査による効果と費用を総合すれば、プラスになると考えています」

田村さん 「現実には認証の効果というものはありません。弊社では完全にマイナスですね。当然、私どもは定常業務が審査以上に重要で優先されると考えております。会社の定常業務に支障を与える審査には、弊社は対応いたしかねます」

清野 「審査には大金を払いますし、また審査のために質問したり場合によっては設備を止めるかもしれません。でも見返りとして企業が得るものは大きいと思いますが」

田村さん 「ほう〜、見返りとおっしゃると、企業が得るものはどのようなものでしょう?」

清野 「例えば業務における規格要求以外の不具合点の指摘、改善点や改善策の提案、また他社との比較や他社の様子を教えてもらえることもあると思います」

田村さん 「この場はもちろんオフレコですが、今のお話は非常にまずいです。聞かなかったことにいたしましょう。
ただそういうルール違反はともかく、そもそも審査による効果は何でしょうか?」

清野 「はっ、今私が話したことが、ルール違反とおっしゃると?」

田村さん 「審査する認証機関はISO17021を初め、IAFの基準類、認定機関の基準類を遵守しなければなりません。それらの基準では、審査員の資格要件とか、審査にかける時間、審査の際守るべき事項を決めています」

清野 「そうですか、私はそういうことに詳しくありません」

田村さん 「それらの基準類はネットに公開されていますから無料で読めます。ISO認証について論文を書くなら、そういったものを熟知すべきですね。

ええと、その基準類の中で、審査員はコンサルをしてはいけないとか、審査した企業の情報を漏らしてはいけないとか決めてあります。
ですから審査において改善提案をするとか、他社事例を話すことは重大な違反です。不具合を指摘するにしても、明らかな危険や法違反でなければ、コンサルになるかと思います。

また審査契約で審査員は審査で見聞きしたことについて守秘契約をしています。清野さんは他社の情報を得るのは結構と思われるかもしれませんが、御社の審査の際に得た情報を他社で話されると考えたことはありませんか。それは大問題でしょう。
もちろんあなたがそういう情報を得ていると、他人に語るのもいけません」


注:多くの場合「内緒ですが」という枕詞を付ける。「たらちね」が母や両親を意味するように「内緒ですが」は情報漏洩を意味するのであろうか?
枕を付ければ無罪になるわけもなく、逆に認識しているわけで故意犯となる。知らなけらば過失であり情状酌量の余地はある。


清野 「まあ、私はそういう規制があるとは存じませんでした。確かに当社で他社のことを話すなら、当社のことも他社で話しているでしょうね」

田村さん 「情報セキュリティが厳しく言われている時代です。もしそういったことがあれば、弊社なら審査中でも認証機関に大至急審査員の交代を求め、更に認定機関に問題を申し立てます。それほどのことですよ。

そういった違反によるものを除いて、審査で学ぶことがあるのでしょうか?」

清野 「そういうのを除けば学ぶというか、情報入手という観点ではないかもしれませんね」

磯原 「横から失礼します。清野さんの会社では、何のためにISO認証しているのでしょうか?」

清野 「それはビジネスする上で、認証していると言えることが、第一でしょうね」

磯原 「先ほど、田村さんが審査で得るものは何かと質問しました。それに清野さんは不具合点の指摘、弊社の業務の改善点や改善策の提案、他社の情報を得ることとおっしゃった。
しかし実際は認証という裏書を得ることが第一ではないのですか?」


注:「裏書」とはいろいろな意味があるが、この場合の「裏書」は、古来書画や軸物を専門家が鑑定した結果をその裏面に書くことから、物事が本物であることを保証すること、またはその文章の意味。


ハテナ ハテナ ハテナ
清野

清野 「ああ〜、そうですよね。改善点とか問題点を教えてもらうことは、付帯的なことですね。
すみません、ちょっと少し頭の中を整理します。
ええと認証とはどのように定義されていますか?」


田村さん 「IAF(International Accreditation Forum)ってご存知ですよね。各国の認定機関の団体です。そこが認証とは何かという説明をしています。ISO/IAFの共同コミュニケ(注1)と言います」


「定められた認証範囲について、認証を受けた環境マネジメントシステムがある組織は、環境との相互作用を管理しており、以下の事項に対するコミットメントを実証している。
A.汚染の予防。
B.適用可能な法的及びその他の要求事項を満たしていること。
C.環境パフォーマンス全体の改善を達成するために環境マネジメントシステムを継続的に強化していること。」


田村さん 「要するに認証の本質は、その組織のマネジメントシステムが規格要求に適合しているという証明そのものですよ」

清野 「審査で改善提案とか指導することはあり得ないということですか?」

磯原 「ISO14001の序文では、規格を活用して会社のマネジメントシステムを改善してほしいとありますが、認証によって改善するという趣旨は見当たりません。
まあ、審査があるからやらねばならぬと考えている企業にとっては、認証はムチの役割はあるかもしれませんね。でもそれはISOの効果ではないでしょう」

広瀬課長 「ええと、まだ本題が始まっていないように思えます。清野さんはなぜ認証を止めたのを質問されたと思いますが、このペースでは予定時間までに第一問が終わりそうないですね」

清野 「あのう〜、超基本に戻ってしまうのですがISO認証とは何ですか?」

田村さん 「今言った通りのものですよ。その組織がISO規格に適合していると確認しましたということ。それ以外の何物でもありません」

清野 「普通、ISO認証すると会社が良くなるとか、極端なのは儲かるようになるとか言いますよね。あれって違うのですか?」

田村さん 「私はあまりそういう話を聞いたことがないが、磯原君はどうかね?」

磯原 「認証すると会社が良くなる、あるいは会社を良くするために認証するとは、どのコンサルも言いますね。ウェブサイトにもそう記しているコンサルは多いです。
認証機関はさすがに文章にはしていませんが、審査員たちは口ではそう言います。私自身何度も聞いております」

田村さん 「それはどういう意味だろう?」

磯原 「私は単純にセールストークだと思います。もっともセールストークとはビジネスにおける話術の意味ですから、これは正しい意味のセールストークではなく、誇大広告とか仲人口といいましょうか。

そもそも『会社を良くする』という言い回しは、1995年頃から使われるようになりました。日本でISO認証が始まったのは1993年頃で、それはEUへ輸出するためでした。輸出するためには認証が必須でしたから、認証を受ける企業は必死でした。

ところがEUに輸出している企業と言ってもその数はたかがしれます。規格では輸出する企業だけでなく、その川上の企業も認証すべきとありましたが(注2)実際はそこまで要求はされませんでした。
だから認証が必要な組織は、せいぜい2,000社くらいだったのではないでしょうか。つまり1995年頃のISO9001認証企業の数そのものです。

矢印
お分かりのように、認証が必要な企業が一巡すれば、それ以降の新規認証は先細りになるのは見えています。いっときロケットのように立ち上がった認証ビジネスですが、母数が増えなければおしまいです。
それでも認証機関は継続的に維持審査の仕事がありますが、コンサルはオマンマの食い上げです。

そのためISO認証が必要でない企業にも、認証させる方法を考えたのだと思います。それが『会社を良くするためにISO認証する』という発想であり宣伝だと思いますね。
当時、受動的認証と積極的認証なんて言い方もあったと聞きます。商売上認証しなければならないのが受動的認証で、会社を良くするために認証するのが積極的認証だそうです。

でも田村さんが言ったようにIAFが認証とは何かと公式に説明しているものは、積極的認証について言及していません。認定機関の国際団体であるIAFは、ISO認証しても会社が良くなるとは考えていないようです」

清野 「ああ〜、そういう経緯があったのですか」

磯原 「それに会社を良くするとはどういうことでしょうか? 株価か、利益か、社員の賃金や福利厚生か、メセナ(注3)ですか、私は分かりませんが、会社を良くすると語っている人も何が良くなるのか分からないのではないですか」

清野 「ISO14001認証すると儲かるという人もいましたよね」

磯原 コピー用紙 「確かに、でも儲かったという人の語るのは、PPC(コピー用紙)を削減したとか、節電に努めたとか、まったくISOと関係ないですね。
そもそもPPCが無駄に使われていたなら、ISO以前に無駄な費用削減のために皆が活動していなければおかしい。節電も同じです。それと行き過ぎた照明削減は安衛法にも関わります。元々の照明の明るさが法を大きく上回っているならそれがおかしいです。

要するに私が見聞きしたISO認証して儲けたという人は、実際はISOに無関係な費用削減をしただけです。ISO認証したからできたというなら、職制の指示命令ができなかったということです」

清野 「まあ、磯原さんはシニカルなのですね」

磯原 「清野さん、こう言ってはなんですが、大学院でISO認証について論文を書こうとするなら、ISO規格について、またISO認証について、歴史からエピソードまで裏の裏まで調べないといけません。
清野さん、ISO14001の認証件数がピークになったのはいつですか?」

清野 「ええと、ピークになったというと、今は減っているのですか?」

磯原 「冗談はお止めください。失礼ですがその程度のことを知らなければ、ISO認証について論文を書く以前です。
最近、某ISOコンサルの広告で、ISO14001認証件数は20年前に比べ1割増加しているというのを見かけました。笑ってしまいました」

田村さん 「はて、どこが面白いのかね?」

磯原 「ISO14001の認証件数は、確率分布のグラフで言うとガンマ分布のような曲線を描いています」

田村さん 「ガンマ分布というと……最初の立ち上がりは早くて、ピーク以降はなだらかに減っていく形かな?」

磯原 「そうそう、ISO14001は1997年から認証が始まり、ピークが2009年で20,799件でした。
それ以降なだらかな減少が14年続いています。2023年の今は12,600ほどです。実にピークから4割も減ったのです」


注:上記数字は実績である。なお、この物語は2023年8月である。


田村さん 「ええと、そうすると先ほど磯原君が言った笑い話と言うのは……」

磯原 「2000年頃、認証件数が11,700ほどでした。そして2023年の今は12,600ですから、割り算すれば1.08倍ですから四捨五入して1割増しと言うのは間違いじゃない。
でも上に凸のグラフのピークの両側の数字を比較して増減を論じるのは、理屈が破綻しているでしょう。こんな広告、詐欺じゃないですか。
あるいは貧すれば鈍す、そこまで落ちたかという感じですか」


認証伸び
ISO14001の2003年と2023年の
件数を直線で結べば右上がりだ。

注:これは2024年4月にネットで見かけた実話である。
もっとも大学の先生が書いた論文でも、同じ論法の文章があった。それは学校のISO14001認証件数が対象だった。となると、これはありふれた方法なのだろうか?

ダレル・ハフの「統計で嘘をつく法(注4)という古典とも言える名著がある。その本にもこんな邪道なテクニックは載っていなかった。


田村さん 「まあ騙される人も不勉強だな。私ならすぐにググって裏を取るからね」

清野 「不勉強なのは私ですね。
そしてISO14001はもう10年も前に終わっていたのですか」

磯原 「終わってはいませんよ。ISO14001の審査費用、認証機関から見れば売上ですが、今でも日本全体で年間100億近い売上はあるのです。それにISO9001もありますから認証ビジネスの市場規模は250億くらいあります。小さいかもしれませんが、ニッチなビジネスとして上手くやっているとも言えます。
ただ何事も現実を知らずに語ってはいけませんね」


2023年JAB認定のISOMS認証の審査売上は、250億はないだろう。日経もどこの経済紙も、こんな小さなビジネスを調べていない。
唯一見つけたのは20年も前の「管理システム規格適合性評価専門委員会報告書(注5)」だけだった。

札束

私は2024年の市場規模をISO14001は80億、ISO9001と合わせた認証ビジネスの規模は220億と推定する。
それ以外のマネジメントシステム規格も多々あるが、認証件数の95%はISO9001と14001が占めている。

もちろん認証ビジネス全体では、審査員研修機関、登録機関あるいはコンサルや認証代行、ISO関連書籍もあるから、全体ではこの数倍になるかもしれない。


田村さん 「そういったもろもろを考えると、なぜISO14001認証を返上するのかというより、なぜ認証を継続するのかと疑問を持つのが普通だな」

清野 「商取引でISO認証が求められているからでしょう」

田村さん 「そうだろうか? あなたは御社が取引している顧客……数万社あるだろうが、その内、何社がISO認証を要求しているか調べましたか?」

清野 「いえ……想像ですが1割や2割はあるかもしれません」

田村さん 「残念ながら、多分1件もないはずだ。なぜなら公正取引委員会が製品の性質上認証が必要でなければ、取引条件に認証を要求してはいけないという文を出している」


注:私は毎年、グリーン調達でどのようなことを要求しているかを調べている
それによると毎年新規・更新されたグリーン調達基準書が40件ほどある中で、ISO認証を要求している企業が1社くらいある。実際の運用がどうなっているかは知らない。


清野 「ええ! そうなんですか?
あっ、でも国交省の入札条件にISO認証がありましたよ」

田村さん 「あれは入札条件ではない。加算点だ。認証しているなら少し嵩上げしますよということです」

清野 「ああ〜、そうなのですか」

田村さん 「あなたは国交省の元ネタを読んでいますか?
清野さん、どうもあなたと話しているとISO認証の論文を書く前に……」

清野 「ISO認証を勉強しなければならないということでしょうか?」

田村さん 「いや、そうではなく……その前に会社とは何か、ビジネスとは何かということを、認識しなければならないように思いますね」

清野 「勉強とは違うのですか?」

田村さん 「勉強とは学問とか技術を、書物や経験で身に付けることだ。認識とはものごとを良く見て、どういうものかをしっかりと知ることだね

まず企業とは何か、企業理念(注6)とはなにか、企業はいかなる論理で動いているのか、会社の文書体系はどうなっているのか、会社の組織、機能、手順はどのように決まっているのか。おっと組織、機能、手順とはずばりシステムだね。
それから最近の流行として持続可能性、SDGs、そういったものに企業はどう関わっているのか、そういうことを理解することだろうね。

そういう基礎を理解した上で、ISO14001とは企業にとって何なのかを考えなくてはならない。ISO認証をどうするとか、認証について研究するというのはそこからだ」

清野 「はあ〜」

田村さん 「考えてごらんなさい。あなたはISO認証返上について知りたかったのだろう。それを聞くためにここに来たのだ。

なぜISO認証を止めたのかということは、認証するメリットとデメリットを知らなければならない。メリット・デメリットを比較するなら認証とは何か、その効用と負担をどうとらえるか、お金でも負荷工数でも指標を考えないとならない。あるいは代用特性を考える必要がある。

私は弊社では審査が多大な支障があったと語った。御社ではそういうことはなかったと言ったね。
かように企業によって受け取り方が違うのだから、1社2社調べただけではわからない。アンケートとかヒアリングをして多数の企業のデータを取って、世の中の実態を把握しなければならない。審査のとき同じことが起きても、一方はそれを妥当と考え、他方は損失と考えるかという差異もあるだろう。
認証を返上している企業はどのような理由か、調査すべきことはたくさんあるね。

今回、当社に調査に来たわけだけど、どのような調査計画を立てて、ここに来たのか。この調査はどんな意味を持つのかも気になりますな」

清野 「とおっしゃいますと?」

田村さん 「日本にはISO認証を返上した企業は、累計2万社くらいある。なぜ返上したかを調べるなら、その2万社をどのように調査するのか考えたと思う。
もちろん全数調査はできない。当然抜取になるだろう。それなら、なぜ当社を抜き取ったのかは興味があるね。もちろん弊社ばかりでなく、最低20社くらい調査するのだろう?」

清野 「そのようなことは考えておりませんでした。とりあえず御社だけ……」

田村さん 「ひとつの企業におけるISOとの関りを、黎明期から終末まで追いかけるのもありだろう。ルポルタージュのようなものだ。
他方、認証返上した多くの企業を調査して、ISO認証の功罪なり復活のための提言をするつもりなら、方法論が異なるだろう」

清野 「おっしゃる通りです」

広瀬課長 「なかなか具体的な論まで進みませんね。
清野さん、どうでしょう、論文については再度ご検討されたらいかがですか?
本日の残り時間はテーマを変えて、ISO規格とかISO認証にまつわることについての質疑としたらいかがでしょう」

清野 「ハイ、分かりました」



うそ800 本日の言いたいこと

世の中で「ISO事務局している。ISOで会社を良くする」とか語る方々はたくさんいます。そういう人の語ること、書いたものを拝見すると、ナンダカナーと思うものがたくさんあります。ISOじゃなくて提案活動とか小集団活動のほうがお似合いだと思います。

ISOではありませんが「環境部に所属して自然保護をしている」と語る人に、会ったことも二度や三度ではありません。例えば埼玉県某所の田んぼを保存しようとしていると語った方は、ご本人も企業もその地域に全く縁がありませんでした。なぜその活動を? と不思議に思いました。
バブル崩壊して20年以上、今もそんなことをしていて大丈夫なのかと心配になります。
なにか根本的というか出発点からしてずれているとしか思えません。



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注1
注2
・ISO9001:1987 「4.6.3購買データ」(c)参照
ISO9001初版では認証のねずみ講を考えていたようだ。

注3
メセナとは芸術・文化の援護活動のことで、SDGsの声が大きい現代ではあまり聞かなくなった。1990年代は企業の良心のように言われた。美術展とかはともかく、ゴルフトーナメントなど冠スポーツトーナメントもメセナになるのだろうか?

注4
「統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門」ダレル・ハフ、講談社ブルーバックス、1968

注5
・「管理システム規格適合性評価専門委員会報告書」(2003)、日本工業標準調査会適合性評価部会

注6
ISOなんて関わると○○方針が真っ先に出てくる。
1990年頃、方針とは何ぞやなんて考えてしまった。だって会社方針というものは品質奉仕とか安全第一とかいう四字熟語のようなもので、ISO規格に見合ものではなかった。当時は…今もかもしれないが……どの会社でも方針とはとそういうものが多かった。
ISOの方針が広まったせいか、「理念」、「ビジョン」、「目標」、「方針」と階層化して定める会社も多くなった。
現代は「企業理念」が最上位らしい。
じゃあ、企業理念とはどういうものかとなるが、日本の一流企業の企業理念を集めたものがある。

有名企業の理念・良く検索される理念50社分を一覧にまとめました
読むと面白いし、ためになります。推薦します。




外資社員様からお便りを頂きました(2024.05.23)
おばQさま いつも参考になるお話を有難うございます。
スラッシュ電機の皆さんは、競合なのに世間知らずな清野に対して大人な対応で優しいですね。
非難しているのではなくて、自分の若い頃を考えると、似たように世間知らずで、いろいろな大人に教え導いてもらったのを思い出しました。 今は、そういう余裕もないのかもしれませんね。

おばQさまの記事にあるように、ボッシュに関する公取の記事(2003年)が出てから、認証要求は消え、加点性に代わりましたね。
公取の記事を見ると「下請事業者が本件認証(品質マネジメント)を受けなくとも,ボッシュは,納入品の品質の維持・改善を図ることは可能」とあります。 ある意味当然なのですが、それが言えなかったのが2000年くらいで、まさに記事にあるような認証件数の分水嶺のきっかけになったように思います。

いつもさりげなく記事を書いていながら、細かい所もしっかりお書きになっていると、いつも感心しております。

外資社員様、毎度お便りありがとうございます。
大学生とか院生との対応ですが、結構親切に対応していました。営業とかでしたら仕事じゃないと断る一択でしょうけど、環境とか広報は外向きの顔をよくしたいし、リクルート関係もあるから、余裕があれば対応すると思います。
実際に電話で相談とかお会いしたいというメールも来ました。
ただ社会人を長くしていた身としては、他人の時間を奪うならそれなりの努力をすべきと思います。
環境報告書に書いてあるようなことは問い合わせちゃいけない、アンケート調査ならその調査結果が回答者にメリットがあると説明する必要はありますね。まあ私も50年前は気が回りませんでしたけど。

ISO9001も当初は非関税障壁にはしないと序文か付属書にあったと思いますが、二転三転しました。何事も完璧はないでしょうけど、変更、改定が多いと価値が下がりますね。




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