タイムスリップ183 懇談会その2

26.07.13

注1:この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。
但しISO規格の解釈と引用文献や法令名とその内容はすべて事実です。
ご注意ですが、法令は物語の時点を記しており、その後、改正があって現時点と異なるものがあります。

注2:タイムスリップISOとは

注3:このお話は何年にも渡るために、分かりにくいかと年表を作りました。



第182話から続く

懇談会が終わった。参加者は三々五々と会場を出ていく。
佐川たち環境ISO研究会のメンバーは開会前に田中から、後で研究会の仲間で話をしようと言われていたので、山口、金子と共に部屋の片隅で待っていた。
田中が会場を点検して忘れ物などないことを確認後、管理人に終了した報告と、整理整頓を依頼した。

紙コップコーヒーサーバー

まだ時間が早いから地下の飲食店街に行くのも憚られ、小会議室で話をしようとなった。
小会議室と言っても10人は入れる広さがある。田中はコーヒーサーバーとスナック菓子をロビーのカウンターから持ってくる。


金子さん 「こういう部屋を自由に使えるとは田中さんは偉いんですね。私なんて会議室取るのにも、上司の承認印が必要です」

田中さん 「まあ、年齢相応だよ。サスティナビリティ本部参事という肩書で、いろいろやっている。メインは認証指導や外部監査支援で、社内コンサルと思ってくれれば間違いない。

外部審査もISOばかりでなく、薬事法もあれば防衛もある。今でも二者間の品質監査もある。まあISO9001では実際の品質保証には不足だからね。
認証とか認定って皆同じだよ。要求事項をよく理解して、手間をかけず最短でそれを満たすことだ。

ところで今日の話は、それぞれの立場で言いたい放題でまとまりがなかったけど、どんなことを感じました?」

佐川真一 「まずBCMは規格ができてからですね。今日の西田さんの話でも、具体的な要求事項など分かりませんでした。要求事項が固まっていない現段階では、議論しても意味がなさそうです。

それと認証範囲がどうなるか?
ハワードさんが組織の決めることと言っていたけど、どうなるのか全く見当がつかないな」

金子さん 「対象は工場の復旧、ビジネスの再開、サプライチェーンの復旧でしょう。財務とか経営レベルに要求事項は届かないでしょうね。できないことを語っても意味ありません。
具体化すればするほど、見て分かりやすい工場レベルのBCMになるように思う」

田中さん 「まあ、そうだろうね。ISO14001も大層なことを語っていたけど、おままごとの環境側面の決定では本当の仕事まで辿り着かないし、結局見せるEMSでおしまいだった」

金子さん 「皆さんのところでは、認証する予定ですか?」

山口 「担当者レベルでは話はしています。でも決定権のあるエライ人は、まだBCM認証など思いもしないでしょう。結局、経団連が言い出すとか、周りの会社が認証に走り出してからでしょうね。
ウチの会社は保守的ですから、人の後を追う隣百姓(となりびゃくしょう)ですよ。
もっとも今の時代、ISO認証のトップ争いすることもないですし」

佐川真一 「経産省でBCMの規格を検討していると言っていたけど、ISOでどんな風になるかだけでなく、経産省が事業継続のガイドラインというものを作ろうとしていると思う」

田中さん 「それを企業に認証しろと?」

佐川真一 「まさか、そんなことはできないよ。ISO認証なんて縁のない中小にも、そういうことに対応しろと形を示すのでしょう。例えて言えば簡易EMSのようなものじゃないかな」

金子さん 「おっしゃること分かりますよ。EMSのISO認証もお金ばかりかかって、ご利益(りやく)はなかった。簡易EMSで十分ですよ。
そう考えると、ISOがBCMも認証に拘るのはどういうことなのか、大いに疑問です」


注:不思議なことというか、ISO14001が激減しているのに対して、簡易EMSは減っていない。かっては簡易EMSはISO認証の予行演習とか、いつかは本格的なISO14001にと言われていた。
今になって見ると、EMSなんて昔からしてきたことであって、肩ひじ張って遣るようなことじゃなかったんじゃないか。
それを外部に見せるには、多少の文書化とお化粧をする程度、つまり簡易EMSで良かったということではないのか?

簡易EMS認証件数推移

上図を見て増えていないと思うかもしれないが、ISO14001が2009年頃の6割弱に減っていることを思えば、善戦どころかすばらしいパフォーマンスである。
もちろん、簡易EMSは認証費用が安い。だから長く続けられるのかもしれない。


山口 「それは簡単です。ISO規格を使った認証が、お金になると思っているからですよ。
BCMの最終的な認証件数を15,000件、審査費用1件100万として150億売り上げが期待できる、そんな考えでしょ」

田中さん 「ISO9001の大ヒット、ISO14001のヒット、その成功体験から、柳の下のドジョウを狙ったのね。
知っていると思うけど、ISO9001の認証件数のカーブは、変曲点を過ぎた(注1)

金子さん 「そうですか! 毎月JABのウェブサイトを見ています。認証件数のグラフがありますが、気づきませんでした」


注:当時はJABのウェブサイトにこういうグラフが載っていた。
認証件数の増加が止まった頃から、グラフが掲載されなくなった。

認証件数推移
ISO9001認証件数推移ISO14001認証件数推移

田中さん 「認証件数がドンドン増えるなんて神話は、もう終わったよ」

金子さん 「吉澤先生が、ISO14001認証4万件を目指そうなんて言ってましたが・・・」


注:吉澤 正先生は集会などでいつも「ISO14001認証件数4万件を目指そう」と語っていた。2004年頃はそうなると思っている人もいたようだ。

だが、ISO14001は2009年末の2万をピークに減り始め、吉澤先生が亡くなった2012年にはピーク時より5%減った。2026年7月現在では、ピーク時の6割を切った。


田中さん 「無理々々、ISO9001が今(2004年)38,000くらいでしょう。
もちろん件数増加が止まるまでには、あと2年は伸びるだろうけど、2006年頃4万がピークでしょう。
ISO14001は、その2年後に2万をピークに後は減る一方さ」

山口 「BCMの認証件数はどうなるか予想できますか?」

田中さん 「まだこれからのことで見当もつかないけど、まあ、数千は行くと思うよ。物好きはどこにでもいるから。でもQMSやEMSの減少をカバーはできない。

金子さんの言うように、カニバリズム(共食い)が起きるかもしれないね。そうなれば認証ビジネスは終わりだ。
もちろん認証制度は残るだろうけど、華やかなものでなく、地味なものに変わるのではないかな」




H社のレセプションゲートを出て金子と別れた後、佐川と山口はビルのロビーに壁沿いに置いてある椅子に座る。

佐川真一 「山口さんとは、久しぶりですね。お仕事の方はいかがですか?」

山口 「今(2004年)でも関連会社には、ISO9001とか14001認証するところがありまして、その指導をしています」

佐川真一 「柳田企画(第47話)は、指導の仕事は止めたのですか?」

山口 「片岡さんと佐々木さん、お二人とも今年の3月に定年になりました。とはいえ、お二人とも柳田企画の嘱託にしてもらい、非常勤でISOのコンサルをしています。

二人とも悠々自適でお金を稼ぐ気がなくて、その分、私の方に認証指導の要請が来ます。
どっちが親会社か分かりません。考えてみれば、けしからん話ですね」

佐川真一 「柳田企画に後任はいないの?」

山口 「仕事はあるので、工場でISOの仕事をしている人を、出向受入すればよいと思います。
とはいえ、片岡、佐々木のお二人は非常勤の嘱託ですから人件費が違います。要するにお二人が本当に引退するまでは、後任者を引き取る気はないようです。

佐川真一 「私も53だから、そろそろこれからどうするか、考えないとならない時期だ」


注:会社によるだろうけど、定年間近の人が黙って座っていれば自分に合った仕事を世話してくれるようなことはない。出向したいなら、関連会社とか取引先に自分を売り込まないとならない。

それでも出向であれば出向元から賃金の補填があり、引き取ってもらいやすい。まったく無縁の会社だと出向でなく普通の採用ですから、ハードルが上がる。


山口 「佐川さん、真面目に言っているの? 佐川さんなら引く手あまたでしょう。
それこそ柳田企画だってありますし、本社の環境部でも、いったん戻って定年になれば嘱託で残れますよ。環境保護が騒がれいますから当分環境部がなくなることはありません。

公害問題、廃棄物、ISO関係、事故や違反のトラブルなら、佐川さんのお得意でしょうし、なんでも御座(ござ)れでしょう。

そうそう、ハワードさんに言えば審査員で雇ってくれるでしょう」


注:1991年、経団連地球環境憲章を出し、全国の企業は環境活動を走り出した。その後2000年頃、大手企業でISO14001認証が一巡して、環境は卒業という雰囲気が広まった。
しかしRoHSの最初の法案が2003年に公開され、また家電リサイクル法も2001年に始まり2004年に対象が広まるなど、それまでの形だけ意識だけの環境活動から、行動を伴う環境活動に変化した。それによってどこの会社も2000年頃から形だけ気分だけの環境部から、意味のある環境部に変わった。
だが2010年を過ぎると、そういった法規制も一段落して、どこも環境部をサスティナビリティ部などと改称し精神的なものに戻ったようだ。歴史は繰り返すのである。


佐川真一 「今のところに行ってもう丸2年、することはしたって感じだ。いつまでもいるわけにはいかない」

山口 「どうしてですか?」

佐川真一 「私は省庁に出向じゃなくて、議員秘書に出向なんです。賃金は100%出向持ち、つまり吉宗機械が出している。だから定年まではともかく、その先の出向はないし、出向受け入れの方は賃金を払うなら要らないですよ。
それに雇い主である森官房長官も、いつまで官房長官をしてるか、議員をしているかということもありますし・・・」

山口 「なるほど、条件は甘くはないのですね。
でも佐川さんの目的であった、福島原発のメルトダウンを止めることは成就しそうでしょう?」

佐川真一 「それは実現しそうです。そればかりでなく東日本大震災の津波被害を減らすための施策はいろいろしています。ありがたいことです。
ところでBCMのことに戻りますが、当社はどうするの?」

山口 「BCMの体制は作るでしょうけど、認証はどうですかね、しないと思います。
今までの話でも、認証してもメリットがありません」

佐川真一 「それで良いと思います。
私は未来の記憶があると言いましたよね。ISO22301は8年後の2012年に制定されます。しかし、その元になるイギリス規格BS25999は2009年に制定されます。

いつの時代でも早いのが取りえという人がいて、2009年から25999での認証は始まります。
しかしその認証件数は伸びません、微々たるものです。記憶では2015年頃60件、2020年頃も変わらなかったようです」

山口 「ええっ!、たった2桁。それじゃ、全然じゃないですか。
もうBCMはともかく、BCM認証を考える必要はありませんね」




ハワ-ドと西東(さいとう)がH社の本社ビルを出ると、後ろから声がかかった。振り向くと本間が二人を手招きしている。


デイブ・ハワード 「本間さん、どうしました?」

本間部長 「今日の話のことで、皆さんのお考えを聞きたいのです。30分くらいいかがですか」

西東さん 「そうですね。認証機関の者同士、情報交換するのも良いでしょう」


ということで大手町から東京駅のほうに歩いて行き、見つけたカフェに入る。
時間的にガラガラで、周りに人がいない席に座る。


西東さん 「本間さんは取締役をお止めになって、今は契約審査員ですか?」

本間部長 「そうです。なにもしなければボケるばかりですから」

デイブ・ハワード 「イギリスでリタイアパーソンの趣味と言えば、ガーディニン(庭いじり)グとカントリーウォ(お散歩)ークですが、そういう趣味はありませんか」

本間部長 「私のようなサラリーマン取締役はアパート(マンション)暮らし、庭いじりするにも庭がありません。田舎の散歩をするには2時間くらい電車に乗って行かねばなりません。とても無理ですから、せめて体の動く間は審査員でもいたしましょう。

ところで本題ですが、BCMの認証をどうお考えですか?
まず大きな疑問ですが、認証が伸びると思うか、伸びないと思うか?」


西東本間ハワード
西東さん 本間部長 デイブ・ハワード

西東さん 「どこかの会社のISO事務局が、カニバリズムとかパイが縮小しているとか、言っていましたね」

本間部長 「実は私もそう考えています」

デイブ・ハワード 「その前に認証は国の事情が大きく影響します。ISO14001の初版の序文に、『法規制の遵守及び継続的改善に対する約束以上の(中略)ものでないことに留意するとよい(注2)とあります。

言い方を変えると、法規制が整備されている国なら、それを遵守するのは必須であり、それで環境管理が間に合うならISO認証を持ち出す必要はありません」

西東さん 「えっ、そう解釈されるのですか?」

デイブ・ハワード 「だってISO14001の意図は、遵法と汚染の予防ですよ、お忘れですか?
日本では、省エネしろ、目標は1%だ、できないときは・・・と省エネ法に書いてあれば最低限それをしなければなりません。
それがISO規格要求以上であれば、それ以上要求することもないでしょう」

本間部長 「ということは法規制が整備されていない国は、ISO規格を遵守するというか、認証を受ける意味があるということになりますな」

デイブ・ハワード 「その通りです。
中国のISO認証件数は、まだまだ少ないですが、現在、ものすごい勢いで伸びています。あと数年で日本は追い抜かれるでしょう。
認証件数が追い越されても、それは別に悪いことではありません。人口も会社の数も違うのですから、認証件数を競うことはありません。

むしろ日本は、ISO14001認証の必要があるのか、考えなければなりません。
省エネ、公害防止、リサイクル、環境管理の各項目ごとに細かく法令で定めていて、それに則って仕事をすれば、実際に省エネが進み、公害を出さない、廃棄物処理が適正に行われると私は考えています。
どうしてわざわざISO14001の認証をするのですか?」

本間部長 「しかし現実にはISO14001の認証件数は世界一ですよ」

デイブ・ハワード 「ですからこれから数年の間に日本のEMS認証件数は減少していくでしょう。それは日本は必要以上に認証しているからです。
認証件数が減っても、それによって環境管理が悪くなるとか公害が増えることも、起きるはずがありません。

他方、中国の認証件数はドンドン増えますが、それによって公害が減るとか省エネが進むと期待できるでしょう」

西東さん 「ちょっと論理が理解できません」

デイブ・ハワード 「中国のEMS認証は、法規制が足りない部分を埋めるものです。
それがISO14001認証の本来の目的ではないですか」

本間部長 「おっしゃる意味は分かりました。そこから演繹されることは、日本ではBCM認証は期待できないとなりますか?」

デイブ・ハワード 「その通りです。流行に敏感なIT企業などが認証を受けると思いますが、大きくは増えないでしょうね。
BCMの対象範囲がどこからどこまでかという質問がありました。なんだかんだ言っても、大勢は災害と事件・事故がメインになるでしょう。

地震ですよ

となると災害の多い日本では、昔から防災はしっかりしています。地震の多い国は中国、インドネシア、イラン、日本と続きます(注3)

そういった国と地震の被害や復興状況を比較すれば、お分かりでしょう。同じ規模の地震が起きたとき、人的被害も物的被害も他国に比べて小さく、復旧が速いのが日本です。

ならば災害からの復旧を明文化すれば良いわけで、無形・不文だったものを、明文化する程度ではないかという気がします」

本間部長 「企業側の意見と同じですか?」

デイブ・ハワード 「誰が見ても現実は変わりません。
そう考えるとEUで製品を売るにはISO9000sの認証が必要という法規制があったからISO9001認証が広まったものの、それ以外については、日本のように高度に法規制とか自主基準が整備されている国では、認証は不要と思えるのです。

もちろんなんでも法規制が良いわけではありません。電取法が2001年に電安法に変わりましたね。昔は技術も低く、使用者も素人だった。だけど時代が変われば、法規制から自主規制になってもおかしくありません」

本間部長 「ハワードさん、そうしますとISO認証はずっと少なくて当然というか、平衡状態になるまで減少すると聞こえますよ」

デイブ・ハワード 「QMSもEMSも認証件数増加は鈍化してきました。ISO9001の認証件数はもう少し増えて4万でオシマイ、ISO14001は2万でオシマイでしょう。
後は減るだけです」

西東さん 「ちょっと待ってください。ISO9001は、今36,000くらいですが、後すこしでおしまいとは?」

デイブ・ハワード 「日本でISO9001認証を必要とする企業は、そんなにないのです。
EUの域内移動にはISO9000s認証が必要と言われて認証したときの認証件数は、2,000件足らずでしたよ。今認証している3万6千から2,000を引いた3万4千件は、認証は必要ではないのです」

西東さん 「そうしますとピークを過ぎれば、各認証機関は小さくなったパイの取りあいということ?
いや、そこにBCMが救いの神となると?」

デイブ・ハワード 「ISO14001を認証してメリットがなかったと気づいて認証返上した企業が、新しいマネジメントシステムだからとBCMの認証を受けようとしますか?
大いに期待薄ですね。
懇談会ではカニバリズムと言ってた人がいましたが、従来からのQMSやEMSは減るばかりで、改めてBCMなど認証しないんじゃないかな」

本間部長 「ハワードさんがおっしゃることは、正鵠を得ていると思います。弊社でも、ISO認証がまもなく減少に移ると認識しています。
それで新しいビジネスとしてBCMを期待していたのですが、そうはいかないとなると・・・・・・認証機関は、これからは生き残るために厳しい競争になりますね」

デイブ・ハワード 「元々、認証というビジネスの市場規模は大きくないのです。
私どもは、元々は船級検査会社でした。弊社は以前から日本でも神戸事務所、横浜事務所を置いていましたが、それぞれに営業、審査員を合せて数人いただけです。船級検査という何世紀も前から存在して必要な存在と認められている業種であっても、そんなものです。

ISO認証機関は日本に限らずたくさんできています。しかし本当に必要な認証件数を考慮すると多すぎます。
日本の審査員はQMSが13,000人、EMSが1万人とは、どう考えても多過ぎでしょう(注4) QMSの認証件数が36,000、一組織の審査工数を4日間とすると、14万4千人日、一人250人日として、570人で済む計算です。13,000人なら年に10日しか仕事がないことになります」


本間部長 「まあ、その半分は審査員補でしょうけど」

デイブ・ハワード 「その通りです。しかし審査員補になることに意味はありません。審査員補になる人は、いつかは審査員になりたいはずです。でもそれほど仕事量はないのです。
もし今審査員補のひとが審査員になったなら、認証件数が20倍必要になります。

逆から見てみましょう。日本の法人数は500万と言われますが、活動しているものは360万弱でしょう。
その中には一人の法人もあるでしょう。働いている人がひとりでISO認証したなんてニュースがありましたが、話題狙いでしょう。
実質的に認証する意味があるのはメンバーが50人以上いる組織でしょうね。50名以上の企業はなんと13万社です(注5)
50名以上の会社が業種に関わらず全数認証したとして、日本の市場規模は13万です。

現在の審査員補が全員審査員になれば70万社の審査能力になる。スタートから矛盾です。これはどう考えても実現不可能です。

ええと、言いたいことは日本では、今までISO認証がフィーバーどころかオーバーヒートしていたのです。本来ならISO認証機関など、路地裏に所在するようなビジネスであって、審査員も脚光を浴びるようなものじゃありません。

審査員になる要件は高卒です。それはイギリスで定めた審査員の資格要件からきているのですが、発祥の国、イギリスでは審査員の仕事を、そう高いレベルとみていない。
どうもうまく話せませんが、私の言いたいこと分かりますか?」

本間部長 「要するにISO認証ビジネスに、大きな期待をかけてはいけないということですな」

デイブ・ハワード 「そうそう、日陰で咲いている花でちょうどなのです。認証ビジネスがビックビジネスになると思うのは勘違いです。
そもそも非生産的なビジネスが興隆しても、GDPにも寄与しないし国家に何の得もありません。

お二人は認証機関の社長や取締役です。認証ビジネスの市場規模をご存じでしょう。何億ですか?」

西東さん 「認証機関の審査売上に限定すれば、2004年で500億くらいでしょう」

本間部長 「それほどはないよ。2004年で450億というところじゃないかな」

デイブ・ハワード 「私も450と見ています。そして驚くかもしれませんが、この450億というのが認証ビジネス売上のピークと考えています。
つまり今がピークであって、後は減るだけなのです」

西東さん 「ええ! 先ほどのお話では、認証件数は9001も14001も、あと2年くらいは伸びるということでしたね? それならピークはまだ先でしょう」

デイブ・ハワード 「売り上げは認証件数だけでは決まりません。『認証件数 (かける) 認証単価』です。
今、認証ビジネスはノンジャブ(注6)の攻勢で、どんどん審査料金は下がる一方です。

ノンジャブの反対をエスタブリッシュ(既得権益層)メントと私は呼んでいます。弊社もそうですが本間さんの認証機関のようなJAB認定の大会社は、オーバーヘッドが大きすぎます。
一例を挙げれば、丸の内とか赤坂の立派なビルに事務所を構えるか、神田の雑居ビルに住まうかの違いですね」

西東さん 「ハワードさん、つまるところ、何を言いたいのですか?」

弱肉強食

デイブ・ハワード 「天敵がおらず安全で豊かな暮らしの草食動物の生態系に、飢えた肉食動物が放たれたのです。結果は見えています。
エスタブリッシュメントのみなさんは草食動物です。

生き残るには、そのジャングルの掟に対応しなければいけません。親方日の丸の安穏としたビジネスを忘れて、肉食動物と闘わねばなりません」


注:弱肉強食を英語で何と言うのかと思い調べた。驚いた、The law of the jungle、直訳すると「ジャングルの掟」というのだ。
ひとつ勉強になりました。


本間部長 「それは弊社も真剣に考えています。
とはいえ打つ手もなかなか・・・」

審査登録書

デイブ・ハワード 「審査見積が100万の認証機関と60万の認証機関があれば、どちらを選びますか? 発行される審査登録証の価値は同じなのです。
まずは、一日の審査費用を半分にすることくらい考えないとなりません」

西東さん 「半分ですって、そんなことできますか!
お宅さんだって1日14万くらいでしょう?」

デイブ・ハワード 「生き残るにはそれくらいしないと難しいのです。
審査料金が高いなら、お客を納得させられる品質を提供するしかありません。
ただ、品質だけでは戦いになりませんね。価格は重要なファクターです」

西東さん 「費用を半減するのは可能なのか?」

デイブ・ハワード 「それは考えるしかありません。いずれにしても自分のビジネスを継続できないなら、人様(ひとさま)の事業継続マネジメントの審査などできませんよ」


物を買うときはQCDが重要だ。

まずC(お値段)である。他社の同業者(ISO担当者)から審査料金を値引きさせたと聞いたのは、2000年頃だったと思う。
すごいことだと感心した。

しかし考えてみれば見積書を受け取って、そのまま注文書に添付して伺い出る人はいないだろう。最低でも「ちょっと勉強してよ」と電話する、見積書の千円以下は切り捨ててよと言うのも普通のこと。
また少し金額が大きな仕事を外注するときは、相見積もりを取って比較するのは当たり前だし、そうしないと審議を通らないだろう。

部品購入でも外注先へ発注も認証機関の選定も、何の違いもない。
ともあれ、いつしか審査料金の値引き要求は当たり前になった。

次はQ(品質)だ。
2000年代半ばから、審査の質によって発注先を変えるようになった。トラブルを起こした審査員は次回以降お断りになった。
床屋 愛想の悪い床屋に行くのは止める、床に落ちた商品を棚に戻すスーパーでは買い物を止める、礼儀知らずの審査員は断る、いずれも当たり前だ。

D(供給)といえば、日中忙しいから、審査を時間外でしてほしいと条件を付けるようにもなった。当たり前だよね。
現場審査なら現場で作業していなければ審査にならないだろうが、書面審査なら時間外でも良いはずだ。もちろん審査時間は同じだから追加料金がない方が良いね。




ISO認証社である。
アイスコーヒーアイスコーヒー
押田編集長と増子は、パソコンやICレコーダーなどの道具を持って会社に帰ってきた。
初夏の日差しは強い。二人は汗でびっしょりだ。こんなときは車が欲しいと思う。

持ち帰った荷物を片付ける前に、二人は小さな丸テーブルに座って、アイスコーヒーを飲む。


押田 「いやはや、会社側も認証機関側も言いたい放題だったね」

増子 「そうですね、でも私は会社側の言い分に共感しました。認証の意味、効用と言い換えても良いですが、それをはっきりと示さないと、今以上、認証ビジネスが伸びるとは思えません。

内閣官房の偉い人だそうですが、山田危機管理監山田さんの質問『BCMの規格に合わせた企業は、復旧までの時間短縮効果とか総費用の低減が試算できるのか? また、BCM構築だけの場合と認証した際の違いも数字で示せるのか?』は至言ですよ。
あの問いに答えられなければ、認証ビジネスしちゃいけません」

押田 「オイオイ、あんな難問に答えがあると思うのか?
正直言って、あれは禁句だ。言っちゃいけないお約束なんだ」

増子 「編集長、それを説明できずに認証を薦めるのは詐欺じゃないですか。
そこまでいかずとも要求されたら回答できなくちゃ」

押田 「それはQMSでもEMSでも同じだよな」

増子 「もちろんです。ISO認証を薦めるなら、その効用を説明できなければなりません。

父に聞きましたが、ISO9001規格は元々二者間で用いるものとして作られたそうです。それなら存在意義は分かります。
しかし第三者認証となると、その効用の説明付けが必要でしょう。それを聞いたことがありません。
父もEUでは必須だったからと言葉を濁していました。

ましてやISO14001になると誰に対する説明なのか? 紙ごみ電気をやって、計画通り進んでいますと審査で保証されても、無関係な人は何もありがたくありません。
更にBCMとなると、効果があるなら素晴らしいことですが、認証の効果があるのかどうか、そこが要点です」

押田 「君も言うようになったな」

増子 「私たちも認証ビジネスの一端を担っています。ISO認証ビジネスに浸かっていると、一般の方の無邪気な疑問を忘れてしまいます。

だからこそ認証ビジネスがいかに社会に貢献するものであるかを、私たちは社会に説明しなければなりません。それこそがISO業界誌の存在意義であり使命でしょう」




懇談会から数日後、内閣官房である。
山田危機管理監が佐川の小部屋にやってきて話をしている。


山田危機管理監 「懇談会で新しい情報があるかと思っていたが・・・あまり役に立つ話はなかった。
ただ自分の仕事は危機管理であって、世のため人のために役立っていることを自覚したよ。アハハ

しかし第三者認証と言うものは理解できんな、認証機関もISO雑誌社も、認証は免状を出せば済むと考えているようだ。だがその免状の意味の説明はなかった。
私が質問したが、物分かりが悪い奴だという目で見られたよ」

佐川真一 「あの質問は聞いちゃいけないようです。認証機関の関係者で危機管理監を説得できる人はいないでしょう」

山田危機管理監 「バイクのヘルメットは法規制があるが、普通はそれよりも厳しい民間のSGマークも受験している。それには賠償保険が付いている。そういうものなら生産者にも購入者にもメリットがある。チャイルドシートなども同じだな。
そういうものに関わっていたから、BCMに限らずISO認証は理不尽と感じる」

佐川真一 「懇談会の前に管理監と話をしたとき(第181話)。認証とは検定のようなものと説明したと思います」

山田危機管理監 「検定に合格しても、名誉以外に実利があるわけじゃない。検定に合格しなくてもそろばんは使える。
そろばん

ワシは何も知らない素人だが、BCMの規格に沿った仕組みは必要でも認証は無用のように思える。
認証が必要だというなら、その差は何かを説明してほしかったのだが」

佐川真一 「モノの値段はコストから決める方法と、価値から決める方法があります。審査員の賃金や認証機関の家賃から値付けしていては客がつきません。それを理解していないのでしょう。
ところで認証の価値は審査を受ける人が決めるわけですが、そのために認証制度は認証の意義を我々に説明すべきです。
管理監が質問したことに答えられないこと自体おかしいですよ。
過去には私が認証機関のエライサンに質問しましたが、質問そのものがおかしいと言われました。
認証制度は彼らが作ったものです。いつの間にか認証制度は社会財だと言い始め、既成事実化しただけです」

山田危機管理監 「BCMという考えは従来の防災をより広く考えることで結構だと思うが、どうにもこうにもBCM認証の必要性がワカラン。
災害保険とBCM認証がリンクしているなら納得だが」

佐川真一 「そんな恐ろしいこと、誰も手を出しませんよ」

山田危機管理監 「ワーテルローのロスチャイルドを見習いたまえ」

佐川真一 「日本にロスチャイルドはいませんよ(注7)



うそ800 本日の不思議

いつも疑問に思い、未だに回答が得られないことがある。
それは第三者認証となんなのかである。
いったいそれなんなのか?

私の知る限り2010年に出された「ISO/IAF共同コミュニケ(注8)がすべてだ。
そこには次のように書いてある。


共同コミュニケ要旨:
ISO9001への認定された認証に対して期待される成果
(組織の顧客の視点から)

「定められた認証範囲について、認証を受けた品質マネジメントシステムがある組織は、顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品を一貫して提供し、更に、顧客満足の向上を目指す」

2009/7 ISO/IAF共同コミュニケ


上記を読んで納得するか?、納得できるか?
私は納得できない。

そもそもこの文章が信じられない。ひとことで言えば「(IAF)が認めた組織は素晴らしい」と言っているに過ぎない。
だがそういうあなたは正しいのか?
演繹とは正しいものの積み重ね、スタートが怪しければそれ以降すべてが信じられない。



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    参考文献
  1. 「見るみるBCP・事業継続マネジメント・ISO23001」深田博史他、日本規格協会、2021
  2. 「はじめての企業防災BCP入門」インフォコム株式会社編、WAVE出版、2025
  3. 「中小企業の防災マニュアルとBCP」本田茂樹、労働調査会、2020
  4. 「JISQ31000:2018 リスクマネジメント-指針」JIS検索から入ると見られる
  5. 「JISQ22301:2019 セキュリティ及びレジリエンス-事業継続マネジメントシステム-要求事項」JIS検索から入ると見られる
  6. 「転ばぬ先のBCP策定」城西コンサルティングループ編、税務経理協会、2023
  7. 内閣府作成「事業継続ガイドライン(令和5年3月)」
  8. 「BCPの見直し・訓練・展開が分かる本」飛鳥馬 隆志、中央経済社、2021



文末脚注
  1. 毎年の認証件数の差を取れば数が増分であり、増分の差を取れば加速度となる。ISO9001の加速度は2003年でプラスからマイナスに変わった。それは将来減少に移るということだ。実際にその後は、多少の揺らぎはあるものの漸減し続けている。
    参考:ISO認証件数推移


  2. ・ISO14001:1996 序文の第7段落


  3. 地震が多い国・少ない国ランキング!上位の国の共通点も解説

    順位国名マグニチュード5.5以上の地震の発生回数/年
    1中国2.1回
    2インドネシア1.62回
    3イラン1.43回
    4日本1.14回
    5アフガニスタン0.81回
    6トルコ
    メキシコ
    0.76回
    8インド0.67回
    9パキスタン
    ペルー
    ギリシア
    0.62回

    こんなランキングの順位は高くてもうれしくない。


  4. ISO審査員数は元々はJRCAとCEARは公表していた。しかしあるとき(たぶん2012年)からJJRCAは公表するのを止めた。重大な秘密らしい。
    その後、CEARの仕事が2019年にJRCAに移管されてから全くの秘密となったようだ。
    下のグラフは最後の時期に公開されていたものである。

    ISO9001審査員登録者数推移
    17年前の「JRCA誌」より引用

    ISO14001審査員登録者数推移
    7年前の「CEAR誌」より引用(CEAR末期のもの)

    こちらも呼んでください。拙文「審査員を考えた」


  5. 総務相統計局 令和6年、7年経済センサス‐基礎調査 調査の結果
    令和6年経済センサス‐基礎調査(民営事業所)確報集計結果


  6. ノンジャブとはnon-JAB、要するにJAB(日本適合性認定協会)の認定を受けていない認証機関をいう。ノンジャブにも外国の認定機関の認定を受けているところ、どこの認定も受けていないところがある。
    国交省などの扱いは外国の認定を受けている企業は差別されないようだ。どこの認定も受けていない組織は、ISO認証と認められないのか不明である。

    一時は『安い悪い』と批判されたが、その証拠もない。私は、安い、礼儀正しい、おかしな規格解釈をしないという印象しかない。
    その後、認証機関は活動する国の認定を受けるべしとか、いろいろルールは変わったようだが、今もノンジャブは存在し、ISO surveyとJAB認定の差は日本の認証件数の4割を占める。


  7. ナポレオン 1815年のワーテルローの戦いでイギリス軍が勝ったという情報を得て、ロスチャイルド家の当主ネイサンはイギリスが負けたとデマを流して国債を売った。国債は大暴落した、そして底値になったとき買い戻した。一粒で二度おいしい。
    その後、イギリス勝利・ナポレオン敗北と伝わり大儲けしたというお話。
    実はこれ、後の世の創作だそうです。


  8. 2009年にISO/IAFが共同で作成したもの。これを否定する通知は出ていないから、今も生きているはず。
    「認定されたISO9001認証に対して期待される成果」
    「認定されたISO14001認証に対して期待される成果」





外資社員様からお便りを頂きました(26.07.13)
おばQさま 以前もコメント欄で議論した事がありますが、「共通の言葉や定義で話せる」という点だけな気がします。
海外を含めて、業務委託先で品質に関する用語や定義が異なると、お互いに誤解が生じます。
だからISOで定められた用語については、共通認識が持てる点は、特に海外メーカーの場合には重要と思います。

とは言え、第三者認証による担保が必要かと言えば、Noですね。
おばQさまがご指摘になる審査員から「トンデモ解釈」が出る時点で、日本語だろうが言葉が通じない人々や認証ならば害悪でしかありません。

ちなみに、中国でのISO認証、世界の生産工場としてISO認証を取っていますが、もっと重要なのはCCC認証(China Compulsory Certification)
CCCは、日本の認証機関が夢見た「強制認証」であり、これが無い製品が中国国内での販売は禁止。
ところがCCC認証がなくても、海外輸出は出来る。 つまり海外への輸出品よりも、国内の安全基準の方が厳しい。
良く判る例が「モバイルバッテリー」 中国国内ではCCC認証の無いモバイルバッテリーは、航空機への持ち込み禁止。
日本では強制法規が無いから、未だに発火事故が起きております。 つまり国内の安全基準に満たないものを、安い製品として海外で販売する事は可能という事です。

外資社員さま~、
実を言ってこの物語の時代(私の現役時代)、中国でのISOの審査は〇〇でした。まあコネと〇〇で(以下略)
ということを書こうかと思ったのですが、刺客が差し向けられると困るので5行ほど書き直したのです。
少々きれいな事を書いておけば何か良いことがあるかなと・・・





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