序論・随想  らくな泳ぎの基本  らくな4泳法  楽しい泳法  泳ぎの理論  身体に故障がある時

1 概論


身体に故障がある時には、運動は控えるというのは普通であるが、いつまでもというわけにもいかない。使える筋力も弱ってしまうし、使いながら治すほうが良い場合もある。

その点、水泳は、とても、良い運動だと思う。もちろんプールでの安全な場所でに限った話である。

水泳は、関節に過度の負担を与えることもないし、水の抵抗以上に力を使うこともなく、使える筋力の範囲のみでの運動になるからだ。

特に、足が不自由という場合は、水に入ってしまえば、何の問題もない。キックなしでも、問題なく泳げるからだ。私は、キックなしの、らくらくクロールで、何キロも泳ぐ。

では、腕の場合はどうであろうか。

私自身、つい不用意に、腕に力を入れて泳いだりすると、肩が痛くなることがある。そんなときは、その腕に負担をかけないで泳ぐように工夫をする。

普通は、その腕の力を完全に抜いて身体にまつわりつくようにプルすれば問題ないが、今回は、何らかの都合で完全に片腕が使えない場合、あるいは、半身が使えない場合の泳ぎ方について書いてみたい。

このときは、使えない腕を、前方に伸ばせるか、伸ばせないか、足も動かないかということで、泳ぎが異なってくる場合がある。

なお、このページを読む方は、できれば、最初に、このサイトの「序論」や「らくな泳ぎの基本」等に目を通していただきたい。その方が、理解しやすいと思う。


1.1 らくらくクロールでの片腕泳法


通常のクロールでも、らくらくクロールでも、一方の手だけでクロールをすることは可能であり、そうした練習方法もある。しかし、2ビートに合わせて、2回片手でプルを続けるのも結構しんどいものだ。また、プルを一回休むようにすると、バランスをとりにくい。

ここでは、このサイトで紹介してきた「らくらくクロール」で、比較的ラクに泳げる方法を紹介したい。

それは、らくらくクロールをやぎロールで泳ぐことを想定し、その片側を連続して泳ぐ方法だ。

もちろん、プルする腕が片側だけになるので、その腕が両腕でプルするのに比べて疲れるのはしかたがないことだが、ゆっくり泳げばよいのだ。息継ぎにもゆっくりが良い。決して、あわてないこと。あわてると苦しくなる。

特に、浮き、沈みを充分活用することだ。逆説的だが、沈まなければ、浮かない。

つまり、クロールでは、2回プルする間に、一回目は意識的に沈みこむようにし、2回目に肺の浮力で浮き上がってくる勢いで、ラクに顔を出して息継ぎをするのだ。

これを容易にするために、そして、安定した体勢を保つためには、殆ど横を向くほうが良い。何しろ、ロールをしない「やぎロール」にすることになるから、90度ローリングしたまま、つまり、真横を向いたままにするのだ。

下方に伏せると、片腕のプルでは姿勢の制御が難しい。それゆえ、真横、あるいは、少し天井に向くくらいが良い。使わない腕は、前方に伸ばしても、後方にあっても良いが、後方の場合は、できれば、身体にぴったり付けるほうが良い。前方にあれば、重心を前にもっていくことができるが、後方であれば、下肢が浮きにくくなる。しかし、浮き沈みを利用すれば、下肢の浮きかたは、さほど問題にならなくなる。

特に、キックは、ドルフィンにしてしまった方が良い。身体の制御は、左右の足の力加減で調節する。また、片腕だけでなく、同じ側の足が使えない場合、つまり、半身が動きにくいという場合も、上側の足をキックするだけで問題なく泳げる。

さらに加えれば、身体のうねりを利用することだ。しかし、これについての詳細は、「2 片腕バタフライ」として、別に立てたので、そちらを参照されたい。


1.2 らくらく背泳ぎでの片腕泳法


2ビートのらくらく背泳ぎで、動かない片腕を前方に伸ばしたまま行うことができる場合は、そのほうが望ましい。しかし、おそらく、動かない腕ならば、それを前方に伸ばすこと自体難しいであろうし、また、私のように肩関節の可動域が狭い者にとっては、腕は後方に下ろしてしまったほうが簡単だ。できれば、抵抗を少なくするために、体側に付けておきたい。

基本的に、片手でも、2ビートらくらく背泳ぎで泳ぐのに何の支障もない。ただし、動かない側へのローリングが小さく、下肢が沈みがちになるから、若干、キックを大きくし、プルの最後の押さえをちゃんと行うようにして欲しい。つまり、腕相撲のようにプルの腕を腰まで倒した後、大腿の横でプールの底めがけて軽く押さえる、または、スナップするのだ。そうすると、動かないほうにも確実にローリングするので、腕のリカバリーが落ち着いてできるようになる。

もし、2ビートらくらく背泳ぎでは苦しいという人は、記事「24.2ビートのらくらく背泳ぎもっとラクにする煽り足」で紹介した「煽り足」を使うと楽である。ただし、煽るように足の動きを大きくすると、返すローリングをしっかり行う必要が増すので、手のスナップが重要になる。この場合、煽り足は、片側だけ一回で1ストロークである。

また、もっと楽にする方法もある。

それは、煽り足でプルし、リカバリーするときに、かえる足を挟むことだ。


(半身でのらくらく背泳ぎ)

また、片腕だけでなく、同じ側の足が使えない場合は、片足キックとなるので、これは、ちょっと注意が必要だ。

普通、プルとキックは対角で行うが、この場合は、半身が動かない想定なので、プルの足と同じ側を蹴ることになる。そして、この体勢でローリングしなければならない。

そうするためには、キックの方向は内股より、真っ直ぐに打つほうがよいかもしれない。その方向は個人の状況に鑑みていろいろ試して欲しい。手首のスナップは意識して行うこと。

こうすることによって、片側の手足で、らくらく背泳ぎが安定して泳げるだろう。なにごとも、あわてないでゆっくりやること。

また、慣れれば、キックなしでも、片腕だけで泳ぐこともできるようになる。


1.3 らくらく平泳ぎでの片腕泳法


らくらく平泳ぎで片手を使って泳ぐ場合、左右のバランスを保つことに留意すればよい。

まず、動かない片腕のほうであるが、これは、肘を曲げて手の平を水面と平行にし、顔の前方に保つか、前方に伸ばす。しかし、前方に伸ばしにくい事情も多いであろうから、その場合は、体側に付ける。要は、水流の抵抗になりにくいようにする。

さて、もう一方の動く手だけで、平泳ぎのプルをするわけであるが、体勢の左右の均衡をとるためには、普通にプルはできない。

そこで、プルの腕は、もっと真ん中に位置づける必要がある。つまり、蹴伸びで伸ばした腕の力を一旦抜いたとき、肘がゆるんで前腕が目の前に横になって近づいてくるが、その手首あたりを、顔の正面あたりに位置づける。

そして、手の平の角度を下向きに傾けてプルを行う。つまり、顔や上体を上げやすくするために、下になでるように水を押し付ける(揚力を利用する)のである。プルは、基本的に肩甲骨を下げるように、広背筋等を使う。両腕の時よりは、少し大きくプルすることになるだろうから、胸を通過したら、蹴りと共に、片手で拝ぐようにし、前方に突いて伸ばす。

あるいは、掻き方は上記のやり方でなく、もっと水中深く弧を描いても良い。これは、いろいろ試して、自分に合った掻き方を探せばよいだろう。

また、片腕だけでなく、同じ側の足が使えない場合は、少し厳しい。つまり、この平泳ぎは、推力をかえる足によって得ており、片手では、上体を息継ぎのために持ち上げるくらいのものだからである。

したがって、片足のかえる足でも訓練すれば泳げるが、そこまで無理しなくても、「片腕バタフライ」や「らくらく背泳ぎ」で泳いだほうが良いと思われる。

なお、前方に伸ばす手は、伸ばしきった瞬間は、手の平を水底に向け、手の甲で水を上に押すと良い。これは、下肢を浮かすと同時に、キャッチとしてプルしやすくなる。




2 片腕バタフライ


バタフライには、片手バタフライという練習がある。この練習方法は、「楽しい泳法」の準備練習の中で説明したので、これを参照していただきたい。

片手バタフライでは、バタフライのための練習なので、使用しない片手を前方に伸ばしきるのであるが、腕が動かないことを前提とすれば、体側に付けることになる。だから、ここで紹介したいのは、「片腕」バタフライだ。

こうなると、もはや、片手バタフライとは異なる。そもそも、バタフライは左右対称でなければならないので、バタフライという言葉を使うこと自体間違いではある。しかし、ここでは、4泳法の代替という意味合いで書いているので、これから説明する泳ぎ方を、とりあえず、「片腕バタフライ」と呼んでおこう。

片手バタフライをするとき、その片手を単に体側につけただけでも充分泳げるのだが、推奨したいのは、身体の姿勢を真横にすることだ。

すなわち、動く腕を上にして、真横にコースロープの方に向く。使用しない腕は、下肢の方向に添わすことになるが、できれば、胴にぴたりとつける方が抵抗が少なくて良い。(片手バタフライができる方は、何の問題もないので、伏せて泳ぐも、横を向いて泳ぐのも、片手を前方に伸ばすも、体側につけるのもいかようにでもできるだろう。)

なお、どちらかの半身の動きが悪い場合も、基本的に問題なく、以下の泳ぎ方が可能である。さらに、下肢が動かないという場合でも、片腕だけでも泳ぐことは可能だ。


2.1 基本的な姿勢と動き


横向きに、コースロープに対面するような姿勢をとる。

動きは、真横を向いて、片手バタフライをする感覚でうねる。

前進するにつれ、沈み込みによる体幹での推進力を利用し、浮上するときにラクに息継ぎを行う。


2.2 プル


身体は横を向けたままで、バタフライのようにうねる。すなわち、前方に腕を突きこむときには、顔をうつむき加減に背中の力を緩めて丸め、突き込み終わる瞬間に胸を張る。突きこむ方向は深みに向けたほうがよい。胸を沈め込むのだ。そうすると浮力が増し、反動で浮き上がってくるので、これに合わせて、身体に巻きつけるように円月泳法のプルを行って、口を水面上に出す。これは、前に出すのではなく、真横あるいは少し顎を引いてクロールと同じように息継ぎをする。やりにくかったら、自由に吸えるまで真上に向いて行ってもかまわない。

腕を抜き切ったら、上体の力を抜きつつ、腕を水上で前方に回して、最初に戻り、イルカが呼吸を追えて前方に沈み込むことを連想しながら、上体を前方に沈み込ませつつ腕を突きこむ。

身体は真横に向けるが、意識的には少し上を向く感じのほうが沈みやすいかもしれない。これは個人の身体の特性によるので、角度は調整していただきたい。


2.3 体幹の「うねり」と浮き沈み


からだのうねりは、胸と腕の動きにつれて、身体全体が下肢まで自然に波打つはずだ。バタフライと同じである。意識するならば、腕の突き込みにあわせた第1キック、プルに合わせた第2キックである。キックはドルフィンになるが、半身が動き肉場合は、片足だけのキックとなるが、問題はない。

うなぎのような身体のしなりがあれば、すいすい行くが、なかなかそうは行かない場合もあるだろう。腕だけではきついが、身体が動きにくいほど、浮き沈みに注力して欲しい。

最初から、ある程度、泳速が出ればいうことがないが、息継ぎで疲れるという方も、沈み込みに注力して欲しい。沈めばその分勢い良く浮き上がれる。

うまく水に乗れば、充分泳いでいるという感じを持つはずだ。

前進している感じをしっかりもって、ラクであれば速度などはどうでもよいが、ちなみに、私の場合、ゆっくり泳いで、25mを10ストロークで35秒ほどで泳いでいる。



3 片腕伸し(のし、横泳ぎ)


この泳ぎは、「やぎさんの伸し」の変化だ。

この記事は、片腕シリーズに属するので、一応別記事としておく。

「やぎさんの伸し」については、前記事として書いたが、再掲しておく。(読んだ方は読み飛ばしていただきたい。)

その上で、片腕だけの泳ぎに移ることにする。その方が、説明をしやすいからである。


3.1 やぎさんの伸し


これは、古式泳法の「伸し(ノシ)」の変化である。横になって泳ぐもので、その一形態が横泳ぎと呼ばれている。

さて、便宜上、左のコースロープを見ながら泳いでいるところを想定しよう。横になっているので、この場合、水面に近くあるのは、左手及び左足のほうである。


(1) 下肢の動作(煽り足)

「煽り足」は横泳ぎでおなじみとは思うが、古式泳法の「伸し(ノシと読む)」や「抜き手」などで多用されている。既に、記事「20. 古式泳法とのコラボ泳法 煽りやぎロール」で紹介したが、再掲しよう。煽り足は、次のように3拍子で行う。

  • 煽り足

  • (イ)両足の膝を曲げて、尻に引きつけ、

    (ロ)前後(上の足が前)に大きく開脚して、

    (ハ)伸ばしながら、閉じる。


    脚が、かえる足のように横に開かないように注意すること。そのためには、内股気味にすると良い。

    (イ)(ロ)では、水流の抵抗を受けるが、(ハ)では、大きく進む。


    (2) 手足の動きと連携

    煽り足を理解したら、やぎさんの伸しに移ろう。

    横になって蹴伸びしたら、両手を拝むように合わせ、前方(泳ぐ方向)に両手を伸ばす。


    (ア)上の手(左手)で身体に沿って巻きつけるように肩甲骨を動かして腿までプルを行う。顔が浮きやすいので、息継ぎは、この時に行うのが簡単であろう。すーっと前進したところで、次に、

    (イ)右腕で真下に向かって深く半円形にプルし、その間に、左腕を水上でリカバリーして前方に落とす。次に、

    (ウ)両足首を尻に引きつけ、左足を前にして両足を前後に膝は曲げたまま開き、大きく閉じる。煽り足だ。この動きに合わせて、右腕を腹の方に片手拝みに引きつけて、煽り足と合わせて前方に突き出し、両手を合わせる。


    この一連の動作を繰り返す。ゆっくりした三拍子だ。

    プルのときは、顔がほぼ水面に出ているが、煽り足で勢いよく進むときには、身体全体が水中に没して沈みこむ方が泳速はあがると思われる。また、次のプルの時に行う息継ぎで浮上しやすくなる。

    ただし、横に向いて水中に没している間は、鼻に水が入ってくるので、常時、鼻から息を少しずつ吐いている必要があるだろう。

    横泳ぎの系統は、結構、泳速が速く、25mを煽り足は8回程度、30〜35秒程度で泳いでいる。


    3.2 片腕伸し


    これは極めて簡単である。上記した「3.1 やぎさんの伸し」を基本とし、両腕のいずれかの腕を体側につけて泳ぐだけである。

    左を向いて泳いでいることを想定すれば、左腕だけを使う場合と右腕だけをつかう場合があるが、どちらの場合でも、息継ぎは、プルのときに行う。

    片腕となるので、三拍子が二拍子となるだけで、他はやぎさんの伸しと変わらない。

    ただ、何にせよ、煽り足は、左右の幅をとるため、対抗泳者に気を使う必要がある。また、横を向いているため、後ろやコースロープに十分気が回らないこともある。それゆえ、コースを専有できないときには、片腕バタフライを奨める。片腕バタフライも横を向いてはいるが、幅は殆どとらないし、バランスの調節もしやすいからである。





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