序論・随想  らくな泳ぎの基本  らくな4泳法  楽しい泳法  泳ぎの理論  身体に故障がある時

はじめに


ジムのプールに行くと、毎日多くの人が泳いでいる。しかし、ほとんどの人は、既存の4泳法(クロールを1泳法とした場合)に従って泳いでいる。私もそうであった。

しかし、序論等で書いたとおり、いわゆる、競泳スタイルで泳ぐことから外れて、4泳法について、自分に合った、らくな泳ぎを研究しているうちに、もっと、自由な、楽しい泳ぎ方ができることがわかってきた。それらは、もはや、4泳法の範疇ではなく、まったく、異なるオリジナル泳法というか自己流としか表現できないものである。

さかなのように、イルカのように、自由に、楽しく泳ぎたい!

自分ひとりで楽しんでいても良いのではあるが、何とも楽しいので、道連れも欲しくなったところである。もし、これに興味を持つ方がおられたら、喜ばしいことである。



1 準備練習


バタフライの練習としても有用とは思うが、とりあえず、これから紹介する「楽な泳法」、ラクで自由な泳ぎを楽しむ泳法の練習としてとても有用なので最初に紹介する。なぜかというと、バタフライの体幹の動きというものは、うねりの基本であり、体幹で泳ぐための重要な動きとして重要だからである。

この練習法は、一般に行われているものであり、説明に違いはあっても、私のオリジナルというわけではない。


1.1 片手バタフライ


  • 筆者の片手バタフライ
  • 片手バタフライは、ご存知かもしれないが、片手を前方に伸ばしたまま、もう一方だけでストロークを行うというものだ。

    とりあえず、経験したことのない方のために、動きを説明しておこう。片手だけでバタフライするだけのことである。

    まず、蹴伸びをして、右手は前方に伸ばしたまま、左手で一回掻いて、


    (1) リカバリーした右手を前方に突きこんでから身体を目一杯伸ばしつつ胸を張ってグライド(滑るように前進)する。アウトスカルを行う場合は、両手で行ったほうがバランスが良いであろう。

    (2) 次に、左手をゆるめて(あるいはインスカルを行う)広背筋や大胸筋を使ってプルし、横に払ってリカバリーを行う。これは、再度(1)の前方に突き込む動作であり、これは、大きな2拍子で行う。

    (3) 下肢は、自然についてくるままでよいのだが、あえて意識するならば、適宜、突き込む時とプルの時の2回、ドルフィンをしなやかに叩く。

    (4) 息継ぎは、横で行う。従って、上体が余り上がらなくても息継ぎができ、腕の突き込みを円滑に行うことができるという利点がある。


    これが片手バタフライだ。

    これを、上手に行うには、腕の前方への突き込みのときに胸を充分に沈めてから胸を張ることだ。そうしないと、うねりができず、前に滑るように進まない。

    つぎに、これを、左右交互で行って両側でできるようにして欲しい。なお、息継ぎは、プルの時点で最速になったときに顔を横に向けて行う。

    意識して

    なお、両手で行うバタフライと片手バタフライを交互に行うと、胸を沈めるバタフライの練習としてとても良い。ぜひ、やってみて欲しい。


    1.2 斜めバタフライ


    さて、これまでバタフライのうねりの動きを伏せの姿勢で行ってきたが、今度は、だんだん横を向いて行うことにしよう。もちろん、これは、私のオリジナルではないが、楽しい泳法には、とても重要な要素となるのだ。バタフライの練習で用いられている横向きバタフライというものがあるが、これは、真横を向いて行うものである。

    それでは、、最初は、片手バタフライの姿勢から、徐々に身体を傾けて、最終的に真横を向くようにしてみよう。

    真横まで向くと、身体のうねりは、水平方向になるので、上下に沈む動きはなくなる。

    横を向いて、下側の腕を前方に伸ばしたまま、水上に出る腕でプルを行って、上体のうねりで体全体を牽引する。ドルフィンキックは、なるべく自然が良い。行き帰りなどで、左右、両方できるようにしよう。

    最後に、一連の角度でできるようになったら。今度は、集中的に、斜め45度くらいの角度で練習しよう。斜め方向に浮き沈みをすることの集中練習だ。沈み込んだ状態から、一旦力を抜いて背が丸めがちにプルを行い、胸を張りながら浮き上がってきて息継ぎをしたら、次に、再び背を丸めがちに腕を前方に突きこんで沈み込んでいく。こうした動きを充分に、斜め方向に行うのだ。

    次に、この泳ぎでのプルを、バタフライのプルから、どんどん内側にも回すようにしてみよう。アウトスカルはもう行わない。このプルは、円月泳法で使ったプルだは。そのほうが、楽だし、浮き沈みの制御が簡単だからである。

    キックは、プルをする時と、腕を前方に突き込む時に、自然に打たれる。ただ、膝を柔らかくしておけば良い。

    映像は、横向きバタフライについてはネットで見ることができるので、それを参考にしていただいて、ここでの動画は省略させていただく。


    1.3 片手半バタフライ


  • 片手半バタフライ
  • さて、それでは、ここから変化させて、だんだん既存の泳ぎから外れていこう。

    名称にバタフライという言葉を入れたが、このオリジナル泳法は、バタフライとは異なる。バタフライの動きから派生したものゆえに、そう名づけただけである。

    バタフライは左右線対称の泳ぎと定めてあるのに対し、この泳ぎは、左右均等に身体は動かすものの、線対称にはならない。腕は片腕ずつ別の動きをするものだ。バタフライの練習としても有用と思うが、とりあえず、ラクで自由な泳ぎを楽しむ泳法のひとつとして紹介する。さらに、これから紹介していく他のオリジナル泳法の基本となるものなので、ぜひ習熟していただきたい。

    なぜ基本かというと、バタフライの体幹の動きというものは、うねりの基本であり、体幹で泳ぐための動きとして重要だからである。

    とはいえ、バタフライより、よほどラクで、かつ、バタフライのうねりをもっと簡単に実現できる。スピードはバタフライと同等か、より速いかもしれない。

    おそらく、バタフライが苦手という人には、りつきやすいだろうと思うし、バタフライのうねりを練習するためにもためになるだろう。

    さて、泳ぎの説明に入る。まずは、説明の便宜上、また、練習の段階として、先に説明した片手バタフライから入ろう。まだの方は、先に読んでおいて欲しい。


    それでは、片手バタフライから変化させていこう。どのようにかというと、腕を前方に突きこんだ時に、もう一方の手にも仕事をさせるのである。ここからは、おそらく、私のオリジナルである。

    右手をリカバリーしつつある時から説明を始めよう。前方に伸ばしている左腕の力を緩めると、その左腕はボールを抱えたような半月形になって目の前に落ちてくるだろう。そして、リカバーした右手を前方に突きこみ体重を前方にかけていく時に、つまり、のめり込んでいく時、言いかえれば、前方に飛び込んでいく時に、半月形に緩んだ左腕をプルするのだ。右手が前に突き込まれるので、その反作用で、その左腕のプルはごく自然に行われるはずである。このとき、身体全体は、腹筋も締り軽くエビのように弧を描く。つまり、身体は、左腕のプルに加速されてイルカのように前方に飛び込むような感じになるはずである。

    飛び込んだら、グイーっと胸を張ると、肺の浮力も手伝って浮き上がってくる。要するに、左腕は、時間差で右腕を追いかけるような形なのだが、 前方からプルするのではなく、力を抜いて胸の前あたりまでは流してから、一旦止めて、前腕全体でキャッチし、円月泳法のように、腋から腹そして横へと円形に抜ききってリカバリしていく。腕を戻すのに支障があるほど身体は沈んでいないはずだ。そして、最初に戻って、次の右腕のバタフライのプルに入っていく。

    今後、この泳ぎでは、ローリングを加えていく。片手バタフライのローリングでもそうしたが、アウトスカルはもう行わない。そして、プルは円月泳法のプルになっていく。円月プルは、身体に巻き込むように力を抜いて行うものだ。そうすると、前方への沈み込みは、身体を半月形にして、斜めにのめり込んでいくようになり、時間差でプルする左の腕も腋を開けて抜きやすくなる。

    この時の左のプルは、この沈み込みを滑らかに加速する効果があるはずだ。

    要するに、右はバタフライ、左はその間に補助的に胸からのクロールをしているにすぎない。

    動画では、ローリングは小さめで、プルはアウトスカルも行っている。今後は、これを、ローリングも大きくし、アウトスカルを行わずに円月泳法のプルにし、斜め方向のうねりにしていって欲しい。


    これって、ドルクロじゃない?という人があるかもしれない。

    でも、明確に違う。ドルフィンクロールは、左右同じようにプルするのだけれど、この場合は、リズムに大小があり、片手は補助的なものだ。

    いわば、片手半、そこがドルクロと違う点だろう。

    また、クロールの練習に、キャッチアップクロールというものがある。これは、プルの前に、一旦、前方で両手を揃えるというものであるが、片手半バタフライは、バタフライのプル(ここまでの説明では右腕)を始める時には、両手が揃っているけれど、これがリカバーされてくるときには、左手は緩んで胸の前あたりにある。


    フィットネスクラブのプールでは、対抗泳者がいることが多いが、そんなときにバタフライはできない。私は、対抗泳者がいるときに、しばしば、これをバタフライに代えて泳いでいる。


    1.4 時間差バタフライ


    さて、これまで右側をバタフライの動きで行ってきたが、今度は、左側でもやろう。片手半バタフライをを交互に行う。これを、時間差バタフライと名づけておこう。

  • 時間差バタフライ
  • 上の続きで左のクロールのリカバリが終わったら、今度は左でバタフライする番である。左腕のバタフライのプルが終わってリカバリしてくるときに、今度は右腕を緩め、そして左腕を前方水面に突き込むときに、右腕も同時に円月形にプルしてリカバリーを行う。

    そして今度はまた右側の番だ。戻した右腕を続けてプルする。

    こうして、交互に続けるのだ。

    この動画でも、ローリングは小さめで、プルはアウトスカルも行っている。今後は、これを、ローリングも大きくし、アウトスカルを行わずに円月泳法のプルにし、斜め方向のうねりにしていって欲しい。

    これを外から見ると、片側を2回ずつストロークをしているように見える。息継ぎは2回目のストロークの時だ。2回目のストロークで、身体が水面に大きく現れ、その勢いでズーンと前方に沈みこんでいく。そんな流れであるが、見方によっては、ドルフィンクロールで片側2回ずつ掻いているように見えるかもしれない。しかし、リズムが違う。

    要するに、バタフライをしようとしているのだが、片手が一拍遅れ、補助的なストロークになっていること、息継ぎが横で左右交互で行うので、ストロークが時間差で出ているバタフライみたいに見える。それで命名した時間差バタフライだ。

    とりあえず、身体の動きのリズムと腕の動きのパターンはこれが基本である。

    私は、ここから、この泳ぎを、もっと楽しく、ラクにしていくために改造していった。それが、後に紹介する「やぎロール」である。

    上の動画のように、時間差バタフライは、片手バタフライから入っているために、基本姿勢は、ほぼ、臥さった形となっている。

    時間差バタフライは、これだけでも、結構面白いし、練習にバタフライと交互に混ぜたりしているが、もっと面白いのは、これを45度以上の角度を持たせた斜めバタフライで時間差プルを行うことだ。こうすると、蛇のように、左右に蛇行して、大きく水を縫う感じがとても気持ちが良い。左右両側で息継ぎをするため、景色がめまぐるしく変わり、これまでの水泳とは、全く違った感覚だ。こうなると、後に紹介する「やぎロール」の形態のひとつとなる。


    1.5 片側イルカ泳ぎ


    さて、これからが面白くなってくる。

    横向きでのバタフライは、結構難しいかもしれない。腕の突き込みで、力強く前進するのは、うねりと重力を利用した下降する動きをうまく行う必要があるからだ。それゆえ、斜めバタフライの項での説明で、斜め方向における浮き沈みの練習を行った。

    それができるようになったら、もっとおもしろいイルカ泳ぎに移ろう。これは、斜めバタフライを上手にやるよりは、もっとやりやすいだろう。私のオリジナルだろうと思うが、イルカになる瞬間だ。

    スピードもかなり出る。25mを普通に泳げば30秒であるが、25秒を切ることもできる。

    基本姿勢は、斜めバタフライだが、これに合わせて、今度は、両腕を使って、それぞれに異なるプルを順次行うのだ。下にある腕もプルをするのだが、これをリカバーする場合、水上には出せないので、横泳ぎの下の腕のように水中でやりのように突き出してリカバリーを行うのだ。その際、何の制約もなくなるので、思い切り潜ることができる。この爽快感は何にも代えがたい。

    それでは、説明のために、右側のコースロープに向かって横になった姿勢を想定しよう。


    泳ぐリズムは、バタフライと同じである。

    両手を前方に伸ばし、右側のコースロープに対して横になろう。


  • 右側のイルカ泳ぎ
  • (1) 一旦全身の力を抜いてから、水面側に伸ばしている右手を、身体にまつわりつかせるようにプルする。円月泳法と同じプルだ。広背筋でプルする。左手は、前方に突き伸ばす。同時に第1キックが自然に入る。息継ぎは、ここで行う。身体を水上に多く出す必要はない。息継ぎは、口だけ出ればよいので、顔を真上に向けても良い。もちろん豪快にしたい場合は大きく水上に飛び出しても良いが、疲れるだろう。

    (2) プルの後半は、腕の力を抜いて腋を開けて円弧に腕を水上に抜き去り、前方にリカバリーして水中に突きこむ。その突きこむ動作と同時に、水中前方に伸ばしていた左腕を連動させて、上体を深く沈ませるように、プルする。この左腕は、軽く肘を伸ばしたままで行い、ほぼ、水面と平行くらいで良いだろう。できるだけ身体に巻き込むように、広背筋で引く。このとき、第2キックが同時に入り、前方の深みにずーんと斜めに沈んでいくようにする。プルした左手は、水中深くあるので、次の動作で前方に伸ばすために、腹から胸に水流を避けて這わせて、左耳の横辺りに位置づける。上体が浮上し始めるので、前方水面に向かう動きを助けるように、右手のプルと左手の前方への突き出しを行う瞬間を待つ。

  • 左側のイルカ泳ぎ

  • この(1)(2)の動作を1パターンとして、これを連続して行う。

    馴れたら、左向きでも、これを連続して行う。


    (全体の連携と浮沈)

    他の泳ぎになぞらえて言うならば、両手は伸しや横泳ぎと似た動作を行いつつ、体幹と下肢はバタフライのような動きで泳ぐのである。

    このサイトでは、息継ぎの前の動作では、意識的に潜るように推奨している。潜ると、推進力が増すだけでなく、次の動作で浮かびやすくなり息継ぎが楽になるからである。さらに、動作にメリハリがつくので、イルカになったような気分で楽しく、また、飽きない。

    このイルカ泳ぎでも、同様だ。息継ぎをし、水上でリカバリーした腕を突きこんでいくとき、思い切って、水圧を感じるまで、ズーンと沈み込んで欲しい。その浮き沈みの爽快さは格別だ。プルは、浮き沈みを助けるように体幹で動かすだけなので、力を要するものではない。プルは、少し上向き気味に使った方が、身体を沈めやすいかもしれない。

    なお、この泳ぎは、潜水にも使えるので、元気な方は、息継ぎなしで試してみられたらどうか。


    さて、左右のイルカ泳ぎに移る前に、次に、やぎロールを練習しよう。なぜなら、やぎロールは、イルカ泳ぎの動きの部分にもなるからだ。



    2 やぎロール


    これまで、私は、4泳法を研究する過程で、バタフライとクロールの折衷に近い、オリジナル泳法をやるようになった。これは、力もいらず、呼吸もラクで、楽しく泳げて、そこそこ速いというものだ。しかも、姿勢に何らの制約もない。

    「やぎロール」と呼んでいる。

    やぎロールは、水と遊んでいる感覚で、自由にリラックスして水の中を進んでいく泳ぎだ。こうでなくてはならないというルールや制約はない。私自身、いろいろな変化をつけながら自由気ままに泳いでいる。

    実のところ、私は、このやぎロールを、自由な泳ぎの部品として使っている。ちなみに、後に紹介する「イルカ泳ぎ」でも、これまで説明した「片側イルカ泳ぎ」とやぎロールを組み合わせて使っている。

    泳ぐ速度は、25mを30秒程度である。ストローク数は、すべてが同じ形というわけではないが、13ストローク前後である。速く泳げば25秒程度だ。というわけで、私にとってはクロールとあまり変わらない速度だが、クロールは、あたかもせっせと仕事をしているような印象があるのに比較して、これは遊んでいる感じで、なんといっても楽しい。

    前置きはこれくらいにして、泳ぎ方の紹介に入ろう。

    時間差バタフライの泳ぎが、「やぎロール」の動きの基礎となる。


    2.1 やぎロールの定義


    やぎロールの定義を試みてみると、次のようになるだろうか。


    a. 片側の腕のプルを2回ずつ行う。

    b. 最初のプルは、胸を通過してから身体に巻きつけるように行うプルで、これは沈み込む方向で行う。そして、このプルと同期してローリングを行う。

    c. 2番目のプルは、ローリングした側で、もう一度身体を浮き上がらせる方向で行うプルであり、この時、横で息継ぎを行う。

    d. プルの度に、必要に応じてキックを打つ。キックの打ち方は、ドルフィンでも、片足でも状況に応じて打つが、ローリングの補助には、下側のほうの足を強く打つのが基本である。


    時間差バタフライは、ローリングが少なく、ドルフィンキックだけになるが、この原則に則っているはずだ。

    さて、ここからやぎロールの面白さが始まる。

    時間差バタフライだけでも結構面白いが、私は、ここから、この泳ぎを、もっと楽しく、ラクにしていくために改造していった。


    2.2 やぎロールの真髄


    (1) 一連の動作 : 90度のローリング

    私のクロールのローリングの角度は、45度かそれ以上であろう。

    やぎロールでは、思い切り回る。その方が楽しく、息継ぎなどもラクになるのだ。

    時間差バタフライで、片手(右手にしよう)を突き込む時に、思い切り体重をかけ、スプーンがプディングをえぐるように水中に右腕を突きこんでいくと自然に右にローリングをするだろう。これに加えて、左腕のプルで追い打ちをかけると、面白いように回る。同時に左足を強めにしたキックを打てば完璧だ。バタフライでしたようなアウトスカルは、ここではしない。ほぼ円月泳法のプルと同じだ。

    この左腕のプルは、急速なローリングの結果、身体にまつわりつくようなプルとなる。これは、事実上、力をあまり使わない。もちろん、肩甲骨で回す。あたかも、身体に軸の長いスクリューが付属しているような感覚である。

  • やぎロール
  • この動作に連動するキックであるが、片手バタフライの練習ではドルフィンキックをしていたものを、ここでは、左に力を入れたキックを打とう。そうするとローリングはもっと加速される。この運動は急速に前方にのめり、水を巻き込んで沈んでいく感覚を伴うものであるが、身体はくるりんと回って真横まで向く。ここではもう身体はリラックスして自然体に近く、首も動かさないので頭も正面(つまり横)を向いて周りを眺めながら休んでいる。これは長いスライドとなる。滑る感じをもっと追求するならば、前後を引っ張って胸を若干張るのがよかろう。

    息継ぎしたばかりの肺は大きく膨らんでいるので、上体の方が次第に浮いてくる。左腕はリカバリーをしてから、今度は左の大きなプルに入る。これは、これまでバタフライのプルとして説明してきたが、それはもう忘れて欲しい。身体がほぼ横になっているのにバタフライのストロークはもうありえない。リカバリーした左腕は水中に入った時から、必然的に円月泳法の弧を描いているはずだ。

    この泳ぎの導入として、時間差バタフライの説明から入って来たのは、バタフライの体幹のうねりを導入したかったからだ。バタフライは上下にうねるが、やぎロールでこれを最大限楽しく活かすときは、斜めあるいは横方向に、自在にうねるのだ。そのほうが、格段におもしろい。プル時は常に一旦ゆるめてから背を丸めがちに腹筋を締めてプルするが、スライドするときに、大きく身体を弧状に反らせて左右に、大きく蛇行して泳ぐ。いままでにない感覚だ。ぜひ、対抗泳者のいないときに、試してみて欲しい。

  • やぎロール(うねり無し)
  • しかし、そんなことは、人それぞれの好みであるし、単にスピードを得たい場合には、うねらなくても良い。右の動画では、ほとんどうねっていない。

    この腕が行うプルは、まさしくクロールで説明済みの円月泳法の円弧である。つまり、右腕の内側をなぞり、右胸、臍をなぞって左横に払われて元に戻るあの動きである。この動きは、身体にまつわるような軽い内旋の動きで、肩甲骨を広背筋で動かすラクな動きである。これにより、鯨が息継ぎをするように頭から身体が斜めに水上にせりあがってくるはずだ。

    この時にも、ひとつ自然にキックが入るが、これはドルフィンで身体を水上に放り上げるようにしても良いし、片足でもバタでも好みでよく、姿勢の制御に必要なものを選んでいただければよいと思う。

    このプルの時点で呼吸をする。体全体が横を向いているので顔を動かさなくても水面近くで十分吸気できると思うが、もっとゆっくり息をしたい人は、顔を天井に向ければ良い。上体の水上に出ている部分が多ければ、無理なく肺の空気を全部入れ換えることもできる。息継ぎは、左右で行う均等な動きなので、その間隔も適度なリズムでとることができる。

    リカバリーを終えた左腕は、最初に右でやったように、今度は左腕に体重をのせて前方にスプーンでえぐるように突きこんでいく。そして、その

    直前で緩めた右腕を、身体に纏わりつかせるように回してプルし、円弧を描いてリカバリーしていく。

    ここまでが一連の動きで、最初に戻り、右腕から水中に飛び込んでいくという流れである。


    (2) 省エネ、らくらく泳法

    最初は、リズム感覚を捉えたいために、ほぼ臥さった形の時間差バタフライから説明に入ったが、おわかりのように、プルの形は円月泳法のプルに近く、もっと、身体に纏わりついたスクリューの羽のようなものになっている。これは、ゆっくりと広背筋を使うラクな動作で、省エネの動きである。

    やぎロールの推進力は、軸の長いスクリューが浮き沈みしながら行うローリングによって賄われるようなものである。それゆえ、泳速は結構速く、力を抜いてだれっと泳いでも25mを35秒くらいで進む。

    やぎロールは、らくらくクロールのどの泳ぎにでも適応できる。

    特に、鉤腕泳法を変化させて、やぎロールにすると非常にラクで、泳いでる間に眠ってしまいそうな感じさえある。この泳ぎは、身体が丸太のように一直線を保ち、180度反転するローリングである。それゆえ、ストロークの間隔は自由自在にとることができ、泳速を速くも遅くもコントロールできる。速く泳げば、25mで25秒は楽に切れるし、ゆっくり泳げば、ストロークの数も9ストロークぐらいまでは減らすことができる。一度泳いだら、きっと、やみつきになることだろう。


    (3) 制約なしの自由な泳ぎ

    ここまでで、やぎロールの一応のパターンはお示ししたが、こうでなければならないというものは、本当に何にもない。

    キックの方法も、全く意識せずに泳いでも自然としなるし、ドルフィン、片足、バタ足、あおり足等、姿勢によって様々に変えても良い。左右の腕の使い方、リカバリーの方法も自由に変化させても良いし、2ストロークのドルクロや普通のドルクロへの移行、完全に背面にローリングするなど、どのようにしても良い。十分に変化を楽しんで遊んでいただければ良いと思う。

    やぎロールでは、呼吸は自由にしても泳ぎに大きな影響は与えないが、吐くタイミングは、浮力を活用するためには、大きく息を吸ったあと水面近く浮き上がってくる時までは吐くのを待ったほうが良い。

    姿勢や、力の入れどころは、リズムはバタフライが基本と説明したことに尽きてはいるが、やぎロールの面白さは、水に親しみ、ラクに、楽しく泳げることにあると考えている。

    もし、泳速をこれに求めるならば、ロールの回転角は少なくし、上下動も少なくしたほうが速くなるだろうが、速力を上げれば、その分、力も要する。

    ともあれ、私は、この泳ぎ方に様々な可能性を見ているし、いろいろな好みに合致した泳ぎを満足させられるものだと考えている。老いも若きも多くの方々に楽しんでいただければ、それだけで幸いである。



    3 イルカ泳ぎ


    ここまで来れば、もう、イルカになってしまおう。イルカ泳ぎである。

    この泳法は、古式泳法とバタフライのコラボレーションとでもいおうか。古式泳法に「片抜き手」という泳ぎがあるが、横を向いているために、下の腕のリカバリーを水中で前方に伸ばす動きがある。イルカ泳ぎは、この動きをやぎロールの中に取り入れたものであるが、豪快にイルカが水上に息継ぎに出てくるような印象があり、浮き沈みを楽しみながら泳ぐものである。

    ぜひ、イルカになったつもりで楽しんで欲しい。しかし、言葉では、とても説明が難しい。

    古式泳法の「片抜き手」では煽り足を使うが、イルカ泳ぎではドルフィンキックを使い、バタフライのうねりで横になって泳ぐ。そして、両手は、片抜き手の動きを浮き沈みを使って、大きく行う。上の手は水上でリカバリーする。

    ドルフィンキックのタイミングは、バタフライと同じく、左右それぞれのプルを1サイクルとしてキックは2回である。

    しかし、あまりドルフィンキックとは言いたくはない。バタフライもそうだが、キックを打つ意識はあまりないのだ。上体のうねりを使って身体全体をイルカのようにしならせるだけだ。鞭のように、尻尾まで、いや、足先まで到達した、しなやかなうねりがドルフィンキックとなるという感覚だ。

  • 左側だけのイルカ泳ぎ
  • まずは、準備練習1.5として紹介した「片側イルカ泳ぎ」を練習してみて欲しい。

    片側イルカ泳ぎでは、ほぼ片側で泳ぐ。身体全体のうねりを最大限発揮しやすいと思うからだ。もし、左腕のプルも巻きつけるように引くと、身体は自然とローリングする。それでも良いと思う。自分の好きな角度で、効果的にうねることができればそれで良い。

    実は、この横泳ぎイルカ泳ぎだけでも充分だと思う。行きに右側、帰りに左側などと行ったり来たりで方向を変えれば、バランスも取れる。

    しかし、もし、ローリングを強くして下に向くと、元に戻しにくくなり、プルした手を、逆側(左)の水面に抜いてリカバリーしたくなるだろう。そして、もっと頻繁に、動きを左右に変えたいと。そうすると、次の段階に進むことになる。左右交互にバランス良く泳ぐ方法だ。


    (イルカ泳ぎ=左右交互の片側イルカ泳ぎ)

  • イルカ泳ぎ
  • 一連の動きを、次に示す。前項の片側イルカの説明の(2)の動きから始めよう。

    (1)右向きで、右手を前方に沈めつつ、左腕をプルして、前方に沈み込む。

    (2)左手を身体に沿わせて顎まで戻してから前方に突き出しつつ、前方に伸ばしていた右腕を身体に沿わせながらプルし、浮上しながら息継ぎをする。

    (3)左腕の力を抜き、右腕を大きくリカバリしつつ前方に突き込み、同時に左腕を腹の方に巻き込みながらプルする。身体は大きく沈み込みながら左コースロープの方にローリングする。

    (4)左を向いたら、左腕を水面上に腋を開けて抜いてから、前方にリカバリーしてくる。

    (5)今度は(1)~(4)の動作を左右逆に行う。


  • やぎイルカ泳ぎ
  • こうして左右のバランスのとれたイルカ泳ぎが継続できることになる。

    ただ、このパターンで泳ぐと、3ストロークに1回の息継ぎということになる。これでは、息が、ちょっと続かないという方には、右の動画のように、一度、やぎロールで左右変換してからすぐ連続して同じ側をプルして息継ぎをするのもよい。つまり、やぎロールに片側イルカを加えることと同じである。そうすれば、2ストローク1息継ぎで、左右均等の泳ぎができる。

    これは、一応、「やぎイルカ泳ぎ」と呼んでおこう。

    これらの動きには、いちいち紹介はしないが、いろんな変化もあるし、姿勢も一様に決まったものがあるわけではない。

    たとえば、(3)のときは下向きになって左右の変換を行うが、このとき、上向きになって、らくらく2ビート背泳ぎの形を経て左右変換を行うこともできる。

    また、(2)の動きは何回も続けて行ってもよい。つまり、姿勢が安定するまで続けたり、行きは右、帰りは左などとしてもよいだろう。

    また、やぎロール等へと移行するのも良し、上向きを取り入れたり、また、キックをいろいろ変化させて泳ぐのもよい。

    ともあれ、いろいろな泳ぎをとりまぜて自由に泳ぐと、実に、イルカになった気分で、楽しいこと、この上ない。

    なお、イルカ泳ぎでの速度は、片手バタフライより速く、時間差バタフライと同程度である。ちなみに、わたしは、25mを、6回ほど潜って浮き上がることで、30秒前後で泳いでいる。このタイムで泳ぐ場合、他のどの泳法より楽かもしれない。



    4 煽りやぎロール泳ぎ (古式泳法とのコラボ)


    この泳法では、趣向を変えて、古式泳法をとりいれてみた。

    古式泳法には、多く「煽り足」が使われている。煽りやぎロール泳ぎは、煽り足をやぎロールに取り入れたものである。

    泳速も25mを30秒程度と、そこそこである。煽り足の回数は8回ほどか。

    また、クロールの単調さに比べて、楽しいし、気持ちも良い。是非、お試し頂きたい。


    4.1 一連の動作の概要


  • 煽りやぎロール泳ぎ
  • 壁を一蹴り、まずは、蹴伸びの姿勢をとろう。

    やおら、姿勢を右に向け、右のコースロープと対面した姿勢となろう。


    (1) 右足を前にした煽り足を行いつつ、右手で円月泳法のプルを行う。息継ぎもこの時に行う。

    (2) 腋を広げて抜いた右腕を、時間差バタフライ、又は、やぎロールの要領で、勢い良く前方に突きこみながら身体を前方に沈み込ませつつ、同時に左腕で円月泳法のプルをしつつ、ドルフィンキックをひとつ入れる。

    (3) 体勢を左に向けて左腕を腋を開けてリカバリーを行い、今度は、左足を前にした煽り足を行いつつ、もうひとつ左腕で円月泳法のプルを行う。左での息継ぎを同時に行う。

    (4) 腋を広げて抜いた左腕を、時間差バタフライ、又は、やぎロールのの要領で、勢い良く前方に突きこみながら身体を前方に沈み込ませつつ、同時に右腕で円月泳法のプルをしつつ、ドルフィンキックをひとつ入れる。


    こうして、(1)〜(4)を繰り返す。


    このように、やぎロールを行いながら、息継ぎのときのドルフィンキックを煽り足に変える。

    ストロークは、左右2回ずつ連続して行うが、これは、「やぎロール」の特徴である。

    やぎロールと煽り足は、結構、相性が良い。

    もし、煽り足をご存じないという方のために、「煽り足」について、一応説明を加えておこう。


    4.2 煽り足


    「煽り足」は横泳ぎでおなじみとは思うが、古式泳法の「伸し(ノシと読む)」や「抜き手」などで多用されている。

  • 煽り足

  • (イ)両足の膝を曲げて、尻に引きつけ、

    (ロ)前後(上の足が前)に大きく開脚して、

    (ハ)伸ばしながら、閉じる。


    右の動画では、開き方が小さいが、もっと大きくて良い。脚が、平泳ぎのように横に開かないように注意すること。

    (イ)(ロ)では、水流の抵抗を受けるが、(ハ)では、大きく進む。

    この煽り足は、縦(水面に垂直方向)でも使えるが、後ろ足が水面に出てしまうので、体を斜めに立てて足を深く沈めなければならなくなる。したがっ て、伸しや横泳ぎのように、横にしたほうが、抵抗を少なくすることができる。この「煽りやぎロール泳ぎ」では、完全に横にした。


    4.3 ドルフィンキックを入れる理由


    古式泳法に「大抜き手」という泳法がある。これは、上記の煽り足とプルの組み合わせを、左右交互に行うものに似ている。

    ところが、これだけを、左右に調子よく交互に行うということは、結構難しい。煽り足を180度完全に反転させて行うということが難しいのだ。実は、大抜き手を練習しようとしていて、このラクな泳ぎを見つけたのだ。本当は、やぎロールからではなかった。

    そこで、一旦、大抜き手にドルフィンを真ん中に入れて、体勢を万全にして反転することにしたのである。これは、実に相性が良かった。これにより、忙しかった動きが、きわめてゆったりとできることになり、動きにも変化が出てくるので、泳ぎもラクに、楽しいものとなった。やぎロールからの変形でできること気づいたのは、後からであった。

    なお、煽り足は、かなり横に足が広がる。それゆえ、対抗泳者や隣のコースに気を配って泳いでいただけたら幸いである。





    5 イルカになって自由に遊ぼう!


    これまで紹介してきた泳ぎ方に制約はない。

    自由に、水の中をくぐって遊べばいいのだ。

    たとえば、煽りやぎロールにイルカを加えれば、煽りやぎイルカになる。

    また、これらの泳ぎから、途中で仰向けになって、らくらく背泳ぎの一部をいれたり、くるくる回転しながら進むのもおもしろい。

    これまで紹介してきた泳ぎ方の部品を組み合わせて泳いでみて欲しい。

    もちろん、ご自由に泳ぎ方を工夫し、編み出していただくのも良い。

    対抗泳者や隣のコースに気を配ることは前提として、 ぜひ、イルカになったつもりで、自由に水と戯れてみることをお奨めする。とても、きもちのよいものであること請け合いである。


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