Quincy Jones: "Smackwater Jack"〜私の原点です

ここのところすっかり更新が滞っていて、いつも訪問いただく皆様に申し訳なく思っております。お見限りのないようによろしくお願いします。さて、今日は巨匠中の巨匠、Quincy Jones の1971年のアルバム "Smackwater Jack" のお話をしたいと思います。ちょっと大げさかもしれませんが、このアルバムは私の音楽人生の原点です。私がJazzピアノを弾き始め、やがて作曲やアレンジに向かっていった、そのすべての始まりがこのアルバムにあります。

小学校5年生のときです。当時「鬼警部アイアサイド(原題"Ironside")」というアメリカの刑事ドラマがテレビで放映されていました。父親も私も好きで、毎週見ていました。この番組のテーマ曲を含むすべての音楽が実はQuincyの手によるものだったのです。まずは、テーマ曲のシングル盤(今はなきドーナツ盤ですね)を買ってもらいました。気分としては、人気番組のシングルを買うというぐらいだったのですが、フルバージョンのアイアンサイドのテーマはもう衝撃的にかっこよかったのです。シングル盤のジャケットの解説に書かれているクインシーとはいったい何者なのか?(シングルのジャケット写真はアイアンサイド警部だった)。もう絶対に色々と聴きたくなってお小遣いを何ヶ月分も前借りしてアルバムを買ったのでした。これが、初めて買った Jazzのレコードで、その後も Quincy のアルバムは全部買い続けることになるのでした。

買ったアルバムを聴いてまたびっくり。今まで聴いたこともないようなかっこいいアレンジ、そして未知の楽器の音が満ちあふれているではないですか!まず、ホーンセクションの素晴らしさにノックアウトされました。実際、金管でCEGBD#F#と重ねた和音を平行移動させる鮮烈なハーモニーは米国のJazzアレンジャー達の間で「アイアンサイド和音」と呼ばれるほど斬新だったそうです。私は中学校に進んでブラスバンドに入りましたが、その大きな理由はこのめちゃめちゃかっこいいホーンセクションへの憧れです。

ソリストを見ると、フルートはヒューバート・ローズ、トランペットはフレディ・ハバード、サックスはフィル・ウッズ等々、といった名前が。鍵盤奏者にはジョー・サンプル、ボブ・ジェームス、デーブ・グルーシン、それにジミー・スミスといった顔ぶれです。ウッドベースはレイ・ブラウン、Eベースはチャック・レイニー。ドラムはグラディ・テイト。ハーモニカはトゥーツ・シールマン。後にこれが凄い顔ぶれであったことを知る訳ですが、もう悪いはずがありません。「このピアノがもっと聴きたい」、「ベースがしびれるなー」といった調子でこのアルバムに参加しているミュージシャンをたどって聴き始めたのが、様々なJazz/Fusion系ミュージシャンを知るきっかけになったのでした。

新しい楽器も沢山知りました。「ピアノの後ろで鳴っている左右に揺れる音はローズ・ピアノ、ゆったりとうねるのはハモンド・オルガン、そして不思議な音を出すのはどうやらムーグって言うらしい...」大きな楽器店に行くと現物が飾ってあり店員さんにお願いしてちょっとだけ弾かせてもらいました。「おおーあのレコードの音だ!でもめちゃめちゃ高いなー!」。やがて大学生になると土方やピアノ弾きで稼いだお金を全部つぎ込んでこういった楽器を買い、フュージョンバンドの一員として毎日弾くようなるわけです。

このアルバムの中で、もっとも鮮烈だったのはマービン・ゲイの名曲である "What's Going On" (試聴リンク
WMA, RealPlayer)をカバーしたものです。そのアレンジの素晴らしいセンスは何度聴いても新鮮です。Quincy Jones の "Smackwater Jack" は、私のサウンド作りのDNA(原体験)です。

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