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2ビートのらくらく背泳ぎ


2年前くらいから始めた背泳は、当初、私にとって決して楽な泳ぎではなかった。仰向けだから楽かとだろうと思いきや、バタ足では疲れ、顔には水がかかって、呼吸も楽ではない。いろいろな泳ぎ方も試してみた。プルの軌跡、リカバリーの方法、キックのやり方。そのうちに、みるみる楽になっていった。タイムも最速25秒(25m)くらいになった。今では、何キロ泳いでも苦にならない。結局、一番楽な形で落ち着いたのが、やはり2ビートであった。

ここで紹介する泳法は、漕ぐイメージでなく、水の抵抗を少なくして、水の上を滑っていく感じで、身体の動きが止まっている時間が長いものだ。したがって、余裕がもてるので、ピッチも緩急自在にコントロールできる泳法である。

名前をつけないと具合が悪いので、ここでは、とりあえず「らくらく背泳ぎ」と呼んでおこう。

私が通常泳ぐらくらく背泳ぎは、25mを13ストローク、35秒くらいである。もっと速く泳ぐときは、プルに力を入れ、より遠くに手を伸ばすと30秒くらいに縮まる。もっと速くするには、プルのピッチをもう少し上げる。

ここでは、2ビートのゆっくり、らくらく背泳ぎを紹介しよう。


1. 下肢を浮かせる

らくらく背泳ぎで一番大事なのは姿勢であり、足を浮かせることである。

ここで紹介するどの泳法も同じではあるが、肝心要は、下肢を浮かせることである。それでなければ、身体が斜めになって、モーターボートのようにキックで頑張らねばならなくなる。そうなると、疲れるし、自由なピッチコントロールもできない。それでは、ラクにならないのだ。

しかし、あお向けになって、ぷかっと浮かべば、だんだん下肢が沈んでくる。では、どうするか?

完全にぷかっと浮いて沈まずにいられるというのは修練を要するだろうが、そこそこに困らない程度にはできるようになる。そのうちに、キックすらなくても泳げるようになる。

基本原則はクロールと変わらず、重心を前にもってくることである。だが、背泳ぎでは、それなりの工夫が必要のようだ。ではどのようにしたら良いのだろうか?


図1 リラックスしている時
図2 肋骨を引き上げる
図3 肋骨の中に胃をしまう

(1) 肋骨を上げる

背泳では、浮き沈みは原則としてしないので、いつも胸郭を広げておくことが、下肢を浮かせるための、一番効果的な方法である。それゆえ、肋骨を引き上げて、胃を肋骨の中にしまうように努力する。

すでにクロールで説明したが、図1から図2のように、肋骨を持ち上げれば、肩甲骨ともども肺の周りの骨や筋肉が前に移動し、重心も前に移動する。同時に、肺が膨らむことによって、身体全体も浮きやすくなる。そして、浮力の中心より重心が前に来れば、下肢が浮き、上体が沈むという原理だ。


(2) 腹筋を締める

図3のように、胃を肋骨の中にしまうようにすると、腹部を締める結果となる。特に腹を細くするように腹の横の筋肉(腹斜筋)を使う。そのことによって、内臓が上に移動するので重心がもっと前に移動する。また、これにより、姿勢がまっすぐになり、水流の抵抗が減る。できれば少しくの字になるつもりで締める。足が落ちそうになったら、少しひざを緩めても良いので腰を反らせないこと。また、顎を少し引きぎみにすれば、頭の重さでも下肢が少し持ち上がる。船形にするくらいが良い。そうするために胃を肋骨の中にしまうのである。

バタ足は、すればするほど、下肢の血流量が増し、下肢が重くなることに留意する必要がある。それゆえ、私は2ビートにしているし、あまり使わないこともある。さらに、プールに入る前に、プールサイドで、腰を下ろし、足を中空に上げてぶらぶらゆすり、血液を上体のほうに集めることで、足を軽くするのも良い。


(3) 腕の重さを利用する

上記の(1)(2)だけで水平に浮くことができない場合は、腕の重さも利用しよう。できるだけ、腕を前方に長く置いておくのだ。つまり、プルを始める前にできるだけリカバリーしてしまうということだ。残念だが、私はそれができず、ラクにならないので、左右の腕はほぼ反対方向に動かしている。要するに、プルとリカバリーを同時に始めるのだ。ローリングも滑らかになって良い。

原則は以上である。これを実践して、らくに下肢を浮かせる方法を、それぞれの個性にあった泳ぎとして開発していただければよいと思うが、肩関節の可動域が狭く、腕が身体の延長上に伸びずに腕が前方上方の視野にとどまっている私は、私なりに工夫していることもあるので、参考までに、そのコツを以下に紹介しておく。


2. らくらく背泳ぎの流れ

一旦プールの壁を蹴って、仰向けに蹴伸びし、前方に伸ばした両手のうち、まず、左手をどのようにでも一掻きした後で、右にローリングし、着水した右手をプルすることから始めよう。この時、左の手の平は大腿の横でプールの底を向いている。私のローリングは大きい。なぜなら、肩関節の可動域が狭いために、ローリングを大きく取らないと手が着水しないのだ。


(1) 腕や肩の動き

図4 キャッチ
図5 前腕が胸の前に倒れる
図6 後方に前腕を押しこむ

右腕を一旦脱力する。私の腕は既に前方斜めに着水しているので、水流を斜めに受けている。したがって、これがキャッチになっているが、脱力すると、腕がフック状または三日月状になって、図4のように、はっきりとしたキャッチとなる。この時、その腕は、野球で言えば、オーバースローのでボールを投げる格好にある。


この時、重要なことは腕を肩の後ろに持っていかないことだ。つまり、上腕は万歳をするときの方向であって肩にねじれがおこらないようにする。この一旦ゆるめた状態の腕を使って、今度は水を掴んで腕相撲の動きで肩甲骨と一体に腕のフックの形を変えずに胸の前に倒し、そのまま後方に押しこみ、最後は大腿の裏に水を軽く捨てよう。

この腕相撲の動きの前半は、最初は、あたかも、腕相撲に負けて、手の甲がテーブルに押し付けられたた状態から始まり、ここから起死回生の巻き返しを行うがごとくである。

水の深い位置で、肩を上に持ち上げると、図5のように、前腕が胸の前に倒れてくる。そのときキックが入り、身体がローリングを始め、身体が上を向く間に後半のプルで、図6のように、後方に前腕を押しこむ。前半のプルは、リカバリーの腕を高く保つ働きをするが、後半と最後のスナップは、身体を滑らかにローリングさせる助けにもなる。

さて、重要なことだが、この一連の動きは外旋した腕が戻されて内旋しきるまで過程ではあるのだが、実は、腕だけで行う動きになってはならない。どんなスポーツでも、腕に力を入れて動かす時には体幹と一体で動かすと大きな力を発揮する。そのためには、腕を肩甲骨に固定するような気持ちで肩甲骨から動かすことだ。

言葉を代えて、繰り返して説明するが、プルの最初で腕を緩めたとき、その時の肩甲骨は後ろに押し付けられて背中にめり込んだような状態であると思う。その肩甲骨を持ち上げつつ前に回転させるのだ。そうすると、自然と右腕のフックは右の肩をすくめたような状態で蟹の手のように目の高さに水平になるまで降りてくる。ここまでが、腕相撲の前半である。

後半は、肩を押し下げる。これにより前腕が水平になったまま腰まで降りるはずだ。後は、余力で軽く大腿の裏に向かって軽くスナップするだけだ。

この一連の動きは、滑らかに、水の抵抗を心地良く感じながら行うことが大事だ。また、これは、三頭筋などの腕の力でなされるものではなく、大胸筋や体幹の筋肉が不自然な姿勢を通常に戻す動きなので、ラクなのである。結果的に、フックになった前腕の角度は、進行方向に対して90度に保たれて腹まで押し下げられることが確認できるだろう。これは、ストレートなプルになるので、キックなしでも下肢がブレることはない。

ところで、私は身体の機構上、大きなローリングをし、また、これを活用している。しかし、あまりローリングしない人には、同じようなプルはできないだろう。手が空中に出てしまうからだ。その場合は、真横に腕を伸ばしてボートのオールのように漕ぐことになるのだろう。それで疲れず、関節も傷めないのであれば、それでも良いが、そもそも、そういう方には、私の泳ぎは参考にならないかもしれない。

さて、今、右腕をプルしたわけであるが、私はこの肩甲骨の動きにジワーッと力を入れる。また、これと同時に、左腕をリカバリーする。リカバリーのタイミングは、重心を前に保つためには、もっと早いほうが良いのだろう。

しかし、私にとっては、力を入れるタイミングが分散するのがうっとおしいので、プルとリカバリーを同時に始めている。後述するが、それでも、十分、下肢を浮かせる方法があるからだ。

リカバリーは、プルの反作用として左肩から振りぬくように腕を一気に持ち上げて、勢い良く上方に振り上げる。真上までのスピードは速いほうがよい。その方が、重心の移動が早くなるほかに、腕の重さを利用した慣性による推力が後半に働くからである。

しかし、あまり速いリカバリーは、ロボットのようだと、評判が悪いこともあり、私は、実際には、ゆったりとしたリカバリーをすることが多い。

プルは肩を上から下まで下ろす動作であるが、これを実現するための反作用として、もう一方のリカバリーする肩が高く上がる。私のらくらく背泳ぎでは、プルとリカバリー(及びキック)が同時に終わったこの状態で、ローリングが反対向きに戻りながら、しばらく滑っていく。

さて、問題は、それで下肢が沈まないかであるが、そこで、上方に振りぬいた腕の去就がそれを左右するのである。

ここからは私の独自の方式となるだろう。実は、そのリカバリーの腕を、私は、図7のように、水面に降ろさずにしばらく留め置くのである。それはなぜか?

図7 リカバリーの腕を残す

当初から記しているが、私の肩はかたく、前方に振り切って伸ばした腕は、身体の線から150度ほどしか開かない。180度開けば腕は水面に落ちるが、私の場合は、落とそうと思っても落ちないのだ。それゆえ、「降ろさずに」とは書いたが、実際は「降りずに」残っているのである。もちろん、ローリングにしたがって、肩は水没しては行くのだが、最終的に前腕が完全に水没するまでは時間がかかる。

腕を抜いた時点では、右へのローリングが最大になっているはずである。そして、空中に残った左腕の重さと、大腿の横での右手のスナップによって、上体が凭れかかるように左へのローリングが開始される。

左肩を肩甲骨ごと目一杯前方に伸ばすことに留意しつつ、やがて左手の甲が着水する。この時、この腕が空中に長く残っていることが、実は非常に役立っているのだ。この重さ自体が、浮力の中心を支点にして下肢を持ち上げる効果を担っているのである。したがって、ここでは身体をまっすぐに保つ、あるいは、むしろ、背を若干丸め気味にするような気持ちで腹筋を締めることが肝要である。そうして導かれるゆっくりしたローリングの過程で、長い時間、頭から前方に滑りこんでいくような爽快な伸びが感じられる。

この機構は、ストロークの間隔を自由にとることができる。下肢がコントロールされているからである。それゆえ、まだ、足に言及していないが、2ビートでも、6ビートでも、キックなしでも、目的に応じて、どのようなキックを使うかは自由であるし、非常にゆっくりしたリズムであれ、速いリズムであれ、いわば、思うままにできる。

私は通常、リズムとして、4拍子をとる場合は、1で動作をほぼ終え、2、3、4で空中に残った腕でローリングを沈めていき、ゆっくり伸びる。

ともあれ、腕が空中にある時間は安心して伸びていられるのだ。この滑る感触は非常にゆったりと気持ちが良い。ラクなのである。

一連の片側の腕の動きはこれで終了し、今度は左腕をゆるめ、反対側のプルとリカバリーが始まる。

この「ゆるめる」一瞬は、非常に重要だ。確実に、手の甲に水流を感じるまで待ってから、プルを始めことだ。

これが、「キャッチ」となるわけだが、1ストロークの伸びが大きく違ってくる。キックなしでも、このキャッチは忘れずに行って欲しい。


(2) 足の動き

上記で説明したように、らくらく背泳ぎでは、足はご随意にしていただければ良いのであるが、ここでは2ビートを推奨しておこう。というのは、キックなしよりは、はるかにリズム感が得られるし、ローリングも加速することができるし、後方へのプッシュにもなるからである。

キックのタイミングは、プルで力をこめる時、その腕と対角の足を蹴る。すなわち、力を込めるタイミングは、プル、リカバリー、キックが同時である。その方が、わかりやすいし、力を入れやすい。逆に言うと、動きは一瞬であり、その他の時間は殆ど弛緩しているのである。だから、疲れず、ラクなのである。

図8 キックした後、左右の足首を重ねる

さて、具体的な蹴り方に触れよう。クロールの場合には両足を揃えた位置からするどくしなやかなキックを繰り出したのに対し、ここでは、少し膝をゆるめて、足首が後方に下がった状態で蹴る。膝は常に接しているほうが良い。ローリングの最大期であるから、蹴る足は上側(水面に近い方)で、蹴る方向は横斜め上となる。もし、ローリングが大きければ、ほぼ横(コースロープの方向)に蹴ることになろう。これが次のローリングを速くする効果を生む。蹴った後は、ローリングが進むので、結果的に内股気味に蹴ったような形となり、蹴った足は、もう一方の足首の上に交差することになる。その交差した左右の足首を、図8のように、きちっと重ねてしばらくグライドするのがとても良い。これは、姿勢を真っ直ぐ安定させると共に、足回りの水流を滑らかにし、ローリングもスムーズに進行させる効果がある。

もっと楽にするためには、次節で説明するが、煽り足のように両足で前後に挟むように蹴るのもよい。推進力も増加する。

それゆえ、ゆっくりロールしたいときには、自分の足首の柔軟性と相談して、なるべく後方に蹴るような角度を工夫したらよいだろう。また、速度を上げたい時や、好き好きで、4、6とビートを増やすのも悪くない。しかし、疲れるような蹴りになるようであったら、それは、らくらくスイミングの趣旨ではないので、やめたほうが良いだろう。


(3) 息継ぎ

息継ぎについては、上を向いているのだからいつでもできる。しかし、冒頭に、一番大事なこととして、肋骨を持ち上げることを書いた。これを実行するためには、やはりいい加減に呼吸しないほうがよい。常に肋骨を上げ、膨らました肺を維持しようという努力が大事なのだ。そのためには、息継ぎのタイミングを決めて、例えば、右側のプルの時と決めて、素早く行ったほうが良い。もちろん胸郭を広げたままなので、吐く息は肺の半分ほどとなるが、これにはすぐ慣れる。

既に触れたが、この泳ぎでは、まっすぐ天井を向くよりも、若干顎を引き気味にしたほうがよい。そのほうが、顔が水没しにくく、身体も反りにくいし、頭の重みの反作用で下肢の浮きを支える効果があるからだ。しかし、顔に水がかかるのは、ある程度しかたがないものだから、これに対しては、鼻からはほんの少しずつ息を吐くようにするとよい。


もっとらくに泳げる煽り足


もし、第1節で紹介した泳ぎで、まだ、2ビートに慣れないという方に、お奨めしたいキックを紹介しよう。

それは、「煽り足」を使うことだ。

煽り足は、おそらく、キックとは呼ばないのだろう。前後に挟むものであるからだ。

これを使うことにより、らくらく背泳ぎが、もっとラクになる。しかも、これは、2ビートへの導入練習にもなるのである。

それでは、以下に、動作の説明を簡単にしておこう。


1. 足の動作

煽り足は、足を前後に大きく開き、これを閉じることによって推力を得る。

古式泳法や横泳ぎ等の「伸し」などでは、コースロープに向かうように身体を横たえて、煽り足を使う。このとき、開く足は上の足を前に、下の足を後ろに開く。

らくらく背泳ぎでは、その逆、つまり、ロールしたときの、上の足を後ろに、下の足を前に開くこととしよう。その方が、ローリングを助けることになる。

その動作は3拍子だ。

小さい煽り足(下を前)

(1)膝を曲げて、踵を尻に近づける。

(2)前後に開く

(3)閉じる


最初は、この3動作を意識してやってみると良い。慣れれば、滑らかに動かし、もっと慣れれば、開く幅を狭くしていく。


2. プルとの連携

説明するまでもないが、以下のとおり。

煽り足は横を向いて行うので、必然的に、下側の腕がプルの腕となる。

その方法は、腕相撲の動きだが、詳細は、前節で説明したとおりである。

プルと煽り足(そして、もう一方の腕のリカバリー)を同時に終えたら、暫くは動作を止めて滑っていく時間だ。リカバリーは、少なくとも天頂までは迅速に、あとはゆっくり下ろす。この、ゆっくり下ろす間が滑って行く時間だ。ロールが戻って、リカバリーの手が着水したら、逆側のコースロープに対面しているはずだ。

今度は、足の開きを逆にして煽り足を行う。


3. 評価・総論、2ビートへの移行

私にとって、らくらく背泳ぎは気持ちの良い泳ぎである。うつ伏せの泳ぎに飽きたり、疲れたりしたら、らくらく背泳ぎをする。焼き魚に限らず、人間だって表を焼いたら、裏も焼いたほうが良い。おかげで、私は全身真っ黒である。このラクチンさをまだ味わっていない方には、是非、もっと楽になる煽り足を使ってみて欲しい。

煽り足は、動作がゆっくりと明確である。そして、推進力も大きい。それゆえ、かなり泳ぎがラクになるはずである。ただし、力は2ビートより多めに使うであろう。ラクというのは、この場合、余裕ができるという意味である。

ただし、前後に開く足の開き加減を大きくすると、開いた時に減速することと、力を多めに使うことになるだろう。従って、初めは、動作を確認するために3拍子で煽る方が良いが、踝の引きつけは次第に小さくし、開き加減も小さくして様子を見て欲しい。そして、この煽り足の幅を、だんだん狭くしていって見て欲しい。どうなるか?

どんどん、らくらく背泳ぎの2ビートに近くなるのである。この煽り足を小さくすれば自然と2ビート内股キックになっていくのだ。そして、蹴った後、足首を重ねて静かに滑って行くことができるようになる。

ところで、このラクチンな煽り足での泳速であるが、抵抗と推進が相殺されて、普通の2ビートと同じか、少し速いくらいであろう。あとは、ご自分の個性に合わせた開き加減で、一番ラクで速い点を見つけていただければ良い。

ところで、煽り足を使用しても、背泳ルールには抵触しないはずである。もっとも、ラクな水泳を楽しみたい方で、競技を目指す方は、まず、おられないとは思うが。




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