序論・随想  らくな泳ぎの基本  らくな4泳法  楽しい泳法  泳ぎの理論  身体に故障がある時

らくらくバタフライ


実は、私にとってのバタフライは、他の泳法と比較すれば、ラクな泳ぎではない。そもそも、バタフライを、それなりに豪快に格好良く泳ごうとすると、結構疲れる。世の中には何キロも連続して泳がれる方もおられるようだが、私にとっては、50m以上続けて泳ごうという気力は、あまり、湧いてこない。それゆえ、ここに泳法を紹介するのは、おこがましいであろうし、また、還暦スイマーが無理してやることでもないように思う。

しかし、バタフライは豪快だ。イルカみたいだ。とても、爽快感がある。それに、水泳仲間たちは、私のバタフライを見て、綺麗でかっこいいとおだててくれる。

ということもあるので、とにかく、現在の私の泳ぎ方で、いかに楽に泳ぐかという工夫を、とりあえず紹介しておこうと思う。また、バタフライの動きは、他の泳ぎにとっても実に重要で、上体の浮き沈みを練習する上では格好の泳ぎであるし、特に平泳ぎでは、同じ動きでうねる。また、別途紹介するオリジナル泳法にも欠かせない基礎ともなるので、やはり、触れて置いたほうが良いようだ。

それに、泳法違反を気にしないのであれば、らくにできるバタフライもあるので、興味がある方にはお薦めしたい。

私が泳ぐバタフライは、プルのやり方2種類とキックのタイミング3種類の組み合わせで大きく分けて4種類ほどある。なお、既に述べたように、私は、胸と腕を一直線にできないので、腕を前方に水面と並行に伸ばすことが難しい。それゆえ、一般のバタフライのような伸びができない泳ぎであることをご承知いただきたい。

私のバタフライのピッチ及び速度は、25mを壁を蹴ってひと蹴りしてから、8ストローク、25〜30秒くらいである。


1. 上半身の動き

まず、蹴伸びしたあとのように、水中を前に滑って行くときは、胸を張って、手のひらを下に向け、まっすぐ並行に伸ばしている。ここからプルが始まるが、その方法は、私の場合、大きく2つに分かれる。


(1) スカルを入れる場合

  • スカルあり。キックはプルと同期
  • 減速してきたら目線を上げ、浮き上がりつつ、手のひらを若干外側に開き、数十センチほど外側にスカル(掌を横斜め後方に向けて横向きに動かす)をする。

    次に、頭と上体、腕の力を抜いて、内側にスカルをする。このとき両手、両腕はクロールの時の円月形のキャッチの姿勢となる。このときは、力を抜くので、目線はプール底に落ち、背中は丸まり気味となる。

    そして、キックを入れて、一気にプルするのだが、斜め後方へそして横へと円月形に水面に腕を抜いていく。この腕を抜く直前に息を吐き、抜いた瞬間に顔が水面から離れるので、下を向いたまま、息をすばやく吸って、頭を落とす。腕は横に水平に手のひらを水面に向けて前方に両腕をそろえて頭と一緒に着水する。

    リカバリーの動作は体重を前に前に出すためにすばやく、かつリラックスして行う。両腕を大きく開くために、胸もリラックスして大きく広げられるが、前方に突き込む時には、胸から落ちないように、前へと背中を丸めて飛び込む。

  • 図1 体全体を弧状にして、足首を空中に残す
  • 水に入ったら、再び胸を張って前に滑り込むが、このとき、目線をあげ、体全体を弧状にして、足首を空中に残す。この残った足が、上体を強く浮かす力を生む。こうして、一旦、確実に胸を沈めることが、きれいにうねるコツであり、浮き上がりの加速を生むコツだ。

    ただし、これは、肩が固い筆者などにとって、楽で浮き上がりやすい方法として薦めるものだ。

    というのは、足先を空中に残す方法は、見たとおり、身体の重心となる腹や腰の部分が上下してしまうからである。

    速く泳ぐための鉄則は、重心が滑らかに平行移動している方が良いに決まっている。それゆえ、肩や上体の柔らかい人であれば、足先を空中に残すのではなく、腰から足先まで、すっかり力を抜いて水平に浮かし、下半身を引きずるように上体だけでうねるのが良いであろう。

    特に推奨したいのは、肋骨を引き上げて、胸腔を大きくすることだ。こうすると、格段に軽く、浮き上がってくる。腹も締まって無駄な反りもなくなる。難しくない、とても楽になるので、非常におすすめだ。

    腕の軌跡は、前半のスカルを含めて、滑らかなS字(左手)となる。

    この一連の上体の動きは、速く律動的に行って上体で水を縫うこともできるし、できるだけゆっくり、水の抵抗を確かめながら行うこともできる。課題は、疲労のコントロールと息継ぎができるだけの首の高さを確保することだ。これは、速度との相談だ。前へ前へと勢い良く進めば、息継ぎには問題がない。ゆっくりと、泳ぐ場合は、前に飛び込んだ時に、ある程度、胸をしっかり沈めてから胸を張り、足首を空中に残すと、浮き上がる力が大きくなる。前者は格好はよいが、疲労の度合いが増すであろう。また、後者は、少しまったりしてくるだろう。個性に応じて、その度合いを決めることになろう。


    (2) スカルを入れない場合

  • スカルなし。キックはプルと同期
  • 大きく息を吸って、前方にドボンとイルカみたいに飛び込んだところから説明を始めよう。もちろん、肋骨は引き上げているほうが良い。浮力が大きく違う。水中を前に伸びて、胸を張り、減速してきたら目線を上げ、浮き上がってきたら、身体は反らないように真っ直ぐ伸ばしたまま、プルに入る。キックも同時だ。

    動きは、両手の力を一旦抜いて、手の平だけ招き猫にし、やおら、腕を、跳び箱に手を突いて飛び出す気持ちで、下向きに両腕を平行にしたまま弧を描いて腹筋を締め広背筋でプルする。真下を過ぎたらすぐ左右に分けて横に腕を抜き、手の平を下にして、すばやく前方に水面すれすれに前方に落とす。腹筋を締め広背筋でプルすると、背中が丸くなるはずだ。

    腕を抜く前に(少なくとも意識的には)、下を向いたまま、息継ぎをすませてしまう。力を抜いて、すばやく腕を振り戻すことによって、障害物を越えるように前方に跳び込む。このプルは上から見ると「ハの字」だが、実際は水を深く抉る円弧を描いており、揚力も使っているので、上体が持ち上げられる。

    プルは身体と直角になった時点で、横に弧を描いてリリースをすること。これにより、飛び込みに間に合うだけのリカバリーと推力を確保する。横に弧を描くときは、揚力を得るように、抵抗を確かめながら、あわてずにゆっくり行う。力を込め、腹も締めるのは、プルを始めて真下までの間だ。あとは、全てリラックスして行う。


    2. 下肢の動き

    下肢やキックの動きは、上体の動きに引きずられて自然に決まる。頭から足までの水流を感じつつ、イルカになったつもりになればよいのである。通常は、前方に飛び込む瞬間と、プルの瞬間にキックが入ることになろう。プルの時のキックは、できるだけ腹筋に力を入れて身体をまっすぐにしよう。上体を立てないようにするためだ。なお、空中に残した足は、水没するまでキックを打たないこと。

    キックは、若干内股に締めるように打つ。

    前方に飛び込む瞬間は、極めて自然に打たれるが、その他の、キックのタイミングは、あえて、意識的に打つ時を選択することもできる。


    (1) プルと同期させてキックする

    これは、一般的なキックである。腹筋に力を入れて、プル(スカルを含め)と同時に打つキックは極めて自然である。

    しかし、実は、これは、速度を上げるには良いのだけれど、疲れやすくもなるのだ。

    だから、もし、
    とてもらくなバタフライをお望みの方には、プルに合わせたキックは、行わないことを薦める

    要するに、キックは、腕をリカバーするときだけに留めるのだ。すなわち、腕を前に振り出す時だけにする。さらに、らくにしたければ、腕については、その振り出す先は、ゼロポジション、つまり、斜め前に、万歳をする方向に振り出すのが良い。その瞬間にお尻を折るのだが、その時につられてキックが入る。キックと言っても、これは自然に打たれてしまうもので意識して打つものではない。こうして、前方に上体を投げ込んだ後は、首を挙げるように胸を張り、胸を沈める。あとは自然に身体を真っすぐに保つ。

    胸を張っているので、自然と頭が水面に向かう。そこで、水面に向かって、両腕の前腕で水を大きく内側に掻き込み、斜め後ろに薙ぎってすばやく前に振り出すだけだ。この時の動きは、真っすぐの身体を水面方向にスポンと抜き出すという感覚だ。くれぐれも、身体は真っすぐに、むしろ、下肢全体で、水を抑えているといった感じかもしれない。ゆっくりやれば、必ず、頭は水面に出るので、息は楽に吸える。波も殆ど立たない。

    この、「とてもらくらく」の方法をとる場合は、このページの他の所は読み捨てていただければ良いでしょう。


    (2) プル前にキックを行う

  • スカルあり。キックをプル前に入れ、3回目も軽く入れる
  • 一旦、前に飛び込んで、胸を張る直前に、一度ドルフィンキックを行う方法もある。これは、壁を蹴った後に水中で行うドルフィンキックと同様のものであり、水中での推進力を加えるものである。(但し、競技では、常に身体の一部を水面に出していなければならないので、これをやれば泳法違反である。)

    このキックを打った後は、しばらく水中を滑っていく時間をとる。とりわけ、ゆっくり、泳ぐ場合は、このキックが有効である。

    次に、プルを行うときに、もう一度、(1)のキックを入れることもできる。1ストロークで3回もキックを打つと、その分の体力は使うが、浮上する力強さは増すし、余裕が生まれる。この時のプルは、ゆっくりした、スカルを入れたものでよいだろう。

    プル時にキックを行わなければ、プルは、キックなしで、身体を引きずるように行うことになる。その場合も、スカルを入れたほうが浮きやすく、楽だろう。


    3. 頭の位置と息継ぎ

    効率よく前進するためには、頭の位置は、頭頂部をまっすぐ前に向けているのが良い。

    快調に飛ばすときには、頭を水平に保つ意識を持つのが良い。あたかも、ヘビが、頭で真っ直ぐリードしながら、身体をくねらせて前進の手がかりを作って進むようにである。バタフライでは、リラックスして胸の張りと引っ込めの波を引きずりながら、まっすぐ前にリードしていくということだ。いずれにせよ、頭の位置は、身体を引きずる方向に向けることが原則だ。

    しかし、息継ぎに関して、これは、ある程度泳速が上がっていないと辛い。というのは、下を向いたまま息を吸うのは、規則正しく安定して浮き上がってこないと、なかなか難しいし、呼吸に失敗すると苦しくなるからだ。

    だから、お奨めするわけではないが、まだ、下向きで息継ぎがしにくい人は、頭を上げても良いと思う。ただし、単に鎌首をもたげてしまうと、胸を反ってしまうし、そうすると、前進力を失い、胸から落ちて水の抵抗を大きく受けてしまうので、プルの終わった瞬間に息を吐き、息継ぎを手早く済ませてしまう。

    それでも苦しいという場合に、どうするかだが、最もラクに上体を浮かせることができるのは、やはり、図1のように、前方に飛び込んで直ぐに体全体を半円形に反ることだ。そうすれば、足首が空中に残って、その重力で、反対側の頭が早く水上に向かう。

    首を上げている時は首が緊張していおり、肩の動きも悪くなるので、スムーズに腕が前に送れない。腕が遅れれば、当然、前に飛び込む角度を取れずに、胸から落ちてしまう。早くリラックスしながら飛び込みたい。

    なお、何度も言及したが、私の場合、水に真っ直ぐ浮かんで腕を前に伸ばしたとき、腕が水面と平行にならず、30度くらい下方に落ちてしまう。それでは潜ってしまうので、それを持ち上げて無理に平行にすれば、大きく胸を張ってしまう。だから、実際は、少し肘を曲げて、手先を持ち上げるよう工夫をしている。


    4. バタフライのまとめ

    バタフライの苦手な人の泳ぎでは、最初は良くても、だんだん、顔が上がらなくなり、また、胸から落ちて大きな抵抗になっていく泳ぎを、よく見かける。

    これは、上体が上がりにくかったり、息継ぎが遅くなって、胸から落ちるようになり、その結果、水を縫う動きが阻害されてしまうのが原因だと思われる。

    そのためには、息継ぎがラクであること、早めに息つぎができること、充分高い位置エネルギーを確保して、重力を利用してこれを前方への推力に変えていくことが大事だと思う。

  • 図2 頭から水を縫うように飛び込む
  • 図3 体全体を弧状にして、足首を空中に残す
  • 図4 プルは腹まで、横に腋を開いて、すばやくリカバリー

  • >これを確保するためには、このらくらくバタフライでは、つぎの3項目を重視している。


    (1)水を縫うように、確実に前方に頭から飛び込むこと(図2)


    (2)水上に早く、ラクに、飛び出すために、肺の浮力を活かすよう、しっかり胸を沈ませ、上方への身体の回転を加速するために、身体の曲線を形成して、足首を空中に残してその重さを活用すること(図3)


    (3)腕や手の平の角度で、スカルやプルにおいて揚力を活用し、腹筋と広背筋を使って、余裕を持って、上体を水上に押し上げること。そして、プルは、腹までにして、横に腋を開いて、すばやくリカバリーすること(図4)


    プルだけで水上に飛び出るのは、かなり疲れる。それゆえ、深みから浮力を利用し、身体を円弧にしてブリをつけなければ、われら還暦スイマーにとって、やっていけそうもない。ゆっくり泳げば、それだけ、胸を深く沈めるようにすることだ。

    以上の泳ぎは、どれにしても、ラクはラクだが、私自身は、50m以上は余り泳ぐ気がしないというのが本音のところだ。しかし、いずれ距離を伸ばして行きたいとは思っている。ひとえに、まだ、私の修練が足りない。

    どれだけ力を使うか、どのような形でプルするかについては、速度や、かっこ良さ、距離などに依る。目的と手段を、それぞれの方の個性に合わせて選んでほしい。

    この泳ぎで、らくに泳げるテンポやスピードは、25mを、壁を軽く蹴って、9ストローク、30秒くらいである。潜水3キックでは、グライドが長いので、5ストロークくらいである。

    もちろん、もっと、緩急をつけることもできる。しかし、速くすれば、やはり、それだけ息が切れる。もっとゆっくりという場合には、深く胸を沈めなければならないし、あまり、息継ぎの間隔が長くなっても、苦しくなってくる。

    バタフライの練習で、特におすすめしたいのが、片手バタフライだ。片手だけで泳ぐと、うねらないと進まない。このうねりは、どの泳法にも通じるところがある。これによって、格段にバタフライが楽に、楽しくなるだろう。

    プルより大分前にキックを入れると、必然的に潜行することになるだろう。競泳のバタフライのルールでは、常に、体の一部が水面に出ていなければならない。しかし、レースに出ないのであれば、ルールに縛られることもない。

    そうであれば、バタフライの豪快なうねりをそのままに、もっと、楽に泳げる方法もある。片手バタフライもそうだが、斜めバタフライや時間差バタフライ、さらに、やぎロールへと、オリジナル泳法への道が開けている。これらは、「楽しい泳法」編で説明しているので参照願いたい。



    last modified