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らくらく平泳ぎ


私の平泳ぎは、早さにこだわらず、ゆっくり泳ぎたい人や、特に、ひざや股関節、腰が痛くなる方にはお奨めである。
ゆっくり泳いで、壁を軽く蹴って、25mを9ストローク前後、35秒くらいの泳ぎ方である。力を入れて、ピッチを上げれば25秒程度までは上げられる。


1. 足の蹴り

平泳ぎをする人は多いが、膝や股関節、そして長く泳げば腰が痛くなるようになってくる方はおられないだろうか。私には、その傾向があった。
私の股関節や膝関節は、あまり可動範囲が広くない。特に、お姉さん座りといわれている、膝から下の脚を外側に出して、ペタンと座るようなことはとてもできない。
それゆえ、膝から下にの脚に変な力が入らないようにするために、蹴り方を、より強い力の出る単純な脚の動きに変更した。それは、極めて単純な動きだ。
地上での動きで説明するならば、軽く脚を開いた自然体で、身体を前に倒さないように留意しつつ、そのまま腰を落とし、飛び上がるという動作だ。
水中で、おしりの後ろに引きつけ逆ハの字になった足が内旋しながら、つまりこの場合はまっすぐになりながら膝が伸びていく。この時意識するのは、股関節を内側に締めることと、反らないように腹筋も締めることだ。
これにより、腰から下はまっすぐに水面と並行に伸びる。この動きにより、股関節や腰に痛みが生じることがなくなる。
便宜上、このキックをジャンプキックと呼んでおこう。


2. 上体の動きと足の連動

  • らくらく平泳ぎ
  • 胸の前で拝むように合わせた手を、蹴り始めると同時に、すばやく、まっすぐ前方に、肩甲骨を前方に押し出すようにして突き込む。この時、頭を両腕の中に一旦沈めこむ。上体は一旦沈み込むが水中を縫うように、すぐに頭を上げつつ胸を張って前方に伸びる。これが、水中で、長く滑っていく時間となる。
    速度が緩んできたら、一旦、身体を弛緩させ、腕をゆるめ、円月泳法のように腕全体で円を作る。この時、手の甲をハの字に上に向ける。既に、上体は浮き上がりつつあり、遅い速度では下肢が沈もうとしているので、この手の甲には下肢の沈みを押し留めるような水を押す感覚があるはずである。これが、沈もうとしている下肢を沈めないための工夫でもあるが、変則的であるが、両腕のキャッチの瞬間ともなる。
    この感覚を得たら、すかさずプルに入る。両手で、 ぶら下がった崖の上に身体を引き上げるように前腕を立てるようにしながら、心臓あたりまでの小さな円を両手で描き、最後は、開いている両脇を一気に閉じ、両手を胸の前に合わせる。その時までに、頭は、斜め上方に向かって一直線に頭をまっすぐにしたまま、水上に突き出るので、水上に出る直前に一気に息を吐いてから吸う。
    私のプルの手首の軌跡は、正五角形という印象だ。
    足は、水上に出るまで、なるべく我慢して伸ばしたまま、上体が水上に出て位置エネルギーを 稼いでいる時に自然にかかとをおしりの下に引きつける。足首も曲げる。この時の足の開き加減は、人それぞれで良く、次の蹴りが滞りなくできれば形は問わない。ただ、大腿を引きつけると水流の抵抗を受けるので、なるべく身体は平らのほうが良い。細かいことを言えば、足首も曲げると足の甲に水流の抵抗を感じるはずで、これが足のキャッチとなる。
    最高点を過ぎる瞬間に、できるだけ速やかに両手を突き込みながら上体を前方に滑りこませる。頭は、突きこんだ両腕の中に埋める。下肢は、跳び上がる動作と形容したように、ジャンプキックで股関節を締めるように蹴る。部屋の壁に踵と背中をつけて、しゃがんで立つような意識であれば、踵や膝の位置が股関節に対して適切なところになるはずだ。


    3. 一連の動作の特徴

    この泳ぎの推進力は、重力を使った上体のうねり、立てた前腕のプルと脇の閉じ、股関節を閉じながらの足の裏の蹴りの3つである。
    姿勢は、胸が浮沈するうねりはあるが、基本的に水平であり、特に下肢は水面近くにしなやかに浮いている。この姿勢は、肋骨を引き上げ、胃をしまう意識が高まるほど安定する。
    そして、ジャンプキックにより、腰が浮き気味になるようにし、反らないようにすることだ。そうすれば腰を痛めることもない。また、ジャンプキックは、自分のためにも良いだけでなく、ジムのプールでは、対抗泳者を蹴るおそれが少ないという長所があるのが嬉しい。
    力は、そこそこに入れることもできるし、全体に緩慢に泳ぐこともできる。これは、好みの問題だ。脇を締める力が小さければ、上体の水面に出る程度が小さくなる。しかし、全体の一連の動きの形は変えないように留意していただきたい。ゆっくり、25mを7ストロークくらいで泳ぐのも良し、ピッチを早くして泳ぐのも良し、息を止めていられる長さにも個人差があろう。私は、今、蹴り1、伸び2、掻き1の4拍子で泳いでいる。


    らくらく円月平泳ぎ


  • らくらく円月平泳ぎ
  • まったりした動きで、らくちんに泳げる平泳ぎを紹介しよう。
    平泳ぎは、平易であるように思えるが、スピードを出すとなると、結構大変だ。また、前節の泳ぎ方でも、そんなにラクじゃないと思う方もおられるかもしれない。
    そんな方は、もっとまったり泳げるようにしよう。
    それゆえ、ねらいは、泳速を上げることにはない。25mを30秒くらいで泳げるが、反対に、泳速はどんなにでも遅くできる。遅いと、身体はあまり浮かないものだが、この泳ぎでは浮く。だから、どん な泳速でもラクに優雅に泳げること請け合いである。
    名称を、「らくらく円月平泳ぎ」としておこう。
    前節の「らくらく平泳ぎ」との違いは、腕の動きだけである。したがって、まずは、前節を読んでおいて頂きたい。


    1. 膝を痛めない足の蹴り

    前節で説明したジャンプキックを使う。股関節や膝関節の可動範囲があまり広くない人にお奨めしたい蹴りである。


    2. 円月泳法のプルを応用

    らくらく平泳ぎのプルでは、力は込めない。まったりが原則だ。
    蹴ると同時に、胸の前で拝むように合わせた手を、まっすぐ前の方向に押し出す。この時は、頭を両腕の中に一旦沈めこむ。上体は一旦沈み込むが水中を縫うように、すぐに頭を上げつつ胸を張って前方に伸びる。
    速度が緩んできたら、腕をゆるめ、円月泳法のように腕全体で円を作る。この時、手の甲をハの字に上に向ける。この時、手の甲には少し水を水面に向かって押す感覚があるはずである。これが、両腕のキャッチの瞬間である。これには、若干下肢を浮かす効果もある。
    この感覚を得たらプルに入る。これから描く手の平の軌跡は、そう、ちょうど、ハートを逆さにした形だ。
    前節の泳ぎでは、前腕を立てて引いて、両脇を一気に閉じたが、今度の方法は、ゆっくりと回すのだ。回す方向は、クロールの円月泳法で内回しで円を描いたのに対し、これは外回しだ。

  • 巨大な中華鍋の内側を撫でるように
  • つまり、ハの字に置いた両手を、それぞれ外側に、太極拳の動きのように優雅に回す。その時、手の平は、あたかも、直径1mくらいの巨大な中華鍋などの内側を撫でるように回すのである。特に、最後のハート型のおしりの部分では、手の平が下方に向いて、お互いの手の平が斜めに向き合って水を挟んでいく感じをゆっくり味わって欲しい。
    そうして、両手を胸の前に合わせると、手の動きによる揚力で、上体が斜め上方に向かって自然に水上に出る。
    ゆっくりした動きだが、息継ぎには問題ないはずだ。水上に出る直前に一気に息を吐いてから吸う。
    もし、前進の効率を上げたいならば、プル開始時には前腕を水底に少し垂らして立てるようにすればよい。最後の仕上げは、やはり、大皿の壁塗りだ。ともあれ、この円形プルで形成される45度ほどの迎角は経済的なのである。前腕を立てる角度は、どれくらい推力を増すかという匙加減だ。


    3. 足の引きつけから次の蹴りへ

    基本的に、前節と同じであるが、全体の動きがゆっくりであり、上下動がより小さくなる。すべての水の抵抗を、やさしく感じながら、ゆっくり、上体をうねらせて、水を縫って頂きたい。リズムは、蹴り1、伸び1、掻き1の3拍子が適当だろう。


    4. なぜ、ゆっくり掻けるのか

    前節で紹介した平泳ぎや通常の平泳ぎのプルは、前腕を立てた泳ぎであり、水の抵抗の抗力を利用するものである。それゆえ、うまくキャッチし、泳速より速い速度でプルしなければならない。しかし、同じ動作を、ゆっくり行っても、水がつかめずスコンと抜けてしまい、身体が浮かない。
    そこで、プル全体のやり方を変えて、艫やスクリューのような揚力中心のものに換え、上体を浮かす力に使うのだ。従って、腕による前進は、あまり期待できない。
    この泳ぎでは、巨大な中華鍋の内側を撫でるようにすると形容したが、このような気持ちで手を動かすと、水流を横に切っていく動きとなり、これにより、前進と上体を浮かす方向に働く揚力が得られる。
    また、この動きは、水流の速さに負けずにプルすることに比較して、ゆっくりとした動きでも、じわっと、水の抵抗を感じることができる。ハートの半円を描く間、水に対して、粘土の大きな陶器の内壁を整形していくような、均一な抵抗を感じることだろう。
    このようにして、円月泳法を応用すると、ゆっくりと、力まず、そこそこの泳速で、平泳ぎを楽しむことができる。





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