西山谷

日時 2008-7-22 場所 兵庫県神戸市(六甲山) 天候 快晴 32℃(神戸市)
工程 JR住吉駅 → 渦森台 → 西山谷 → 油コブシ経由高羽道 → 六甲ケーブル下 → JR六甲道駅
時間 西山谷 約4.5時間、全工程7時間 平面距離 km
私的
分類
道程:[前半] ウキウキ系 明るい 体力系 [後半] うっそう系 体力系

本サイトでは、方向を指す場合の右・左の記述は、自分の進行方向に対する方向を意味します。

初めて行った六甲山の沢である芦屋地獄谷が、思った以上に楽しく、味をしめた我々は、芦屋地獄谷から3日と開けずして次なる六甲山の沢を目指した。しかしこの谷で六甲山の沢ハイカーの前に立ちはだかる、「堰堤越え」の洗礼を受けることになる(泣。

概要

数々の滝はスケールもそこそこで、水量も多く見ごたえがある。沢は清涼感があり、明るく変化に富んでいる。かといって我々のようなシロウトに遡行できないほど難しくなく、簡単すぎることもない。神戸の街の近くにこんな楽しい渓谷があるとは驚きである。

── ただ、すべての問題は「堰堤」にある。

堰堤は沢の流れを分断するだけでなく、涼しい風の流れも、景観も、遡行の楽しさも問答無用で分断する。そんな堰堤がこの谷には10近くあり、後半になってくると沢を遡行するために堰を越えているのか、堰を越える事が目的で沢に居るのか、というくらい堰堤が連続する。

そんな訳で、堰堤を越えて遡行するのは大変ではあるけど、これらの堰堤越えを強いられても余りある魅力が、この谷にはあると思う。

・ 今回自分達が遡行したルート:西山谷遡行図 (PDF 184KB)

ルート

JR住吉駅前のバス停から、8:49発の38系統渦森台行きのバスに乗り込む。
終点で下車したけど、それだと登山道入り口から遠くなるので、1つ手前の「渦森台4丁目」で降りるのが正解(西山谷遡行図参照)。
この日、神戸市の最高気温は32℃。バスを降りた9:00過ぎにはすでに30℃を越えている。炎天下のなか死にそうになりながら、住宅街を抜けて9:40AM「千丈谷第一堰堤」にたどり着く。

いくつかのウェブページには、「寒天橋」を遡行開始地点としているが、どうせすぐにこの堰堤に突き当たり、巻かなくてはいけないので、この千丈谷第一堰堤にまっすぐアクセスできる、住宅街を抜けるルートがいいと思う。

上記の看板を見て左に進むと、広い川原に出る。BBQの跡があり「猪に餌を与えないで」の看板がある。休日には行楽客で賑わうのかも。この日は人も猪も誰も居ない。
川原の終点、草木に覆われる地点で右手の山肌の踏み跡を登る。すぐに前方に堰堤が見えてくる。本日最初の「堰堤越え」。この時点ではそれほど苦に感じることも無く、やがて始まるはずの遡行の期待でウキウキ状態である。

山の斜面に続くそこそこ険しい踏み跡を辿って、2つ目の堰堤(第3堰堤)を越える。このあたりから、小滝が見え隠れし始め、谷は渓谷の様相を示し始めた。すぐに沢に降りても良かったのだけど、先達の情報に従い、F3滝下までそのまま進む。

沢は充分な水量があり、景観もよく、芦屋地獄谷にくらべてスケールが大きく開放的。沢に降りれば気温もぐっと下がり、一気に汗も引き、心地いい。

10:10AM。2条に流れ落ちるF3滝に到着。
最初に面と向かう滝としては迫力も充分でなかなかなもの。この後の沢に期待がもてる。
この滝は左手から巻き、滝の上流地点で渓流シューズに履き替えた。

沢シュー(渓流シューズ)を履いてしまえば、こっちのものである。水を得た魚とは、まさしくこの事。ザブザブと沢の真ん中を進み、小滝くらいなら滝肌を直登。若干、小岩が多くゴーロ状になっていて、“美しい沢”とは言えないけど、木漏れ陽で明るく、木陰が涼しい気持ちの良い沢が続く。

ただ、難を言えば異様に蜘蛛の巣が多かった。かなりの長い期間、沢を直接遡上する人がいなかったのかも?狭くなった箇所には必ずといっていいほど蜘蛛の巣が“群生”している。かなり巨大なものが一層、二層と何層にもなって張り巡らされていて、時々蜘蛛の巣にまともに顔を突っ込んで悲鳴を上げてしまう。悲鳴を上げたいのは蜘蛛の方だとは思うが・・・。

10:30AM、深いゴルジュの奥に落ち込む「ふるさとの滝」到着。
写真だと遠近感があるために小さく見えるが、ずっと奥の方に滝があり実際にはかなり大きい。この岩の間に入ってみると霧が舞い、虹がかかりとても幻想的。
この滝は左手の岩場を巻いて登る。

ふるさとの滝上流部は、滑のある岩場がちな沢となって、またウキウキである。
岩壁から水が染み出している箇所があり、パイプが差し込まれていて、ご丁寧にコップまでぶら下がっている。
ちょっと飲むのは抵抗があるが、頭から被る分には冷たくてかなり気持ちいい。

ちなみに、2007年の神戸市環境局の六甲山渓流水質調査では調査対象の川の中では、西山谷の水は住吉川に続く水質の良さである。だからと言って飲用していいとかそういうわけではないので注意。須磨海岸なんかで「海水飲んじゃった!」とかいって、お腹を壊さない人は多分大丈夫だろうけど。

沢の楽しさを満喫しながらしばらく進むと、巨大な堰堤が眼前に現れる。
第5堰堤である。注意しなくてはいけないのが、堰堤番号。この堰堤は下流から数えると4つ目なのに、番号は5。この第5堰堤の次にくる堰堤が第4堰堤で、その次が第6堰堤となる。昭文社の「山と高原地図48六甲・摩耶」のルート図でもウェブの情報でも、この順番になっている。
西山谷を紹介する文書では、堰堤番号とその前後の関係で説明している場合が多く、この堰堤番号がテレコになっている事を理解していないと分からなくなってしまうので注意。

第5堰堤越えは、堰堤の少し手前の左手の崖を直登することになる。崖には鎖が架かっているが、下手にそれに頼り切るのは危険。充分注意してゆっくり登れば登れなくもない。

第5堰堤を左から越えるとすぐに沢に降りる。これも結構険しい。ロープがあるのでこれを頼りに、滑落しないよう注意して沢に降りる。

沢に降りたら、西山大滝までは難所なし。ややうっそうとした雰囲気になり、蜘蛛の巣も盛大に張り巡らされている。ここでもザブザブと沢を遡上。沢を直接遡上すると、無駄な巻き道を通る必要も無く、また気温も低く、体力も気持ちも消耗が少ない。

しばらくすると、遠方にかなり大きな滝が木々の間に見え隠れし始める。小滝を直登しながら、次第に大きくなる落水音に胸が弾む。

11:00AM。落差20mの西山大滝に到達。

大滝という名にふさわしく、水量豊かで落差が大きく、豪快な滝。滝前の空間も広く開放的で気持ちがいい。
この滝は左の滝肌を登るが、最上部は沢シューを持ってしても滑りやすく、ホールド箇所も少なく結構危険。
大きく左に巻くルートもあるようなので安全を考えたら、そちらがいいかも。2006年には、山岳会のパーティがこの滝で滑落死亡事故を起こしている。この事故に関しては、このサイトに書いてある事がなかなか興味深い。

西山大滝の上流も相変わらず小滝が続き、落水音と流水音によるサウンドスケープに包まれながら、時々蜘蛛の巣にも包まれつつ、気持ちよく遡上する。

そんな中、ふと沢の涼しさが低下し、なんとなく蒸し暑さを感じる。
見上げてみると巨大なコンクリートの壁が眼前を塞ぐ。第4堰堤に到達である。
先程からずっとそうだけど、堰の近くは気温が高い。水の流れのみならず、風の流れも遮断されているからだと思う。
さらに堰直下の水は、堰の上流側に溜まった温められた水だから、という気もする。

この堰堤は堰の壁際の左手の崖を登る。登った後は赤テープに従い、沢に降りる。この下りもそこそこ険しいので注意。

第4堰堤の上流側は、さっきとはうって変わって静寂な穏やかな沢となる。この辺りには難所は何も無い。例によって開放的な空間と清涼感のある沢、冷気を吐き出す変化に富んだ小滝の連続に満足しながら先に進む。

しかし、この爽快感もすぐに堰にはばまれてしまう。第6堰堤に突き当たる。

第6堰堤を左側から巻いて越えた後、多くのルートマップ(ここに掲載している西山谷遡行図も含め)は、左の谷筋に入り込むように大きく巻くルートを取っているが、第6堰堤を越えたら、またすぐに沢に降りてしまってもいいらしい。

いずれにしても、本筋から離れすぎないよう注意して、赤レンガ風の第7堰堤を目指して進んだ。

第7堰堤は、西山谷の本筋にかかる堰堤ではない。第7堰堤の下流で西山谷本筋と第7堰堤のかかる支流との合流地点があり、西山谷本筋を忠実に辿れば、第7堰堤の支流に踏み入れることは無いので、この堰堤を目にすること無く通り過ぎる事になる。

実は、自分達は最初は本筋を辿って、その合流地点を越え、そのまま本筋の次の堰堤まで進んだ。

この合流地点は小ぶりな堰の上流側にあって、相当な堆積があり、泥沼と化している。
この泥沼の切れ目の川原に降り立ち、ズブズブと泥に沈む足元に気を付けながら、生い茂った背丈以上の草を掻き分け、何とか本筋の沢が出てくるまで突き進む。
そこから本筋の沢を進むが、切り立った崖に挟まれ、傾斜もきつい。大きな岩が積み重なり、今までとはうってかわって暗くうっそうとした感じ。沢は狭くなり、蜘蛛の巣のコロニーになっていて、全然楽しくない。

それに比べたら「赤レンガ風」というだけで、なんだか楽しそうな第7堰堤経由のルートの方がいいのではないだろうか?

そんなこんなで、自分達は第7堰堤を見たかったので、一旦戻って第7堰堤に向かった。第7堰堤にたどり着いた時点で、時間は12:50。
この堰堤の真ん中には写真でもわかるように、通り道がある。ルートとしてはこの堰の向うには行かないので、通り抜ける必要は全く無いのだけど、何があるのか見ずには済まないのが性(サガ)というやつで・・・。

この堰堤を過ぎた後は、谷は急激に傾斜が増し、連なる堰堤を急勾配の巻き道で延々と越えていく事を強いられる。堰を越えたと思ったらすぐに次の堰が現れる状態。すっかり沢筋からは離れ、ずっと上の方を高巻くため気温が高く滝のように汗が流れる。例によって蜘蛛の巣地獄で、この辺りで疲労困憊となる。

すっかりくたびれて、そうめん滝に到達したのは、13:30頃。

やっとここでお昼にする。ただ、そうめん滝周辺も傾斜がきつく、荷物を置くスペースもない。滝前は倒木が折り重なっていてかなり荒れている。このロケーションでのお昼は気が進まなかったが、時間も時間だしこの先がどうなっているのか良く分からなかったので、沢の真ん中の岩に無理矢理腰掛けてお昼を食べる。

やはり滝前は寒いくらいに涼しく、お昼を食べているうちに、気力体力とも復活。そうめん滝は、滝の左面を登る。難所は無いが上部になるとかなり高度感があるので、慎重に登る。ここも少し下流から右に巻く道があるようである。

その後、そうめん滝上流の6~8m程度の滝を直登し、愛情の滝まで沢を進む。この辺りは相変わらず暗くうっそうとしているが、第7堰堤からそうめん滝までの道程を考えたら天国だ。西山谷最後の遡上を楽しんで、愛情の滝で遡行終了とした。

愛情の滝下で、トラックシューズに履き替え、愛情の滝直下の右側の崖をトラロープを頼りに上る。ここはかなり傾斜があり、一部、つないであるロープを使って腕の力だけで登らなくてはいけない箇所がある。
あとは、赤テープと踏み跡を辿って、延々と山道を進む。途中、沢に降り立つルートがあり一旦沢におりて少し進むと、右に曲がった先の岩に囲まれた狭い空間に小さな滝が流れ落ちている。これは多くのルートマップで西山谷遡行の最後の滝と紹介されている滝だろう。

その後、沢に降りた地点に戻って再び踏み跡を辿ること、20分程度で、唐突にサンライズドライブウェイに、ガサゴソっと藪を掻き分けて出ることになる。
時間は15:00。

この後は、「喫茶店」という看板に吸い寄せされるように、一旦六甲ケーブル山上駅まで歩いていったが何処に喫茶店があるのか分からず、結局ケーブルの駅で少し休んだ後、油コブシ経由で下山する。

この道も平易で木陰が多く涼しい。真夏に登山なんて考えられなかったが、これなら気持ちがいいくらい。ただし下りだから、という事もあるだろうけど。

西山谷は、こんな都会の近くで思いもよらない秘境感を味わう事ができ、ぜひもう一度訪れたい場所である。一方でどうしてこれほどまで堰堤が必要なのか、強い疑問が残った。支流も入れれば15以上もある。これほど良い谷が人知れず堰堤で埋め尽くされていってしまうのかと思うと本当に残念だ。

なお、六甲山の砂防事業は、国土交通省の直轄の事業である。[参考]